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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第五章:勇者な執事と白き龍の招待状。そう、絶望が俺のゴールだ!
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29話:海の近くで台風に遭遇すると何だか雨がしょっぱくなりがちだよね?

 壁にしこたまに打ち付けられて、ギシギシと体が悲鳴を上げている。うん、油断したとはいえ、あの風にはしてやられてしまったんだよ。

 ダウンバーストとかいう現象が元居た世界でも似たような現象がある。瞬間で風速七十メートルなんていうトラックすらも軽々と吹き飛ばす爆裂的な風を拭き下ろす一()()()()()()()()なのだけれど、今回の場合はどうやら勝手が違うようだった。


――それはまるで嵐の檻のようであった。

 

 轟々と吹き荒れる風は土埃を巻き上げながらシルヴと賢龍たちのいた場所を取り囲んでしまっている。あの風の檻に近づけば先ほどのように吹き飛ばされ、無理に中に入ろうとするならば体が風圧で四散してしまうだろう。これはシルヴでも三賢龍の仕業でもなく、間違いようもなく大精霊ウィンディアの仕業だろう。


「……これ、中に入っちゃ駄目なのかな?できれば中に入りたいのだけれど」

「んー、そうは言われましても、これはあの子が望んだことですので」


 困りましたね、という表情をしているのはいつの間にやらそこにいた自称、大精霊の巫女さんウエンディさんだった。


「望んで臨んで、結果は明らかだと思うのだけれども、それもわかっていて?」

「ええ、これがあの子の覚悟なのだそうです」


 静かな顔で、そう彼女は言ってのけた。


「なるほど、成程、理解した。これがアイツの覚悟と言うのなら、俺はその覚悟を踏みにじってやらないといけないってわけだ」


 拳をギシリと握りしめ、嵐の檻に向けて足を向ける。


「それをあの子が望まないとしても?」

「だとしても。俺が望んだ。俺が救いたいと思った。助けたいと思ったからね。うん、これは仕方ないんだよ」


 聖剣は使えない。アレは力を集約しすぎて全部を切り裂き吹き飛ばす可能性がある。鼓草もだめだ、アレは龍の刃。賢龍たちはどうでもいいとしても、シルヴを切り裂く可能性がある。


――ならば、答えは一つだった。


「偽善ですね。感謝も、理解すらもされないかもしれないのにその力を振るうのですか?」

「偽善と決めるのは他人さ。ああ、自分が(よし)と決めたならそれは(ぜん)なのさ」


 大きく息を吐き、石畳の大地をミシリと踏みしめる。


「ああもう、本当に自分勝手なのですね」

「そりゃあもう、人間ですから」


 籠めるは拳。己の中に有り余るその力を無遠慮に放り込んでいく。――ここに来て数か月、ようやっと新しい自分の体に慣れてきた。どこまでやれば壊れるかがやっとわかったと言う訳だ。うん、壊れても生き返っちゃうから気にせず壊してたら中々加減が掴めなかったんだよ!ぜいたくな悩みだよ、まったく。


「だから、自分がしたいようにさせていただきますよ、ウエンディさん。いいや――風の大精霊、ウィンディア様」

「貴方、いつから――」


 その答えを聞くまでもなく、石畳を踏み砕きあふれ出した力の総てを推進力にして己の体ごと音速を超える。


 振り放つは拳。


――無限流/無手/奥義ノ壱/穿・韋駄天


「ああああああああああああああああああああああああああ!!」


 体の総てを打ち砕かんとする爆裂的な暴風の、その一点を目掛けて弾丸の如く突き抜ける。


「だらしゃぁ!」


 風の壁を抜け、勢いのままに駆け抜ける。


――見えていた。空を舞い、崩れ落ちる彼女の姿を。


――ボロボロになって、血だらけになった、彼女の姿を。


 己が体が悲鳴を上げているのをすべて無視して、彼女の肩を抱きとめる。ああ、ぎりぎりだけど間に合った。


「……真人?」

「あいよ」


 小さな彼女の声に、手を取って答える。まったく、無茶しすぎなんじゃあないかな?いくら元は男とは言え、今は一人の女の子になってることを自分で忘れているんじゃあないかな?うん、だから前は隠してほしいな!色々と見えそうだし?うん、そんな気力も無いかな!


「貴様!神聖なる決闘を!一体何者だ!」


 叫ぶあの男。ええと誰だっけ?名前あんまり覚えてないんだよね!た、た?そう、確かタリスマンとかいう奴がこちらを睨みつけている。こいつがシルヴを痛めつけていたらしい。そう言えば筋肉マッチョが女の子を殴っていたぶる趣味があるのだと聞いていた。うん、本当に趣味悪いなこいつ!


 けれども、名を問われたのであれば相手が何者であったとしても答えてやらねばなるまい。



「何者かって?」


 そっと、力なく崩れるシルヴに上着をかけて、眼前のクソッタレどもに向き直す。


「俺は紛れもなく――勇者さ!」


 その言葉に男たちは指をさして笑う。

 うん、そう言うのって割と傷つくんだよ?学校で習わなかったかな?人を指さして笑うのって品が無いよって?ああ、そうか、品以前に学も無いから仕方ないか!なんて言って笑い返してやったらプッツンときた様子でこちらを睨み返してきた。

 やり返したらキレるってどこの昭和のヤンキーなのかなって思うけれども、こいつらはそれ以下のレベルなのだろう。だって、昭和のヤンキーって仁義とプライドは間違いなくあったんだよ?こいつらには仁も義も、プライドすらありゃしないし?


 だから、こいつらは魔王足りえない。ただの魔龍のなりそこないでしかない。


「そう言う訳だ出来損ないども」


 こいつらには聖剣も、鼓草も、木剣も、木札すらももったいない。


 だからシャツすらも脱ぎ捨てて、拳を構える。


「さぁ、手前らの覚悟を見せてみろ。ほら来いよ、三人がかりでな?お前らには己が体だけで充分だ」


 みるみると賢龍たちの顔が真っ赤に染まっていく。んんん?トマトかな?あんまり美味しくなさそうだけどね!

今日は早めに( ˘ω˘)スヤァ

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