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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
メイド忍者とまかないご飯
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メイド忍者とまかないご飯3

 初めてのお休みの日。パティさんにくるみ()を預けて日用品と雑貨を買いに私は私服姿で城下へと下ります。


 お休みだーと言われてこんな風に取るのは割と初めてだったりします。だって、基本的にどこに勤めてもお休みなんて無いに等しい。常在戦場とはよく言ったもので、人の城も魔王の城もどこでも同じく定期的にお休みなんて貰える仕事場なんてどこにもいなかったんです。例外は大魔王城と、このアークルくらい。もっとも、私が大魔王城にいた時期はとっても忙しい時期だったせいでほぼお休み無しのような状態だったのですが。


「あら、お嬢ちゃん初めて見る顔だね!」


 そう言ってほほ笑む八百屋のおばちゃんに会釈をしていくつか食材を買い込む。これくらいあれば夜にお腹がくうくうと泣くことも無いでしょう。ええ、まだまだ私は食べ盛りなのですから!


「結構買い込むのねぇ。ん、それなら少し値引いてあげるわね」

「え、い、いえいえ、そんな!」

「あっはっは、いいのいいの。多分こっちに来たばかりで入用だろう?真人の兄さんの事だから支度金なんてくれてるんだろうけど」


 そう言っておばちゃんがてきぱきと袋に詰めてくれた。私はそれ以上何もいう事が出来ず頭を何度も下げてそのお店を後にする。


「お、新入りさんかい!歓迎するよ!それならおまけしてやるな!」

「またどっからか真人が引っ張って来たんだろ!ははは、アイツはどっからでも連れてくるからなぁ!」

「ああ、またアンタも真人の被害社かい?寿司屋を開きたいからこっちに来たのに、何でかカレーの店にされたんだ。寿司は普通だけどカレーは絶品だったから仕方ないよねって!まぁ、気づいたら二号店が出来るくれーの繁盛店になってたんだが……納得いかねぇ!」


 なんだか良くわからないけれども、いろんな人に歓迎されて割引されて色々と貰ってしまった。人が良すぎるというか、優しすぎるというか、町全体が柔らかな雰囲気に包まれているかのようでした。


 それでも、私には見えてしまった。片腕が義手の男性、両足が義足の男性、古傷だらけの女性――。古くからこの街にいるんだと言っている人ほどその傷は深く……そのを原因を思い起こさずにいられませんでした。


 だから、一歩引いて、なるべく何も受け取らないように心がけて話をします。


 けれども、それでもみんな押し売りのごとく優しさを差し出してきます。そんなにしないでと、それはやりすぎだと、心の中で思っていても口に出すことはできません。だって、彼らを――彼らの街を傷つけたのは紛れもなく私のお父様なのですから。


「それでなんだかしんどそうな顔をしてここに連れてこられた、と」

「は、はぁ……具合が悪いわけではなかったのですが、その、町の人に見咎められまして……」


 連れてこられたのは孤児院に併設されている治療院。涙を流し、うずくまっていたところを具合が悪いのだと勘違いされてここへと連れてこられてしまった。ああもう、なんで――


「んー……。まぁ気負い過ぎってところね。あんまり気にしすぎても身が持たないわよ?――アンズ・ゼブルさん?」


 私は思わず立ち上がり、椅子を後ろに倒してしまった。な、何でこのうさ耳の先生、私の名前を――というか、先生にしてはこう、小さくないです?


「うん、小さいのは種族のせいだから気にしないで!こ、こほん、ともかく私が貴女の事を知っていたのは私の彼氏さんにお昼のお弁当を持って行ったときに見かけていたからよ。その時に話を聞いてね。っと、熱いお茶でよかったかしら?」

「あ、はいお構いなく……」


 そう言う頃には温かい薬草茶(ハーブティー)が出来上がっていました。瞬間湯沸かし魔導ケトル!アレ欲しい奴です!


「これはオウカ様ブレンドのお茶なの。はちみつを垂らして飲むととっても体が温まるのよ?」


 すすめられるままに一口飲む。スッと抜ける良いハーブの香りをはちみつの甘味が優しく受け止めてくれていて、なんだか心が休まる味でした。


「ふふ、良い顔になった。張り詰めた顔をした人には暖かい飲み物が一番!心も解してくれるからね?」


 にっこりとうさ耳の先生がほほ笑む。見た目はすももよりも小さいのに……本当は一体幾つな、あ、何でもないです気になさらないでくださいね!


「それで、その様子だと街の人たちが優しくしてくれるのが心苦しかったのでしょう?」

「うぐ、その通りです。父がやった事とはいえ、皆さんを――」

「うん、だからソレが気にしすぎなのよ」


 やれやれと可愛らしく肩をすくめて先生は言います。


「貴女の父親は確かにこの街の……ううん、領の人々に容赦のない仕打ちをした。何人も死んだし、何人も動けないくらいの傷を負ったわ。けれど、それはもう終わった事なの」

「で、でも!」

「でも、じゃないわ。真人さんがね、全部終わった後に声高に言ったの。『罪を憎んで人を憎まず。うん、魔王だけど人のカテゴリで話すんだよ?この領で起きたことは魔王バアルの死で贖わせた。だから、これ以上あっちの領を非難したりすることは俺がゆ゛る゛さ゛ん゛っ!!』ってね?だから戦後処理としてあっちの領を領地としてもらえる、だなんて言われたらしいけど断っていたの。許してるのにもらっても困るって」


 けれどもそれじゃあ周りが納得をしない。だから、実権は握りつつも自治権は私たちに残してくれたのだそうです。もしかすると、真人様はお父様の子供たちが辛い思いをしないように気を使ってくださっていたのかもしれません。


 だとすれば、私たちはなんて恩知らずな――


「ちなみに、あんずさんがバアルの娘だって多分みんな知ってるんじゃないかしら?」

「ふぇ?!」


 衝撃の言葉に思わず声が上ずってしまった。だ、だって、それなのに、それなら、なんで……。


「知っていたからこそ、貴女に見て欲しかったのだと思うの。私たちはもう立ち直っているんだぞって、バアルが残した傷跡は確かにあるけれど、それでもみんな負けていないんだって。だから、みんなあなたに優しくしてくれたんだと思う」


 だから、貴女は気にする必要なんて何もないのだとうさ耳の先生はいいます。


 でも、私の気持ちはそれでも収まりません。何か謝罪をしないといけないのではと心のどこかで叫んでいるんです。


「いらないわ。むしろ言ったら怒られるでしょうね。そんなこと言わなくても知ってるって。その気持ちがあるんなら、この領をめっぱい好きになってくれってね?」


 それはある意味残酷な言葉。謝罪をしてもし足りないのに、しなくていいというんです。なら、この気持ちはどこにぶつければいいというのでしょうか?


「モヤモヤとした気持ちがあるのは分かるけどね。うん、腑に落ちないって顔してるし?だから、はい処方箋。今みたいに張り詰めちゃったら今日のお茶お茶飲んで落ち着きなさい。少しくらいだけど気は晴れると思うから」


 そう言って袋に詰められた茶葉を受け取り、治療院を後にしました。


 みんな知っていて優しくしてくれる。ううん、きっと知っているからこそ優しくしてくれたのでしょう。


 私にはそれが心苦しくて、切なくて行き場のない感情を近くの甘味屋にぶつけることにしたのでした。

 うん、帰り際にあそこ美味しいからと紹介されたので。とっても気になっていたんです!こうなったらやけ食いです!!すっきりするまでたーくさん食べてやるぅ!がるる!

今日も今日とて遅くなりまし( ˘ω˘)スヤァ

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