メイド忍者とまかないご飯2
美味しいご飯をたらふくに腹につめて、私は今日ものんびりとメイド仕事に精をだします。
お母様とすももは大魔王城で研修を受けているというのだけれども、私は即戦力という事でそのままこっちで働くことになったわけです。まぁそれは建前という奴で、オウカ様へのお目通しというのが正しいのかもしれないけれど。
「とはいえ、ここにいるメイドさんたちって何というか動きが機敏というか、素早いというか」
「そりゃあそうよ。結構な割合で元勇者に兵士がおおいのだもの」
そういうのはもともとは村で占い師をやっていたという狼族のパティ先輩。うんん?でもパティさんの動きもかなり機敏なんですけど!?
「んー、まぁ狩猟とかにはよく出てたし、その影響かも」
聞けば、占い師の傍ら猟師として活躍していたらしい。農作業や漁は力作業だから男性がやって、女性でもできる採集や猟なんかは女性中心でやっていたとか。うーん、猟でも力仕事な気がするんですけど、ここは聞かない方がきっと身のためなのでしょう。
「あんちゃんってニンジャ?とかいうのやってたのよね。どんなことしてたの?」
「潜入をして偵察や情報収集ですね。噂を流したりとか」
広い城の中、魔導掃除機なる便利なもので一気に塵やほこりを吸い取っていきます。やだ、本当に便利……!こんな機械が前お母様が住んでいたお城にあればどれだけ便利だったかっ!
「潜入!なるほど、スパイってやつだったわけね。それで、例えば……?」
「あ、あんまり話しちゃダメなんですからね?まぁ、普通にお城にこんな風に使用人風に扮して潜り込んだりしてましたね」
おお!とパティさんは感心しきりでなんだか申し訳なくなってきます。だって、潜入していたのっていまお母様が行っている大魔王城にもいたことがあるんですもの!本当に数か月、短期で潜入してました。つまるところは、先日行われていたオウカ様の婚約舞踏会。けれども悲しいかな、私は裏方に回されてしまい、あの時どんなことが起きたかまーったく見ることが出来ず、お母様とお父様に散々に叱られてしまったのは言うまでもありません。うん、結果だけはきちんと伝えたのですけどね!それだけでは駄目だったんです。だって、まさか裏方にされるとか、一緒に働いていたバトラーさんが並み居る魔王たちを倒して婚約者になるだなんて想像できなかったんですから!
「そういえば真人様も自分の事をニンジャだって言ってるけど、どうなのかしら?うん、ニンジャと言えば分身だからできて当たり前なんだよ?とか言ってたけれど」
「その認識はどうなのでしょう?ううん、本来忍者の分身は変わり身の術の事を言っているんです。行ってみれば攻撃が当たる瞬間に別のモノに自分をすり替えちゃうんですね。そうすると、相手には私がもう一人いたかのように見えるって寸法なんです」
真人の分身はそれとはまったく違う、自らの完全な分体を生み出す、忍術というよりも魔法技術に近いような摩訶不思議なものだった。こっちに来た後教えてもらい実際にやってみることができたのだけど、私が出来たのは一人まで。二人目を出した時点で頭がパンクして、気づいたらベットの上で寝かされていました。なぜか不思議なことに練習中に来ていたシャツとスパッツ姿から寝間着姿に変わっていたのだけれど。うん、本当にどうして着替えさせられていたのかしら?
「だけど、分身かー。私もできれば便利なのになぁ。そうすれば怜くんのお手伝いをしつつ、こっちのお仕事もできるのに」
「パティ先輩本当に怜さんの事好きですよねぇ」
こぶしを握り当たり前よ!と尻尾をパタパタと振りながらパティさんは熱弁をふるう。
「だってあんなに小さくて可愛くて可愛くて格好いいのに、頭が良くてみんなに慕われて、それでいて頑張り屋さんなの!さらには優しくてー笑顔が素敵でー」
うふふふーとまたいつもの怜さん自慢が始まってしまいました。聞くところによると、危ないところを怜さんに救われて、そこから彼にベタ惚れなのだそうです。
確かに幼いながらも顔立ちはキリリとしていて、格好良くないわけではない。けれども、うん、やっぱり見た目はどうみてもすももと同じかそれよりも下にしか見えないんです!見えないんですけど、そこのところは?と聞いてみたところ、恋に年齢なんて関係ないとの事。
怜さんは勇者で、見た目と年齢が乖離している可能性も無きにしろ……と思い、聞いてみたところ実年齢がそのまま今の見た目だそうでした。
憲兵さんにパティさんが引っ張られて行かないかちょっと心配かなと思ったけれど、そう言えばパティさんのお兄さんがここの兵たちのトップのヴォルフさんで、そこは大丈夫みたいでした。うん、大丈夫なのか自分でもちょっと自信がないけれど!
「それで、あんちゃんは好きな人っていたりするの?」
「また唐突ですね!……そうですね、好きな人……というのかはわかりませんが、真人さんが今気になっていますね。お母様とどうにかくっついてくれないかなーと」
「それはまた背徳的な……」
背徳的?と私は首をひねります。お母様と真人様の事なのに、どうして背徳的になるのでしょうか?年齢的に考えるならば、それなりに離れてはいるようですが……。
「え、だって自分とお母さんを真人様に売り込んでいるのよね?」
「ふぇ?! な、なな、何でそうなるんですか!?」
「気になる人でも真人様が一番なんでしょ?」
それはたしかにそうなんですけど、と言って私は頭を抱えます。確かに気にはなっています。けれども、好きかどうかといわれるとあんまり自信が無かったりする。うん、強くて面白くてお仕事ができて、優しくて、確かに素敵な人なのは十二分にわかっているんです。けれど、真人様が父の仇だという事実がどうしても目の前にちらつくんです。
憎んではいなくても、本当にそれでいいのか、と。
「うーん、そんなに深く考えなくていいんじゃないかな」
「そう、でしょうか?」
「そうよ。だって、恋なんて好きになってしまえば、そんなことぜーんぶ関係ないんだから」
にっこりと可愛らしい笑顔でパティさんはそう言いました。
好きになれば……。私は果たして、真人さんの事を好きと、言えるのでしょうか?ううん。うううん……!どうにもまだわからないのでした。
投稿をし忘れていたことに今頃気付くというミス。
大変申し訳ございませんでし( ˘ω˘)スヤァ