32話:何をやってもうまくいかない日は全部投げ出して寝るに限るけど眠れないよね?
教会から段ボールでスネークしながら逃げ出して、何とかかんとかたどり着いたよリリア・モル☆ファさんの邸宅屋敷!人の国の近くにひっそりと建ってて割とわかりづらかったんだよ!街道というか入り組んだ小道の先だったし、不便そうだな?
ともあれ二日酔いで頭を抱えて虹色の見えてはいけない何かを吐き出していたサラさんに頑張ってもらって、やっとたどり着いたのだけれども、流石に一人ぼっちは寂しくて、思わず地下があって潜ったら見知った顔に行方不明の魔王バアルの子たちまで見つかったからラッキーかなって?
……まぁ、庭園にここぞとばかりに魔法陣があって、そこの真下に通じる地下室って探索してくれって言ってるよね?……言ってないかな?
「普通思わないんじゃないかしら?」
「そうかな……そうかも?」
ううん、リリアさんには通じなかったらしい。おかしいな、大体地下に潜れば色々と潜んでるから怪しい地下室があったらまず潜る者じゃないの?違うの?違うかー。
「そういうわけで、リリアさんの計画は実行させない。魔王バアルは復活させないし、させられない。うん、魔石が無いから無理なんだよ?なんだか前にも言ったけど、あの魔王バアルはもう戻ってこない。……リリアさんも分かってるんじゃないの?」
色々と勉強して分かったのだけれども、魔石とは魂の外殻のようなものらしい。つまりはそれが砕けてしまえば魂は外へ出てしまう。つまりは冥界へと送られ、輪廻の輪に返されてしまう分けだ。だから、復活はできない。ヴァルカスのゾンビ魔王龍は使役されていた冥府の姫がいたからこそできたチートだ。しかし、この場に彼女はいないし、何より――
「すでに魔王バアルは輪廻に還っている。うん、うちの可愛い苺ちゃんからの情報だから間違いないんだよ?魔王国へ走ってもらって、情報をもらって来た。だから、どう足掻いても復活はできない」
それはきっと、宮廷魔術師を名乗る彼女が分かっているはず。いくらあのユウシャに催眠をかけられていたのだとしても、理解はできているはずだ。もう、彼は戻ってこないのだ、と。
「ええ、分かっているわ。そんなことは分かっているの。でも、それならば、新たに生まれ直せばいい。ふふ、それだけの事なのよ!けれども、ただ魔王を生みなおすのだとしても、リソースがどうしても足りない。魂の、彼と言う情報が」
なるほどなるほど、だからベルやアーリアちゃん魔石持ちの子たちを狙ったわけだ。彼女らを魂のリソースとして使うために。でもそれなら、地下にいた他の子たちを使う必要は無かったんじゃないかな?うん、殺されて埋められてたのもいたみたいだけど?
「彼らは単純な生贄よ。ふふ、殺している者がいるのは冥界との繋がりを近づけるための意味付けね。本当は彼らである必要は無かったのだけれども、貰ってしまったのだもの。仕えるモノは使わないと」
不気味な笑顔で少女のようにリリアさんが笑う。うん、見た目的には本当に少女なんだけどね!どう似ても二児のお母さんには見えないレベルで。
「まぁ、その子たちももう開放したんだけどね。流石にまだ遺体までは埋葬できてないけど清めの盛り塩してるし、少しは効果あるんじゃないかな?うん、俺って実は神社系だし?寺生まれじゃないし苗字がTさんじゃないのが悔やまれるね!」
つまるところは、もうどう足掻いても彼女の計画は成功しないと言う分けだ。うん、あの勇者が連れてきたベルたちもニセモノに適当な魔石を突っ込んだ奴だしね?だからリリアさんが求めるリソースは足りていない。どう足掻いても、魔王バアルの再誕は――
「いいえ、できるわ!」
「……すももちゃんを犠牲になんてさせない」
「いらない。ええ、ええ!器ならここにもあるのだもの!」
気づけば俺はすももちゃんを抱えたままで庭園の外に立っていた。そこはリリアさんが立っていた場所。転移――いや、入れ替えの魔法!?
「そう、最初からこうしておけばよかったのよ。あいつらの計画通りにすももを使う必要なんてなかったの」
「待て!それはダメだ!そんなことをしてもバアルは戻らない!戻ってもただの――」
「――そんなこと、知っているわ」
彼女が手に持つのは赤い魔石。あれは――バアルの息子、エルフと混血のアダト・ゼブルの魔石!やっぱりリリアの手に!
「さぁ、儀式を始めましょう。ああ、ああ、そう、やっと私は幸せになれるの。彼と一つになって、彼とずっと一緒になるの。私は溶けて消えて、彼とかれと――」
溶けるように、蕩けるように、魔法陣が光り輝くその中でリリアさんが呪文を唱えてゆく。
止める、止めなくては。けれども魔法陣には結界が張られ、その中に入ることは叶わない!ああ糞、聖剣じゃ火力が強すぎて総て吹き飛ばしてしまう!
「これで、終わり。バアル、バアル、あなたと――……え、待って。なんで?嘘、違う、違うの」
様子がおかしい。正気に戻ったわけではなさそうだけれども――
「お胎に、子供が。私と、バアルの子供が!?いや、ダメ、ダメなの。彼との子供なのに、あれ、わたし、なんで――」
瞬間、闇が方陣を囲む結界を黒い闇が覆う。モクモクと湧き上がる煙は雷光を放ち、収束しながら見たことのある姿へとカタチを変えた。
――それは、魔王バアルに似た醜悪な化物。
――吸収した裸身の母親を晒すように胸部に掲げた、魔王でも、魔族でも、魔物ですらない、魔獣。
バアルになる筈だったその化け物は咆哮を上げた。
遅くなりましたでぇ( ˘ω˘)スヤァ
確認したところ、サラさんじゃなくてお母さんのミラさんになっていたので訂正しておりますOTL