12話:抹茶ってそのまま飲むと苦くて渋いけどアイスやケーキにするとあんなに美味しいのって不思議だよね?
くつくつと沸き立つお湯を程よい温度でポットに詰め込むと、茶葉のやさしい香りがあたりに広がります。
「ふふふ、ここのエルフの里名産のお茶なんだけど、発酵させて紅茶を作ってみたのよ。他の地域でも紅茶はあるんだけど、ここの領の茶葉ってかなり質が良くてねー。ふふふ、ミルクと合わせるととっても飲みやすくって美味しいのよ?」
「へぇ、成程これは確かに……」
淹れられたミルクティーは香りも高く、程よい渋みとコクがミルクの甘味とまろやかさと相まって本当に美味しいです!皆まーくんが帰ってきたらまた入れてもらえたらいいのですけど。
「ガールズトークには紅茶にクッキー。あとはケーキが定番だよねー。んふふふ♪」
塔の魔女――菜乃花さんは、なんだか楽しそうにお菓子や小さくて可愛いケーキを、テーブルいっぱいに並べて行きます。うん、フレアちゃん。気持ちはよくわかるけどよだれ垂れてますよ。女の子なんだからもう少しお行儀よくしないと。
「うぐぐ、お行儀……。お母様にも良く叱られる。女の子らしくしないと真人に嫌われるぞって。己、真人に嫌われたくない」
「それなら、身を乗り出したりせず、ちゃんと座りましょう。お菓子は逃げだしたりなんてしないんですから」
ん、分かったと言ってフレアちゃんがロベリアちゃんの隣に座ります。よくよく考えてみれば年齢は同じくらいなので、背格好も同じくらい。そう、ごく一部を除いて。うん、私よりも大きいって将来フレアちゃんどうなっちゃうのでしょう……。
ともあれ、二人は割と仲良しさん。まーくんが席を話したときはいつも二人で色々と話をしていたり遊んでいたりするんです。見ててもなんだか和むんです。二人とも可愛いですし?
「フレアは食いしん坊だから仕方ありませんね。この前だって兵士隊大食い大会に飛び入り参加してましたし」
「んゆ、アレは美味しかった。ふふふ、バーベキュー大食い大会。お肉沢山、山盛りいっぱいだった」
幸せそうな顔でフレアちゃんがお腹をさすさすしていました。そんなにおいしかったのでしょうか?
「魔物肉も美味いものが割と獲れるからなぁ。間引きも兼ねて狩っている分やったんやけどなぁ、お肉の人気もあるし真人さんと相談してお祭りにしないかって話もしてるんや。謝肉祭てまんまなネーミングやけど、なんや楽しそうやろ?」
「しゃ肉祭……。お肉の……お祭り!」
「フレア、よだれまたたれてますよ」
「おおっと」
じゅるりとよだれをぬぐうフレアちゃん。よっぽどこの前のお肉が美味しかったんですねぇ。
「いやいや、いやいやいや!そうじゃない!そうじゃないと思うんだ私は!女子会トークって恋バナでしょ?恋バナだよね!恋バナだからね!」
ぐぐいと前に乗り出して菜乃花さんが私の顔を覗き込みます。うん、ちか、近いです!そんなに見つめられても、そ、その、恥ずかしいというかなんというか……。
「く、テレ顔まで可愛い。サクラちゃん、お母様によく似てきてるよねー。ってそうじゃなくて、それでどうなのかな?さっき来てたちょっと目つきの悪い彼とラブラブなの?どうなの?」
ラブラブなのかどうなのか、と言われればそれはもう間違いなくラブラブです!ええ、今朝はまーくんにほっぺのキスをおねだりして起こしてもらえましたし。えへへ、まーくんもてれてれしながらちゅーしてくれてですね。そのあとまーくん特製の朝ごはん食べてー。
「ああああああ!え、何?予想以上のラブラブっぷりなんだけど!?ど、どいういう事なのかな?ほら、普通あんなふざけた婚約の決め方だったら色々と問題がある奴が決まりそうじゃない?シルヴくんだって倒すくらいの猛者って話だったし、もっとこう厭味ったらしいむきむっきマッチョな魔王を想像してたんだけど、……あれ?魔王?そういえば魔石の反応なんてポッケに位にしか……」
「違いますよ。まーくんは勇者です」
「は?」
あ、菜乃花さんが固まってしまいました。私何かおかしい事言ったでしょうか?
