表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:大魔王のお姫様と新たな勇者と女子力リターンズ
237/554

挿話:大魔王のお姫様と新たな勇者と女子力とリターンズ4

 木漏れ日のような暖かな場所、そこに彼女は幽閉されていた。

 今まで忘れかけていた桜の――見たことも無いほどに見事な大樹の下。

 大魔王城から橋渡しになった塔の上。

 空中庭園と知ってしまえば聞こえはいいけれど、そこは正しく彼女を幽閉する陸の孤島。


「そんなところにずっと一人で過ごしていただなんて、寂しくなかったのでしょうか?」


 大魔王城に用意された一室。

 夕飯を終えて、久々の親子水入らずの時間にすももは物憂げな表情でつぶやいた。


「私も教会にいたころ、お母様や姉さまと中々逢えなくて寂しかったのを覚えています。それに加えて、オウカ様はご家族の方だけではなく、使用人の方とすら逢おうとしていなかったとお聞きしました。私なら耐えられなくって、きっと抜け出しちゃいますね」


 すももは決して、魔王オウカに対して同情をしているわけではない。

 彼女はたった一人で過ごすのを強要され、それでもなお自分の力を高め、学び、大魔王の娘という重圧をはねのけ、氷結の魔王と呼ばれるほどの実力を自らのモノとしていたのだから。

 ええ、まぁ、その、ダイエットする様は普通の女の子、というか運動音痴なのほほんとした可愛い子と言う印象だったけれども!


――けれども彼女は本物の魔王だった。


 その能力も、考え方も、実力も。たとえ、自分の領に行くことが出来なかったとしても、彼女が本物だという事は間近で見て感じることができた。


 間違いなく挑みかかれば一秒と持たずに殺される。私の神から与えられたチートも、今まで積んできた魔法の力も彼女の前では無力でしかない。

 あらゆる攻撃総てが無効化され、傷すらつけることもできず敗れ去るだけ。


 筋肉痛で泣きそうになっていたけれど!開脚で泣いてたけれども!


「本当にすごい方でした。ええ、本当に!まさかあれほどまでにロボに関して精通されていただなんて!私感激したんです、まさか同じ女性でロボについてあれほどまでに話し込める人がいるだなんて、想いもしなかったんです!まぁ、ベル姉さまも色々と話を聞いてはくださるのですが、機械いじりはされたことが無いらしくって、格好良さくらいしか話せないんです。ええへへ、まさか内部構造から動力の伝達率の効率についてまで話せるだなんて……」

「本当に好きよね、ロボ」

「そりゃあもちろん!お父様の娘なんですから」


 そう微笑むすももの笑顔に、かつての彼の姿を思わず重ねる。いつも機械ばかりをいじっていて、何かにつけ楽しそうに子供たちと遊んでいた。趣味と実益を兼ねているんだ!と力強く語っていたけれど、割と、その、うん、将軍たちの目が痛かったのはここだけの話。


「それで、お母様ダイエットの方はどうでした?」

「一日で痩せれたら誰も苦労はしないわよ」


 だからお腹をつままないでくれるかしら?ええ、少し痛いから!


「くるみちゃん……寂しがってないか心配ですね」

「ええそうね。でも、あんずが様子を見てくれているから大丈夫よ。あの子の他の兄弟姉妹みんな世話を焼いてくれているみだいだから」


 あの日――魔獣ゼブルと真人が名付けたあの化け物から分かたれた少女。


――私のお胎の中にいたはずの彼の置き土産。それがくるみだ。


 生まれたばかりだけど見た目はすでに小学生程。なんとすでに言葉を話し始めている。


「ふふふ、くるみちゃんはきっと天才なんですよ!いずれはベル姉さまの次代の魔王になってくれると私は信じているんです!」

「すもも、そこは私が、と言って欲しかったのだけれども?」


 ジトっと見るとすももは目を泳がせている。うん、こっちを見て話しなさいな?


「それはその、ベル姉様が引退されるとき私はきっとお祖母ちゃんですから。そこはお父様の血を濃く受け継いでるくるみちゃんの方が適任と言う分けです。ですので!色々と興味を持ちだしている今のうちに、レンチとドライバーを触らせておかないと――」

「すもも、その英才教育はお母さんどうかと思うの」


 ええ、あの人の子供と言う事を考えてみれば間違っていないのだけれども、うん、流石に生まれてひと月も経たない子供に工具を持たせて遊ばせるのは危ないんじゃないかしら?まぁ、あんずにもすももにも、あの人がこっそりと持たせていたような記憶が無きにしろあらずだけど!


