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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第五章:勇者な執事と白き龍の招待状。そう、絶望が俺のゴールだ!
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36話:三つ子の魂百までって馬鹿は死んでも変わらないって言ってるのと同じだよね?

 空の上。その遥か上へで闇夜に染まり始めた天空にて二つの影が高速にて剣閃を散らす。



 彼の上着をぎゅっと握り。ボクはただ、ただ空を見上げる。

 アルヴが今回の一件のすべてを仕込んだのだと言った。けれども、どうにもボクにはそれがトンと腑に落ちていなかった。


「アレはアレで彼が考え抜いた結論だったのだそうですよ?」

「……全部知っていたのか」


 振り向くことなくボクはその声に応える。


「ええ、すべて知っていましたとも。私を誰だと思っているんですか?」

「ええと、異世界の魔女さんと一緒にBL本にド嵌った大精霊様?」

「まって、その認識は違います。確かに、その、綺麗な美青年やら美少年やらのくんず、ほぐれつは……その、まぁ、ええと、嫌いでは無いのですけれども、違いますから!」


 何が違わないのかと、なんだかため息が出る。昔から姉さんは――この大精霊様はこんな感じだった。人に非ざる美しさと荘厳さ、そして莫大な力を持つこの国の根幹に根差す彼女は……結局のところ、どこにでもいる一人の女性に他ならなかったのだ。


「……あれもまた、ボクの為だったの?」

「そうだ、と言って信じることはできますか?」


 その言葉にボクは迷うことなく首を縦に振る。彼ならば、アルヴならばきっとそうする。自らを、家族を、自分の関わる他の総てを犠牲にしてでもエルフ領、強いてはこの国の為ならばそれくらいの事はやってのける男なのだから。

 だからこそ、ボクは彼を参謀に招いた。

 森の奥の奥、エルフの里でひっそりと暮らしていたエルフである彼を。


「男の子って馬鹿だですよね。自分で勝手に決めて、自分でやりぬいて、それで勝手に散っていっちゃうんですから」

「それってボクの事言ってるのかな!?」

「ふふん、誰の事でしょうね?」


 意地悪に、にっこりと姉さんがほほ笑んだ。うん、いくつになってもこの人に勝てる気がしない。


「となれば、菜乃花姉さんもグルなんだね?」

「ええ、まぁ大体は……ね。三賢龍たちに勇者が刻んだ魔紋をパワーアップさせてあげるーだなんて言って改造したのは菜乃花ですし?」


 だとすれば、話が見えてくる。


――結局のところ、ボクは賢龍共にしてやられていた訳だ。


 だから、アルヴはこの道を選ばざるを得なかった。


 自らを、家族を、その周り全てを、親友であったボクの信頼すらも犠牲にして。


「ホンっと、何で莫迦なんだ、アイツは……」


 空に溢れる閃光が涙で滲む。アルヴは昔からそうだった。ボクが小さいころから友人で、成人した後も、参謀になった後も、ボクに尽くしてくれた。


 ボクこそがこの国を立て直す鍵なのだと。この国の最後の希望なのだと。


――けれど、その希望はボクの敗北で砕けて散ってしまった。


 ボクがもっと強ければよかったのだろうか?


 それとも、あの勇者に――真人に挑んだことが間違いだったのだろうか?


「答えなんてありません。過ぎ去った過去は変えられません。変えられるとすれば……それこそ、神の御業しかありえません」


 うん、さらりと神ならできるって言ってるね!出来るとしてもやることはあり得ませんが、と姉さんは続ける。曰く、神々での協定での取り決めでそうなってるらしい。神様も雁字搦めって、生きづらい世の中だなぁ……。


「だからこそ神々は勇者を送り出しているんです。この世界に干渉できる唯一の手段として」


 けれども、肝心の彼らは自分勝手ば身勝手で、てんでいう事を聞いているように見えない。うん、勇者教って神様をあがめさせているようで自分たちを崇拝させるつもりで立ててるみたいだし。


「それで、その勇者たちは弱体化したこの領に目をつけていた訳だ」

「はい。それが貴方が死んで、表面化したという訳です」


 ああ、つまるところは――ボクが原因じゃあないか。それならば、ボクの死を利用してアルヴが決起すればよかったのだ。こんな姿(少女)になってしまったボクなんて見捨てて――