「お、おかしいわよ!だって、私が聞いていた婚約の武闘会って、魔王だらけでシルヴくんも命がけだって言ってたのよ?なのに、なんでその中に勇者が紛れ込んで、しかも勝っちゃってるのよ!?」
「そう言われましても、ねぇ……」
「そうですね、強いて言えば真人様だからでしょう。色々と規格外と言えばその通りですし」
「ん、我も母様も真人に助けられた。真人は他のユウシャとは違う。本物の勇者。誰かを護る優しい人」
「あれれ、フレアちゃんまで惚気を!?婚約者と聞いたからてっきりフレイア様に勝手に決められてたものだと。え、まさか実力で……」
そう、まーくんは自分の力で全部無しえてきたんです!もちろん他のみんなも手伝ったりはしましたが、そこにまーくんがいなければきっと無しえなかったことばかりです。
「悔しいけれど実力は本物ね。私の夫だった……バアルを倒したのも彼だし」
「ちなみに……真人さん、こっちの世界……来て一週間たたずに、魔王シルヴと戦って、勝ったの」
「え、えええ……」
ふふふ、まーくんはすごいんです!格好いいんです!本人に言っちゃうと照れ臭くって逃げちゃうんですけどね?だけど、一生懸命頑張り屋さんで、頑張りすぎて自分を大事にしなさすぎで危ういところもあるんですけど、そこもまた格好いいんです。まぁ、無茶はしすぎないでくださいっていつも言ってはいるんですけどね?過労死なんて物語の中だけでいいんですから。
「なんというか本当に無茶苦茶な子なのね、彼って。はぁぁ……。そりゃあシルヴくんじゃ負けちゃうわね。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて地獄へ落ちろ!とはよく言ったものだけど、魔王だらけの夜宴に初心者勇者が乗り込んで行くだなんて並大抵じゃないというか……」
「はい、そしてまーくんはお母さんの剣を継いで、シルヴ様を打倒したのです。これはもうお母様が後押ししてくれたんじゃないかなって私、思ってるんです」
「せ、聖剣を!?あれっていつかはサクラちゃんが受け継ぐんじゃなかったの!?」
いつかはそうなるのかもと思っていたけれど、私の立場は魔王。勇者が持つべき聖剣なんて、持ちたくても振れることすら敵わないんですから。
「まぁ、見ず知らずの誰かに渡らなかっただけでもいいか。だけど、シルヴくんもショックだっただろうなー。昔から読み聞かせてた寝物語の聖剣にトドメをさされたんだもん。まぁ語り聞かせててたのって私だけど?」
「そうなんですか!?」
「そうだよー。私って独身で子供もいないけど、お母さんを早く無くしたシルヴくんをウエンディと一緒に育ててきたんだもの。うん、ごめん。なんか泣けてきた」
そう言って、菜乃花さんはそっと目を覆います。
やはり、我が子のように育ててきたシルヴさんがまーくんに敗れたことがショックだったのでしょう。
「ぐすん、子供は立派になったのに、何で私には恋人の一人もできないのかなぁ……。同じ賢者の田中なんて可愛い奥さん出来ましたーだなんて幼女とツーショットの写真送って来てたし!ぐぬぬ、ぐぬぬぬぬぅ!」
そ、そこなんですね……。
「大事なことだよぉ!私も!彼氏!欲しいぃ!……ぐすん」
私はただ、苦笑いを浮かべることしかできませんでした。まーくん、早く帰ってきてぇ!
はい、遅くなりましたOTLいつも通りですねごめんなさ( ˘ω˘)スヤァ