38話:二度あることは三度あると言うけれど四度目がきっとありそうで気が気じゃないよね?
空路で僅か一時間ほど。
大魔王城に還って来てたサテラさんのブラスティアブースターと言う名のジェット機に乗せられてシルヴェスの城の上空でポイと投げ落とされてしまった。うん、航空便にしてももう少し丁寧に送ってくれると思うんだ、ぼかぁ!!
『真人様ならこの程度問題ないと思われますので。はい、あとは頑張ってください』
耳につけてくれてたヘッドホンからは何でか不満そうな声。俺、何か悪い事したかな?したのかな?なんだか覚えがありすぎて怖いな!……後で土下座しておこう。うん、そうしよう。
サテラさんが今忙しく動き回っているのは、ユウシャに関連しているらしい。
詳しくは聴けなかったのだけれども、勇者教の動きが活発になっていて、各所の魔王が次々と討伐され始め、魔の国同士での協力関係を結ぶために各所に走り回っているのだと言う。確かに最近きな臭い話が多く聞こえてくる。ヴォルガイアの一件も然り、うちの領に攻め込んできたバアルの国――エスティリアも勇者教が一枚噛んでいた。そして、今回のシルヴェスもそうだ。勇者教は魔王たちの国へと入り込み、弱体化させ、制圧してしまおうとしていた訳だ。
これはもはや勇者と魔王の戦いではなく、勇者教と魔王たちの戦いなのだ。
が、ほとんどの魔王はいわゆる、一代成り上がり社長のようなもので、取りまとめて協力関係を結ぼうとしても、大体が調子に乗っている奴らばかりで協調性の欠片すらない連中な訳で、とっても苦労しているのだそうだ。うん、大変だな?
ボロボロになってしまっている風の大精霊が祀られていた祠の辺りに、風を纏って着地する。うん、風の精霊が木札を通さなくても話を聞いてくれるようになってくれてるんだけど、これって……。
「はい、私と契約を結んだことになっているせいですね!」
振り向くといつの間にやらウエンディさんの姿の大精霊ウインディア様がそこにいた。うん、昨日ぶりですね!でも、急に話しかけないで欲しいなって!びっくりするなぁ、もう。……うん?ちょっと待ってね?ええと、誰と、誰と契約を結んだのかな?俺まだ上空から落ちてきたばかりで気圧抜きが上手くいっていないのかよく聞き取れなかったんだよ?はは、耳にバナナが入ってるわけじゃ無いんだけどね?
「ふふ、そのお話は後にしましょう。ええ、らしい格好で送り出していただけたようですし、主役がお待ちですから」
どういう事なのかなと聞き返すもナシのつぶての暖簾に腕押し糠に釘、全然話を聞いてくれなくて、まぁまぁまぁまぁと主賓室に押し込まれてしまった。
そこにいたのは――メガネをおしゃれに着こなしたサクラちゃんの姿がそこにあった。
「まーくん!お帰りなさい!」
「ただいまサクラちゃん。うん、すっっっっごく可愛い。結婚しよ?」
「はい!」
とっても可愛い笑顔でサクラちゃんが応えてくれる。ああ、なんて俺は幸せ者なんだろうか……。うん、何でか周りのロベリアちゃんとか勇者三人娘にライガーたち姫騎士のみんなの視線がとっても痛いけど気にしないことにしてしまおう。はい、ありがとうございます!!!
