1話:友達の結婚のお知らせが来るのってとっても怖いものだよね?
それは速達で今朝、アークル城に届いたばかりのお手紙だった。
厳重な封書に包まれ、赤い蝋印に封をなされたその宛名は――
「し……シルヴ・D・テンペスト……だと!?」
そう、それはサクラちゃんとの婚約をかけ、最後の最後に戦った最速の魔王龍シルヴからの手紙だったのだ!
見間違いが無いか何度も何度も確認する。うん、目がおかしいわけじゃあなさそうだ。炙り出しで字が変わるなんてことも特殊な薬液で変化もしなさそうだな!うーん、鉛筆でこすったら字が浮かび上がったりは……無いか!
「何でそこまで調べる必要が……」
「だってサラさん、シルヴだよ!?魔石になるまで吹っ飛ばしたのに三カ月足らずで復活って早すぎないかな!話によると魔石からの復活って、かなりの年月が必要だって話じゃない!なのにこんなに早いなんて絶対におかしい!はっ!まさかこれはクライシスの仕業……?おのれクライシス!!」
「うん、いつも通りの真人様なので流していいとおもいますよ」
いつも通りの昼下がり、書類に忙殺されながらお手紙を開封したけれど、同じ執務室にいるサラさんのお母さんのミラさんはあらあらうふふと聞き流して、俺のお膝にいつも通り座ってヤレヤレ顔である。苺ちゃんは顔も上げずにお仕事中だ!うん、誰もまともに聞いてくれてないよ!
「でも、婚約パーティー招待状を真人様に送って来るなんて律儀というか、なんといいますか……」
俺のお膝で足をプラプラとさせながらロベリアちゃんが俺の手から手紙を奪い取る。まだ読んでる途中だから待って欲しいんだけどな!というかどこのどいつだよ、シルヴと結婚する奴!
「えーと、あれ?なんか名前の欄空白ですよ?しかも新婦のところにシルヴ様のお名前が書いてあります。突貫で送ったから間違えたのでしょうか?」
「はっはっは、どこに婚約パーティーの招待状に何で空欄で送るバカがいるんだよ。本当だ!書いてないや!うぇい!いやいや、婚約パーティーの招待状って割と公的な文章なのに何でこんなミスりまくりで送ってくるかな!あれかな?嫌がらせかな?嫌がらせだよね!じゃあ俺行かなくていいよね!うん、顔合わせずらいし行きたくないんだけど、ポンポンペインで出席辞退しよう、そうしよう!」
そう、それなら見たくない顔を見ることも無く右から左へ受け流せるはず!ふふふ、俺って頭いい!
「でもこのお手紙ってオウカ様のところにも届いているんじゃないですか?」
「ん……行ってると思う」
「はっはっは、ロベリアちゃんに苺ちゃん?流石にそんなわけないじゃない。だって婚約できなかった相手だよ?そんなお手紙届いているわけ――」
「おい、真人!オウカ様宛にシルヴェスから婚約パーティーの招待状が届いたぞ!?お前どういう事か知ってるのか!」
勢いよく扉を開けて入ってきたのはライガーだった。
「知らないよ!こっちが聞きたいくらいだよ!ああもう、これで行かないといけなくなったじゃないかー!シルヴのあほー!ばかー!」
「頭が回らなくなって語彙力が低いですね」
「サラ、そっとしておいてあげなさい。恋敵のもとに好きな人だけ送り出すなんてこと~。ふふ、真人さんに出来るわけがないしね~」
そう、ミラさんの言う通りだ。出来るわけがない。だって、お腹をすかせた狼の群れに小鹿を解き放つようなものなんだよ!できないできない、俺にはぜえええたいにできない!
「し、仕方ないのか。うう、というか、なんでこんな間違いだらけの招待状で行かなきゃならないのが思い切り不服なんだけどなぁ……」
「え、そんなに変な手紙だったか?」
「え?」
「え?」
首をかしげるライガーの一言に、俺も首をかしげる。うん、もしかして俺にだけこんな変な招待状送りつけてきたのかな?