「それが出来る男なら最初からそうしています。シルヴ、貴女は彼にとって……本当に最後の希望だったのですから」


 ふわりと風が舞い、閃光が闇夜を切り裂く。けれども、その光は小さな点にかき消され、新たにまた流れ星のように光が散った。


「彼を救う手立ては一つだけ。魔紋が発動し、彼が崩壊する前に殺し切ること。ただの勇者であればまず今の彼を倒すことはまず叶わないでしょう。見たところ、シルヴの全盛期クラスのようですから」

「だけど、真人はボクを倒した勇者だ。だから――ううん、ボクは真人の事を信じているんだ。身勝手なボクの願いなのだろうけど、信じている。だって、アイツは人の為の勇者でも魔を倒すための勇者でもなく、誰かを救うために戦う――正真正銘の勇者なんだから」


 三つの月を背にして、小さな、本当に小さな影が大きな影を穿った。――今のは!?


「さて、そろそろ終わりのようですね。ええ、落ちてきますよ?」

「お、落ちて……まさか、アイツ!」


 翼を動かした瞬間、激痛が駆け巡る。そう、ボクの翼はタリウスに砕かれ、広げる事すらままならない。だから飛びたくても――


「いけるいける!諦めたらそこで終了だよ!」

「へ?」


 淡い光がボクを包み込み――気づけばボクの羽は綺麗に元通りに戻っていた。


「何とか間に合ったようですね。どうやらギリギリのようですが?」


 そこにいたのは小さなメイドさん。そして――


「ええ、残念ながら私は飛べません。飛んで抱き留めに言ってあげたいところですができないんです」


 銀色のキラキラとした髪が月明りに揺らす、絵画のように美しいその少女。


 大魔王の娘にして、魔王。氷結魔王オウカその人であった。顔合わせずらいな!


「そして、勇者林檎もここに推参!ふふん、私の能力で直したんだよ!欠損があったらダメなんだけどね!うん、無いから大丈夫!飛べるよ?」


 ふんすふんす、と何だか見知らぬポニテの少女が胸を張っている。うん、本当にどちら様かな?


「だから勇者林檎だってぇ!かりんー聞いてないよこの人ぉ!」

「あーはいはい。気にしたら負けだかんなー」


 なでなでと何だか勝気そうな少女に慰められている。うーん、本当に知らない子だ。


 けれども――確かにあれほど辛かった体の痛みはもう無い。翼も問題なく動く。


 空を見上げると小さな何かが落ちて行くるのがてとれた。ああもう、本当に仕方のない奴だ。


「まーくんの事、お願いしますね?」

「ああ、任せてもらおう。……本当に、ありがとう」



 そう言ってボクは空へ、空へと上る。


 目指すは高速で落ちて行く小さな火の玉。


 風に乗って、翼で風を生み出し、姉さんの力も借りて、高速を超えて――それでも彼に追いつけない。



 完全龍化さえできれば追いつけるのだろうが、ないものねだりは今更できやしない。己の魔石(いのち)を燃やして加速し――燃える彼を抱きしめた。焼ける痛みなど気にならない。彼は――ボロボロのコゲコゲで、体のほとんどが砕け散って尚――-アルヴの魔石を話すことなく抱きかかえていた。


「ばか、やろ……なん……で」


 声にならない声が聞こえた。


「うるさい莫迦。お前がバカだからだ!ばか、ばか、ばーか!」

「はは、なにいってっか……わかんねー」


 真人はもう何も聞こえていなくて、もう何も見えていないようだった。だから――だからボクはこう言ってやる。


「お前を好きになっちまったからだよ、莫迦」


 翼を広げ、ゆっくりとその速度を落として再び空を舞い、風が炎をかき消していった。


 空には満天の星空。そして三つの月が優し気に光を漏らす。







「ああ、きこえた……さ。はは、へんなかおだ――」


 そう言って、ザラリ、と塩となって真人は消えた。――赤い魔石をボクの腕に残して。


「聞こえているなら、そう言いやがれ、莫迦……!」


 ポロポロと涙を流しながら、彼に託された魔石をボクはぎゅっと抱きしめた。そこに残る――真人のぬくもりを感じながら。

もう一話で来たのでこっそりと( ˘ω˘)スヤァ

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