14話:風が吹くだけで桶屋が儲かったら世の中桶屋だらけになりそうだよね?
巨大なトネリコの巨木の根本。クルリと裏側に回ってみれば、そこには小さな礼拝堂。
ここがウエンディさんのお家なのだという。
見るからに殺風景で中に入ってもテーブルとイスしか置いていない。うん、本すらおいてないって暇じゃないのかな?
「ふふふ、これでも巫女ですから。お仕事で来ているのに私物なんて置いておけないんです。ええ、こんなところに薄い本なんて置いていたら領民になんと――っと、何でもありません。ええ、なんでも」
うん、この人って多分菜乃花さんのお友達だろうし、そういう事なんだろうね!ううん、ものすごい美人さんなのになぁ……。
「それにしては生活感がなさすぎやしませんか?食事の備蓄すら見当たりませんけど」
「ええ、今は特に食べてはダメな期間なの。もう少しでお役目があるのですもの」
お役目。思い当たるのは明日の晩餐会だ。うん、シルヴの婚約者が決まるという事はこの領を治める魔王が決まるってこと。つまるところ、この領の名前にもなっている大精霊ウィンディア様の巫女たるウエンディさんにはその代弁者たる役目があるのかもしれない。
「大精霊ウィンディアはこの地の風を操り、天候を操ってくださっているんです。ですので、この地には風雨の災害も少なく、豊かな恵みが約束されているも当然なのです」
なるほど、それは羨ましい!
作物にとって天候という物ほど重要なものは無い。うん、農業の天候リスクがほとんどないってそれだけでヤバイからね!やだ、作物沢山捕れすぎッ!て位取れちゃうだろうから輸出しまくれちゃうんだよ?もっとも、だからこそこの異世界でシルヴェスは農業国として成り立っているんだろう。うん、農業機械がほとんどないこの異世界では物凄い事なんだよ!だって、未だに都市部以外はトラックすらほとんど見かけないし、大体の荷運びも未だに牛車や馬車が担っているからね!農業用機械も無いわけじゃないけれど、異世界からやって来た知識チートな人たちが開発しきれるものしか作られていない。だから、農業用トラクターだなんて作られてない。だって、一般の人が農業用にゴーレムなんて高価すぎるし、何より怖がって持とうとしない。うん、車両ゴーレムを使ってるのって割と力のある魔王とか幹部クラスくらいなんだよ!
「ええと、うちの領に出張して来てくれるーだなんてできないですか?来てくれたらとーっても助かるんだけどな!今ら分祀のお社も建てちゃいますよぉ!」
「何その今なら健康食品がついてそうなノリ」
良いんだよライガー!こういうのってノリと勢いだし?おまけ戦略はどの業界に行っても大体当たるからね!
「あら、それは魅力的ですね。でも、大精霊ウィンディアに力を貸していただきたいのなら、もっと簡単な方法がありますよ?」
「それって――」
「はい、シルヴと婚約をすることですね。ほら、とーっても簡単です♪」
にっこりほほ笑んで何を言ってくれるかな、このお姉さん!うん、だから俺は何も答えてないからライガーにクロエは足を踏まないで欲しいな!サンスベリアさんもお腹を抱えて笑ってないで、止めてね?痛いんだからね?!
「ええと、ウエンディさん?なんと言うか、俺じゃ釣り合いが取れないというか、無理だと思うんですよね。だって、お城に言った瞬間にコロコロされかけましたし?」
「ああ照れ隠しですね。もう、シルヴったら」
照れ隠しで殺されかけたら堪らないと思うんだぼかぁ!くそう、他人事だと思ってケモミミ三人娘が笑い過ぎてプルプルしてる!ぐぬぬぬぬっ!
「それでもシルヴには貴方しかいないんです。だって貴方に負けて女の子になっちゃったんですから。魂レベルで貴方の虜なんですよ?頭をひと撫でしてみてください。きっと腰砕けになっちゃいますから」
「こ、腰砕けて……」
流石に誇張しすぎじゃあないだろうか?仮に俺が負けて女になってしまったからと言って、そいつに惚れるかと言えばそんなわけ無いし?
「ええ、そうでしょう。だけど、体も魂も求めてしまえば、心もおのずと引っ張られてしまいます。それに、シルヴ自身も貴方の事を男として認めてはいるみたいでしたし。だって、あの時の戦いを楽しそうに語るんですよ?アイツは聖剣を持つ勇者だった。死闘の末の決着だ、オウカ姫に相応しいのは彼以外にいないって、いっつも楽しそうに」
ううん、そんな風には見えなかったけどなぁ。
見ていたらいつ飛び掛かってくるか割と戦々恐々だったんだよ?俺って普通に人だからね?殺されたら普通に死んじゃうんだよ?勇者だから生き返っちゃうけど?
「今更不意打ちで真人さんを殺したところで変わらないんですけどね。その実績をもって賢龍たちに意見をまた言えるようになるかと言っても微妙ですし」
ウエンディさんはため息をついて天窓から大樹を見上げる。
「賢龍たちは一人一人では魔王足りえません。だから、賢龍たち全員で一つの魔王という事にするつもりなんです」
あまりにも無茶苦茶な話だけれど、魔王だったシルヴを共有の嫁にしてしまえばそれで済む。ああ、なんてふざけた話なんだろうか。
「だから私から言えることは一つだけ」
柔らかな手が俺の手を包み込む。
「真人さん、シルヴを――貰ってあげてください」
そう言って目を潤ませてウエンディさんが俺を見上げる。うん、これってちょっとずるくないかな!とってもずるいと思うんだ!だけどどう思うかなライガー!
「頑張れ♪」
何だとってもいい笑顔だった!でも、なんで俺の足を踏んでるのかな!しかもさっきより力が入ってないかなぁ!
「ふふ、良い答えお待ちしていますね。それでは、最後に――試練を貴方に。ええ、お使いの品を渡すにはその試練をこなす必要があるのです」
ウエンディさんが指で上を刺す。うん、とっても嫌な予感がするけど、あの木がどうかしたのかな?
「はい、この木に傷をつけることなく天辺の枝を取って来てください。もちろん真人さんおひとりで。ふふ、頑張ってくださいね?」
百メートルを超える巨木を傷つけることなく、つまりは何も道具を使うことなく登って来いって、うん、割りと無茶なこと言うなぁ!風を使って飛びたいけれど、たぶんそれじゃあダメなのだろう。射出的に全力ダッシュでもダメだ。傷つけずってレベル高いよ!?ううん、やばいな!
今日中と言ってて遅れました。はい、大変申し訳ございませんでし( ˘ω˘)スヤァ