「変なって、え、何だこれ。変な招待状だな。こっちはほら……」
どれどれ、とライガーの持ってきた招待状を覗き込んでみると、そこに書いてあったのは「婚約記念パーティに招待いたします。婚約者の名前は、パーティにて発表とさせていただきます」――なんてごく普通の招待状であった。なるほど、まだ明かす気が無かったということか!
「なら俺とサクラちゃん一緒のお手紙で送ってくれてよかったじゃない!何で!別々に送るのかなぁ!しかも俺の招待状ってどう見ても未完成で失敗作じゃん!嫌がらせかな?やっぱり嫌がらせだよね!」
「それをボクに言われても困るんだけど!シルヴ様もまだ真人とオウカ様の婚約を認めたくないとかじゃないの?」
なんてライガーは適当なことを言う。
ぐぬぬ、なんだかヒトコト言ってやらないと気がすまなくなってきたぞ!
サクラちゃんは俺の嫁!可愛い可愛い俺の嫁って、うん、ロベリアちゃんなんで太ももつねるのかな!よくわからないけど、太ももの内側って割と痛いんだからね!痛いな!!
「それで、結局どうされるんですか?」
「行くしかないでしょ。あああ、憂鬱過ぎて頭痛くなってきた……」
サクラちゃんが行くとなると姫騎士も人数をそろえていかなければならない。俺の方も直近の部下になってる子たちを連れて行く必要が出てくるわけだ。うん、顔を見せておかないといけないし?
「そうなるとかなりの大所帯での移動になりそうだなー」
ぱちぱちと魔導電卓をたたいてあらかたの出費を計算しておく。うーん、経費がそれなりにかかりそうだなぁ。だけどこういうのって領のメンツが関わってくるからそれなりにしておかないといけないし。列車が通っていないって話だし、ここはサテラさんにお願いして車を用立ててもらうしかないかなぁ。
「パーティー……晩餐会……おごちそう……」
「うん、サラちゃん。気持ちは分かるけど、よだれは吹きましょうね~」
「で、出てません!というか、パーティーに行くのならドレスを新調しないといけませんね。ううん、出費、出費が……」
「うん、サラさんとミラさんはお留守番いいかな?というか、残ってもらわないと書類が……ね?」
その言葉に二人が固まってしまった。
「あー、まぁそういう事か。確かに二人がシルヴァスに来るのはちょっとまずいかもしれないね。あそこにはエルフたちの森があるし、ルナエルフの二人が行くと色々ともめるかも」
「もめるって何かあるのかい?」
聞いた話ではルナエルフと普通のエルフで諍いがあるなんて聞いたことが無い。最近うちに来たエルフでメイドやってるエリスとサラさんは一緒にお茶に行くほど仲良しさんだし?
「あそこのエルフって割と排他的って話を聞いていてね。そのせいで中々森の開拓が進まなかったって有名なはなしでね。その中でルナエルフと衝突したって話もあって」
「あーそう言えば農業で発展してる領だったね。それならなおさら都合がいいね!うん、よろしく?」
そう言いながらそっと俺の書類を積んでいく。
「自分の仕事位片付けて行ってくださいませ!」
「そうよ~。そのくらいはやって欲しいな~って」
ぶーぶーと二人が口をとがらせる。
そんなことは分かっているんだけど、終わらせても終わらせてもエンドレスに積まれていくんだよ!インフィニティかな!ドラゴンさん呼んじゃうのかな!シルヴだけは来ないで欲しいなー。困るな!
「まぁ、オウカ様を連れて一旦こっちに来るからそれまでに終わらせておけよー」
「くそう、ライガー!他人事だと思って勝手に言いやがって!」
「ははは、がんばれー」
ひらひらと手を振ってライガーは部屋を出て行ってしまった。
くぅ、仕方ない。使いたくなかったが猫の手を……あれ?そう言えばクロエさんは?く、クロエさーん?
「クロエさんならお手紙読む前にお昼休憩にゃーって出ていきましたよ?」
「たぶん……さぼり?」
くそう、クロエめ!今の晩ご飯は缶詰だけにしてやる!
それにしてもシルヴが婚約……ね。何か裏がありそうだけど、本当だったらまぁ、うん、おめでとうのひとことくらいは言ってやろうかな。
そういう事でコツコツと書いて参りますので、よろしくおねがいしま( ˘ω˘)スヤァ