「うん、色々と待てよコラぁ!」
「はぁ、待てよと言われても困るんだけど……え、シルヴ何でそんな恰好してるのかな?」
肩と胸元を大胆に見せた純白のウエディングドレスを見事に着こなし、はちみつ色の髪を後ろにまとめて、まるでお姫様のような姿のシルヴがそこにいた。
うん、誰かと結婚するのかな?でもあの三賢龍は死んじゃったし、クレアちゃんのお父さんであるアルヴは恐らくはまだ魔石の状態から復活もできていないだろう。そのために自壊して魔石が砕ける前にジ・アンサーで自壊の魔紋ごと切り破って倒したんだし?そうなると、必然的に答えが定まっていく。うん、とっても考えたくないけれども、そういう事なのだろう。
「は、はは逃げてもいいかな?」
「責任取ってくれるって言ったのはどこの誰だったかな?」
「はは、誰だったかなぁ!はい、俺ですごめんなさい!」
思わず膝と頭を地面につける。これは故郷の伝統的謝罪術――つまりはDOGEZAである。
「はぁ、そんなにボクと結婚するのは嫌かい?ボクはもう覚悟を決めたのに」
そういうシルヴの顔は何だか晴れやかで、とても美しかった。
「嫌じゃあないんだけど、うん。むしろ覚悟は決めていた訳だし、でもいきなりこういうのは……はっ!?そう言えば何で俺白タキシードなんて着させられてるのかなって思ってたら、そのために白タキシードだったの!?イメチェンの為かと思ってたよ!」
「イメチェンで白タキシードなんて着る訳ないだろ!まったく、切れ者のようでどこかボケてるよな、真人って」
そう言ってくすくすとシルヴは笑う。
「ああそれと、ボクの名前も変わることになったんだ。と言っても少しだけだけどね」
「というと?」
「シルヴィアだってさ。命名は姉さんズ」
シルヴィアとは、ラテン語では森と言う意味をもち、ギリシア神話に登場する清楚で美しい森の精霊の名でもあった。うん、絶対につけたの菜乃花さんだよね!あっちの世界の知識なんてウエンディさんが知ってるわけ無いし?うん、なんだか偏った知識で知ってそうな気がするけど、きっと気のせいだな!
「今の姿に逢っていて、うん、まぁ、その、綺麗な名前だと思うぞ?」
「そ、そうか?元の名前をモジって女の子っぽくしただけにボクは思えてならなかったんだけどなぁ……」
頬を赤らめ、もじもじとなんだかうれしそうな顔でシルヴ……シルヴィアは目を泳がせた。ああもう、認める。認めるよ!可愛いよ!可愛いさ!こんちくしょう……。
「ねぇ、何で真人さんないてるのかにゃ?」
「あれは認めたく無かったことを認めてしまったからなのよ。ああ、尊い……」
首を傾げるクロエに一生懸命に林檎ちゃんがどういう事か説明しているのが耳に入る。うん、BLじゃあないからね!俺ホモじゃないから!ホモじゃあないんだ……!これはそう、可愛くなったシルヴィアが悪い。うん、そういう事にしておこう。
「あれ?そうなると真人様がこの国の領主という事で……つまり魔王という事に?」
「いやいや、流石にそれは無いよロベリアちゃん。うん、無いよね?」
ギギギ、とドアのところに立ちふさがるように立っているウエンディさんの方を見てみる。
「領主、と言う意味では真人さんが当てはまることにはなるのですが、残念ながら真人さんは魔石が体の中にはございません。ですので、奥方になられるシルヴィアが代理魔王という事になりますね」
つまりは、魔王と言う立場は回避できたけれども、この国のトップになることには変わりはないらしい。
「アルヴの魔石から元々ボクの魔力だった分は取り戻せる予定だからね。以前までに戻るまでにはは少し時間がかかるだろうけど、少しはましになるとは思う。まぁ、難しい話はそろそろここまでにしておこう。そろそろ、主賓のボクらの出番を待ちわびた魔王たちが痺れを切らす頃だろうしね」
「え、ま、まさかこのまま結婚式を!?」
と少し残念そうな顔でシルヴィアが自分のおでこを人差し指で抑える。
「そうしたいところだったんだけど、オウカ様とお前との結婚より早くするわけにもいかないからな。今回は婚約記念、という事だけだ」
そう言うとシルヴィアが俺の腕をつかみ、逆の腕をサクラちゃんがつかむ。
ああ、これってもうどうにも逃げられないんだなぁ。妹よ、兄ちゃんはいつの間にやら三人目のお嫁さんをもらう事になってしまいました。うん、絶対にバレたら嫌われるなこれ!
……そして婚約披露パーティーの最中、いつの間にか俺のお膝にフレアが座っていたのは言うまでもない。
予定は8日でしたが、前日に書き上げれたので予約でそっと置いておきま((( ˘ω˘)スヤァ