「大丈夫ですよ、お母様!義兄弟の皆さんにお話を聞いたところ、みんなそうやって育ってきたって聞きましたから!」

「あの人はぁあああ!!」


 私は思わず頭を抱えてしまった。だってそうじゃない!どんな伝統を残してくれてるのよバアルは!


「だけど、それがきっとお父様を感じれることなんだと思うんです。機械をいじることはお父様とつながること。きっと、お父様の事を何も知らないくるみもそう感じてくれると思うんです」


 だから持たせて遊ばせてあげるんだ、とすももは言う。


――確かに、それならばその方があの子の為になるのかもしれない。私と同じで父親との思いでが何もないのは、寂しいのだから。


「……ところで、すもも?そろそろ私のお腹のお肉をつまむのをやめてくれないかしら?」

「お母様がお肉のぷにぷに感に気づくまではこのままです!まったく、前までここまでぷにぷにじゃなかったのに……」


 そう言ってすももはなかなか私のお腹から手を放してくれない。ううう、だって仕方がないじゃない!くるみがお腹の中にいたのは気づかなかったのだけど、妙にお腹が空いてていつも食べ物を片手にせざるを得なかったのだから!


「ダイエットは女子力です!これからは真人さんのおそばにいるんですから、もうちょっと綺麗になってないと」

「だから、どうしてそうなるのよ!本当にもう!……すももは真人の事何とも思わないの?彼は――」

「そうですね。確かに真人さんはお父さんの仇です。でも、開口一番に謝られましたので、私は何とも。むしろ好意的ですよ?だって、お母様も姉さまも、私の妹のくるみちゃんも助けてくれたんです。恨みつらみなんかより、恩義と尊敬の方が大きいです。お母様はちがうんですか?」


 すももの言葉に私は思わず顔を背ける。

 何度も、何度も彼の事を仇だと言っているのだけれども、もう私は彼の事を恨めていない。胎に刻まれた魔紋の影響と思いたかったのだけれど、それはもう機能させていないらしい。なら、この気持ちを私はどう――


「そこはお母様の心に素直になってくださればいいんです。私はどんな答えでも応援するつもりですから」


 にっこりとほほ笑む彼女に、私は思わず破顔する。ああ、この子はやっぱり叶わないな、と。


「だからまずはダイエットです!これもひとえにお母様の再婚の為!そして私の――けふんけふん」

「ん?待ちなさい、すもも?え、え?あ、貴女まさか――」

「おおっともうこんな時間です!早く寝ましょう!素早く寝ましょう!明日も早いのですから!」


 待ちなさい!と言う間もなく、すももは自分のベッドにもぐりこんでしまう。まったくもうこの子は自分の気持ちを私に肩代わりさせようとしていたのね。


 はぁ、とため息をついて窓の外を眺める。


 外には今日も三つの月が昇る。もう見慣れた夜空。見慣れてしまった、夜空。


 私は薄情な女なのだろうか?あの人を殺した男に少なからず想いを寄せてしまうだなんて……。



――答える者は誰もいない。



 うん、寝息が聞こえるからもう眠ったのね。本当にもう、昔から寝つきは良いのだから。

 すももの頭をなで、私はそっと声をかけた。


――ごめんね、すもも。お母さんは貴方たちをあの人に――バアルに捧げようとしてしまったの。だから、本当はお母さん失格なの。真人は操られていたから仕方なかったんだって言ってたけれど、私の心に少しでもあなた達を捧げてしまってもいいだなんて気持ちがあったから、そうしてしまった。きっともう、すももをあんずを大好きだって言う資格すら……。


「真人はそれでも、許してくれるさだなんて軽く言うの。本当に、変な奴よね」


 まだ気持ちの整理はつかない。けれど、彼の子供たちをこうしてまた撫でられる日々を取り返してくれたことだけは真人に感謝することにする。うん、今はこれが精いっぱいだけれど。



 ……ところですもも?起きてないわよね?うん、寝ながら私のお腹を揉まないで欲しいのだけれど?とっても悲しくなるから!

今日は少しだけはやめに( ˘ω˘)スヤァ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