27話:モフモフというものはとても大事なふかふかでモフモフだよね?
「――真人様、どうされました?」
ラグドールの村、ペシテちゃんのお祖母ちゃんの家の一室で、のんびりとおやつタイム中。
分身の俺の挙動に何かを察したのか、心配そうにロベリアちゃんが俺の顔を覗き込んでくる。うん、流石に膝はもう蹴らないでね?分身でも痛いものは痛いんだから!
「変なことを口走らなければそんなことしません!」
「そうそう、真人様が悪い」
うんうんとクロエとロベリアちゃんがうなずいている。ははは、おかしいなそんなこと俺が言うわけないじゃないか!え、そう感じた?それならシカタナイネ!……ごめんなさい。
「はいはい。それで、ナニカあったのかにゃ?」
かにゃ?と可愛らしくクロエが首をかしげる。最近にゃを語尾に多量につけてる気がするけどどうかと思うんだ、ぼかぁ!うん、可愛いからいいんだけどね!
「そうだね、海の方で沢山のユウシャ達がベルとアーリアちゃんに襲い掛かろうとして、辺り構わずはた迷惑に暴れていたから、みんなまとめて落とし穴でボッシュートして地下のプライベートプールにご招待しておいたんだよ?ボットンって感じに?ふふ、俺って親切だね!」
「地下深くってそれってどう足掻いても戻れない地獄じゃ……。えげつなくないかな!?」
そうかな?そうだろうか?ううん、そうかもしれない……?
「えげつないのはいつもの事として、苺ちゃんはどうしていたんです?ユウシャがいたとなると彼女の姿を見せるのは――」
「うん、そこは大丈夫。今はフレイと一緒にお使いしてもらってるから一緒にいなかったんだよね」
そう、苺ちゃんはもう一人の俺の分身と一緒に苺ちゃんは移動中なのだ。魔王バアルの城の地下にロボの基地を見つけたので、苺ちゃんを連れてアークルへとお使いで戻っている道中だ。分身で移動できるぎりぎりの距離まで二人を運んで、そこからはフレイに乗って飛んでもらう予定である。うん、分身出来るからと言ってどこまでも行けるわけじゃないんだよ?
「にゃぅ……」
「こんなにかわいい子を襲うだなんて、襲撃犯は何を考えているんだろうね?」
ペシテちゃんは美味しいお菓子を食べてクロエちゃんのお膝でウトウトしてる。ううん、可愛い。なんだか小さいころの妹を見ているみたいなんだよ。うん、ナニかな?俺、ペシテちゃんを変な目で見てないよ?スカートが少し捲れてるなとか思ってもないからね?おばあさんも包丁をきらめかせないで欲しいな!は、はい、ごめんなさい!白色でした!……ゲンコツは痛いな!
ロベリアちゃんの一撃で痛むおでこをさすりながら考えを纏める。
勇者の襲撃。これは間違いなく宮廷魔術師、リリア・モルファの差し金だろう。そうなると、気になるのが襲ってくる目的である。
彼女は言った。「この領に新たな魔王を生み出す」と。魔王にするでも、魔王を復活させるというでもなく新たに生み出すと言ったのだ。で、あるならば彼女はすももちゃん……俺の知るバアルの子供たちの誰かを魔王にするつもりは無いと思われる。仮に、すももちゃんを魔王にするのであれば、彼女を魔王にしたあとで強大な力で他の魔王候補たちをつぶしてしまえばいい。けれどもリリアはすももにではなく、ユウシャに襲わせた。たとえ、すももちゃん以外に魔王を生み出したとしても、生み出した魔王で他の魔王候補たちを倒してしまえばいいはずだ。むしろその方が顔が立つはずだし、この領のためにも、すももちゃんを魔王にするにしても、別の魔王を生み出すにしろ、その方が今後の為にもなるのだから。
だが、リリアはそれをしていない。いや、できないのだろう。つまり、ナニカが足りていない。それは何か?
――魔石。
そう、足りていないのは魔石だ。
詳しい理由まではわからない。けれどもリリアの言う魔王を生み出すには魔王バアルの子供たちの命ともいえる魔石が必要なのだろう。あのごみ置き場で女に殺されたバアルの息子も魔石を抜かれていた。それでも足りていない。いなかった。だからベルを狙った。アーリアちゃんに襲わせた。ペシテちゃんを狙った。けれどもどれも失敗している。うん、多分それでも狙ってくるだろう。だから、こちらもそろそろ一手必要だ。
「――真人様」
「うん、わかってる。クロエ、ロベリアちゃんペシテちゃんとおばあさんをお願いね?」
うなずく二人を置いてペシテちゃんのおばあさんの家を出る。
「そ、その、真人さん、ユウシャと商隊がこちらに向かってきています。その、いかがいたしましょうか……?」
「報告ありがと、ビオラちゃん。とりあえず村のみんなに報告して、戸締りしてもらっていて」
そう言って、村の外にでる。ユウシャ達は複数の馬車に乗ってこちらへと向かってきているらしく、その馬車の中には人の国の有名奴隷商店の馬車が混じっている。どうやらペシテちゃんのをさらうついでにラグドールの村人たちを奴隷にして連れて行くつもりらしい。うん、モフモフで可愛いし、モフモフだからね!モフモフだからね!
間に合った……間に合ったぞぉおおお!