挿話:大魔王のお姫様と新たな勇者と女子力とリターンズ7
女子力とは?と聞かれてすぐに答えを出せる人はあまり多くは無い。
結婚するために必要なことだという人もいるし、女を磨くためだという人もいる。そのどちらも正しいのだけれども、見ている方法が違えば全く違うものとなる。
「果たしてこの女子力ブームは結婚の為になるのかしら?」
いつの間にやらこの異世界……の中の大魔王城下で女子力ブームとなっていた。何がどうしてそうなったのかは分からないけれど、街中にはフィットネスジムが開かれ、公園にはランニングをする女性の姿が朝早くからみられるようなっている。商店にはきらびやかで可愛い商品が並び、コスメやウィッグなんかも新たに並ぶ。そう、今街の女性たちは皆ファッションに目覚め、空前の女子力ブームとなっていた。
「うん、ならなさそうじゃないかな?確かにみんな鍛えて健康的でよさそうで、最近城下ではファッションアイテムが売れに売れているって話だけど、それって可愛く聞かざる方面で女の子らしくなっているのだろうけど、奥さんにしたいかと言われたら……うん、ご遠慮します?」
真人が真顔で手でノンノンと意思表示を示す。まぁそりゃあそうよね。
つまるところ、一方通行でしかないのだ。美人で可愛く綺麗であっても、中身が無ければこの異世界では通用しない。うん、働かなければ生きていけないの。男女分業のこの世界では女性のほとんどは家事にいそしむのが普通だ。だって、女性が働きに出ても子供ができれば休まざるを得ないし、男が専業主婦なんてやっていたらその間は無休で過ごす羽目になってしまう。だから、結局、社会制度の整っていない異世界で女性の社会進出なんて、ましてや見た目だけで結婚出来るだなんて甘すぎるの。
「つまりはそういう事。いい、すもも。いくらダイエットをしたところでこの世界では結婚には結び付かないの。見た目が奇麗なだけじゃあ意味がないんだもの」
「でも、お母様って家事一般は普通にできますし、真人様の好きなワショク?も作れるんですよね?」
そりゃあもちろん出来ないこともない。けれども、真人のレベルと比べてしまえば天と地との差があるわけで、それが魅力になるとは到底い思えない。
今日も今日とて魔王オウカの空中庭園。塔にそびえる巨大な桜の木の下で、美味しいお茶とレアチーズケーキに舌鼓をうつ。本当に美味しいのだけれども、か、カロリーが結構あるのよね、コレ!
「えへへ、どうです?おいしいですか?お代わりもたんとありますから!」
「ありがとう、サクラちゃん!愛してるぅ!」
目の前であーん♪なんて、ラブラブいちゃいちゃしている勇者真人と魔王オウカに、私は頭を抱える。
このカップル何でもできすぎじゃあないかしら?料理洗濯諸々家事一般自分たちで一流以上にできて、戦いも恐らくは普通の魔王ですら勝つことは難しい。お仕事は二人が組んでからは右肩上がりで領の状態。それでいて、美女に……び、美男だ。ええ、目つきはあまりよくないけれど、まぁ、それなりに?格好は良いし?
「お母様、そこは素直に認めればいいと思いますよ?」
「自分でモテないモテない言ってる奴にあんたはイケメンなの、とは言いたくないわね」
ともかく何でもできすぎる。うん、お城の中なのに何でこんなに家事ができるのかとっても不思議なのだけれども、そこのところはどうなのかしら?
