21話:メロンって果物の王様とか言われてるけど実のところ野菜だよね?
「カクカクしかじか、まるめてごっくんという事でお願いできるかな?」
「真人のいう事はいつもよくわかんないけど、今日はことさらにわかんない。どゆこと?」
お城の中の客室の中でもとりわけ豪勢な客間の一つ。そこには綺麗に着飾ったフレアの姿がそこにはあった。小首をかしげていてなんとも可愛い。うん、可愛いのだけれども、その衣装ちょっと露出多くないかな?メロンがこぼれそうなんだけど?こう、ポロンって?
「うう、これはその、お母様に騙されたの。此処に来れば己の好きなだけ美味しいもの沢山食べれれるからって。パーティーに出るだけでいいからって言われて……」
もじもじと顔を真っ赤にして恥じらいの顔を見せる。あ、あれ?おかしいな。フレアって前まで裸を見られてもなんとも思わないような子だったのに。い、一体全体何がどうして!?
「むぅ、鈍感」
そう言ってほっぺたをつねられてしまう。うん、どうにも女の子の事に関しては鈍いんだよ。ごめんね?
「ええと、それで私たちはどう……」
黒兎の少女が小さな耳を伏せてこちらを覗き込む。放置してしまったから不安になってしまったらしい。
「まず紹介からだね。この子はフレア。うん、俺の婚約者さんでとってもかわいい次代の爆炎龍さんなんだよ」
「真人、その紹介は、すこし恥ずかしい」
うん、やっぱり反応が前よりも可愛くなってる気がするんだよ!二人きりの時は普通なのに?あれかな?他の子に見られるのは恥ずかしいとかそういうのかな!ううん、なるほど。これは中々に新鮮な……。
「話が進みませんので、惚気るのは後にしていただけると助かります」
腰に手を当てて、メイド服に身を包んだはちみつ色の髪の少女――クレアちゃんがこちらをジトで見てくれている。ふふ、ありがとうございます。
「なぜお礼を!?」
「気にしたら負け。真人だから仕方ない」
フレアがやれやれと首を振る。おかしいな、何か風評被害が広まっている気がする。はっ!これもまさかクライシスの……!おのれクライシス!
「まぁそれは置いといて」
「おいておくの!?くらい、何とかって何ですの!」
「この子たち三人をフレアの従者という事にしておいて欲しいんだよ。顔は見られたらまずいから、ベールで顔を隠してもらうんだけどね?うん、きちんと準備しておいたんだよ!」
どこからか拾ってきた布と生地でチクチクと縫い合わせておいたからね。うん、どこかの誰かさんには感謝してもしきれないんだよ?
「流石真人。無駄に器用」
「うん、フレア?それって褒めてるのか褒めてないのか微妙にわかりづらいな!」
俺のお膝にちょこんと座って、スリスリとご機嫌モードなフレアの頭をやわやわと撫でてあげる。婚約者さんだし、可愛いし、お願いするし、可愛いから何か今度きちんとお礼をしてあげておかなければならない。うん、また街に連れ出してデートとしゃれこむとしよう。……サクラちゃんにもしてあげないと!
「な、なんというか気の多い方ですのね……」
「本当は一筋で行きたかったんだけど、どうにもできなかったから仕方ないんだよ!俺は悪くぬぇ!まぁ、現状に満足してないかと言われればお仕事環境以外は大体満足なんだけどね?」
「真人、大体死んでるしね」
「どういうお仕事環境ですの!?」
ふふ、これはまたいい逸材を見つけてしまったのかもしれない。鳴らせば響く突っ込み役さんなんだよ!