「私ってその、昔に魔眼を暴走させてしまったことがありまして、そのせいでここにメイドさんたちが立ち入ってこなかったんです。ご飯なんかは時間を決めて逢わないように、としてくれていたんですけど、大体量が少なくって。だから食事と一緒に食材を置いてくださいってお願いして増やしてもらって、あとはアリステラお姉様が暇なときに教わりながら勉強して、ついでに異世界のテレビを見て学んだんです!まぁ、あちらの世界の食材がどうしても手に入らなかったりしてあきらめざるを得ないこともあったんですけどね。ちなみにお掃除はお母様がきちんと自分でするようにって言ってくださっていて、洗濯物は最初は大変でしたけど、今は自分で洗っています。今は私の設計した魔導洗濯機があるので簡単なんです」
と、えへへーと真人のお膝で幸せそうな魔王の弁である。
うん、できないからって設計開発までしちゃうのってどうかしてると思うの。
「はっはっは。サクラちゃんはすごいんだぞ!可愛いんだぞ!うん、マジ可愛くてたまんないんだけど、どうすればいいかな?」
「知らないわよ。というか、何でこっちに振ってくるのよアナタは!」
真人の顔が見たことも無いほどに顔が緩んでいる。本当に彼女の事が好きなのね……。
「お母様、これは立ち入る隙が……」
「無いわよ。女子力以前の問題に彼女も彼も、互いに愛し合ってるのだもの。……それでいいの。二人の間に入り込もうだなんて――」
ぽむんと音がして、白くてモフモフとしたものが真人の頭に落ちてきた。うん、あれって確か、火龍の姫だったわね。
「ああ!自然と姫様のお膝に収まりました!お、お母様、これは一体……」
「色々と突っ込みどころがあるけれども、これはこれで愛のカタチなのでしょうね。うん」
結局のところ、こと結婚に関していえば女子力なんて関係は無い。好いた惚れたなんていうのは心と心がつながればそれだけでいい。
まぁ、見た目はもちろん大事なのだろうし、女を磨くというのも大事なのだろう。
だけど、本当に大事なものは――
――ふと、彼との出会いを思い出す。
ぐちゃぐちゃのドロドロになってしまっていた私を、躊躇なく引き出してくれた彼の事を。
――けれども過ぎ去った日々はもう、戻らない。
大切だったモノはすでに手のひらから零れ落ちてしまった。
きっとそれはどうしようも無かった事。私では、彼でも抗いようもなかった事。
だから私は次に進まなければならない。愛している彼を過去にしなければならない。そう、彼の事を忘れて――
「忘れなくてもいいし、バアルを想う気持ちは大事にしていて欲しいって俺は思う」
「え?」
思いがけない言葉に私は真人を睨むように見てしまう。それでも彼はこともなげに続ける。
「アイツの事を大切に思うってことはすももちゃんやあんずちゃんにくるみちゃん、そんでもってベルにアーリアちゃんにペシテちゃんの事を想うって事でもある。だって彼女たちはアイツの置き土産なんだからね」
だから、彼の事を想い続けて欲しいのだと。彼の子供たちを想い続けてあげて欲しいのだと真人は言う。
全く持って勝手な話だ。
だからこそ、私は真人を嫌いになれない。ああもう、本当に自分が嫌になってしまう。
「それでその、すもも?そう言う分けでダイエットはこれで終わりって事でいいのよね?」
「え?お母様、何を言われているのですか?」
にっこりと天使のような笑顔ですももが言った。うん、だからね?お腹のお肉はつままないで欲しいの!やっぱり少し痛いから!
「痛いのは分かっています!ですが!痩せないとダメです!というか、健康的な意味でもやせていないと!あんず姉さまと約束を――あ」
あ、と言ってすももが固まった。
なるほど、あんずとの約束だったからあれほど迄に私をダイエットという名の女子力に駆り立てていたらしい。まったくもう、仕方のない子なのだから。
「まぁ、確かに少しは減らしておかないといけないし、もう少しだけ頑張ってみるわ」
その言葉にすももの顔がぱぁと明るくなり。
「その代わり、すももにも付き合ってもらうからね?」
という言葉に少し表情が固まってしまった。
いい?すもも。言うは易く行うは難しなの!だから一緒に地獄に落ちましょう!女子力とは、修羅の道なの!!
「ううん、女の子って大変なんだね」
なんだか自分だけ関係ない顔をしていた真人の膝に蹴りをかましておいた。
自分が痛かった。
足をさすりながら私は大きくため息をつく。
新しい暮らしにはまだ慣れない。けれども、私は前に進んでいくことにする。ええ、ほんの少しだけ女子力を磨きながら。
……つまめるくらいならまだ大丈夫だと思うのだけど。うん、どうやらすももの基準ではまだダメらしい。少し厳しくないかしら!?
これにて挿話その1は終わりとなります。
その2が終わり次第、5章へと進みます。
そして、おそくなりまし( ˘ω˘)スヤァ