「なんだかとっても不名誉な称号をいただいた気がしますわ」
クレアちゃんは長い耳を下に下げてフラりとよろける。
「うん、まだ体が戻ったばかりなんだから無理はしないようにね?お薬使ったとはいえまだ安静にしておいた方がいいんだよ」
「……私は、本当に……今、ここにいるのですよね?まだあの暗い地下室の中で、ゆっくりと体の総てをそぎ落とされて、光も、音も聞こえない、あの地獄の中にいるのではないのですよね?わ、私は・……」
肩を抱え、クレアちゃんはガタガタと歯を鳴らす。ただの少女が如何ほどの責め苦を受けていたのだろうか?
肉を削がれ、四肢を奪われ、顔を奪われ、皮も――生きていく最低限のモノ以外すべてそぎ落とされていた。
アレは拷問とは言えない。拷問とは何か情報を得るための手段に他ならない。けれども、この子から得られる情報なんて無いに等しい。と言うかぶっちゃけ何も無いんだよ!なのにそんな無駄な労力を費やす理由なんて、そのボーマン卿という奴の趣味だからとしか言えないだろう。うん、どう考えても嫌な趣味だな!
「大丈夫だよ、クレアちゃん。もう怖いことなんて何もない。なんたって俺がついてるからね」
そう言ってそっと手を握ってあげる。
「……貴方が何者であっても、あのお方には勝つことは叶いませんわ。ボーマン卿は三賢龍が一人。明日のシルヴ様との婚約を経て、この地を治める魔王と成られるのですから」
「だとしても俺は負けないさ。だって俺は勇者だからね」
えっ、とクレアちゃんが驚いた顔を見せた。
ううん?どうしてそこで驚くのかな?ほら、俺って、どこからどう見てもどこに出しても恥ずかしくない勇者だと思うんだ!たぶん大魔王に挑んだ回数なら世界一なんだよ?まぁ大体吹っ飛ばされて死んでるけどね!
「勇者……様?」
うん、何でそこでみんな首をかしげるのかな?おかしくないかな!
「残念ながら……当然?」
「くそう、フレアまでかよぉ!いいんだけどさぁ!ぐすん」
いいんだいいんだ。どうせ俺なんていつもこんな扱いだしね。
「それで、そこの二人はどうなの?」
「わた、わたしは……シルヴェスの羊ゾクの……オサの、むすめ。タリウス、さまに、ごちょーあい……う、うけて、ました」
羊の角を持つ少女の名前はコーリーちゃん。舌足らずな彼女だけれどもその一部は豊満な少女だった。うん、隣にクレアちゃんがいると余計に際立つんだよ!うん、あの、その、クレアちゃん?ジトですか?はい!ありがとうございます!
「……けれど、わたし、もういらないから、うるのだと、タリウスさまに……いわれ、て……」
ジワリとコーリーちゃんの目に涙が浮かぶ。
つまり、彼女の血筋を傍に置いておくことはタリウスという奴にとって意味があったのだが、魔王の一人になれることが分かったことで、逆に邪魔になってしまったのだろう。うん、娘を傍に置いているのだから色々と用立てろとか言って来られたらたまったものじゃないんだよ。
コーリーちゃんにしてみれば一族の懸け橋として贈り物として連れてこられたのに、もういらないと言われたのだ。彼女の存在そのものを否定されたに他ならないのだから、たまったものじゃあないだろう。うん、好き放題にやりたいことをやるだけやって、ぽいと捨てるってひどいことするなぁ。
「ニナちゃんは……」
「私は、ただの使用人。だから、使い潰しで変わりが効くから」
だから潰して遊ばれて、もう少しで生きたまま埋められるところだったのだという。
どいつもこいつも本当にろくな奴がいないんだよ。うん、魔王と言うくらいなんだからそう言うのは当たり前なのかもしれないけれど、民を想わない王なんて、人の王でも魔王でもダメダメなんだよ?
「それで、どうするの?」
「はぁ、そこが悩みどころなんだけどね」
心の中ではもう決まっている。だけど、それでアイツが納得してくれるかが不安でならない訳だ。うん、困ったな!
とぉーっても遅くなりまし( ˘ω˘)スヤァ