23話:お仕事は選ばなければいくらでもあるんだというけれど選ばなかったら大体真っ黒だよね?
鮮やかなステンドグラスからさす光は七色に輝き、掲げられた勇者教の統一モニュメントを美しく、荘厳に彩る。美しいその光景の中、俺はその罪を告白する。
「お仕事のあとお腹が空いたので、部下がとって置いたおやつの甘味を部下に黙って食べてしまったんです。私は神に許してもらえるでしょうか?」
「そうですか……。ですが大丈夫です。神はきっと素直な貴方を許してくださるでしょう。あなたの部下の方にもきちんとお話をしてあげてくださいね?」
優しく、朗らかな笑顔でまだ幼げなシスター……すももちゃんがほほ笑んだ。
ああ、なんという事だ!そのあまりの純真でまっすぐな心に俺の心は解かされるようにほぐされてゆく……。
「何をやっているのよ、何を!」
「え、だって教会と言えば懺悔なんじゃないの?特に話すことも無いから、この前つい食べちゃったロベリアちゃんのおやつの話をしたんだけどね!ちなみに、すぐばれてロベリアちゃんが泣きそうになっちゃったから昇天山盛り特製のストロベリーパフェで許してもらったのはここだけの話さ!結果的に俺の出費が痛かっただけなんだよ!」
そう言って、礼拝堂の隅に作られた小さな懺悔室から外に出る。
「何それ美味しそう!……じゃなくてー!すもも、貴方もなんで付き合ってあげてるのよ!」
「ふふ、なんだか楽しそうでしたので」
にこにこと笑顔のまますももちゃんである。うんうん、俺なんかに付き合ってくれるなんてこの子天使かな?
「つき合わせてると思うのならやめなさいよ……うう、あたまいたくなってきた」
あんずちゃんがいくつも並ぶ長椅子に腰かけたまま頭を抱えている。
うん、大丈夫かな?お薬飲む?兵糧丸だけど?
「いらないわよ!そんなよくわからないもの!はぁぁ、一体誰のせいでこうなったと……」
「姉さん、疲れているんですよ。そう、ですから今日はゆっくりと休んで行かれたらいいんですよ!ええ、そうすべきです!ちょうど神父様も本部に帰られていて、私とシスターの先輩しかいないので寂しかったですし」
どうやら本音は一番最後のあたりのようだった。年齢的にはロベリアちゃんよりも少し上くらいだったはず。うん、まだまだ甘えん坊な年齢かな?可愛いな!
「それにしても、こんなところにバアルの娘さんがいるだなんて流石の俺も想定外というか予想外だったんだよ?木を隠すなら森の中というけど、勇者な娘さんを隠すなら教会の中ってよく考えたなって?」
普通に考えればありえないけれども、保護という観点で考えるならばここ以上に安全な場所は無いだろう。
まず、ユウシャたちに襲われることがない。うん、魔王の娘さんってユウシャたちの格好の標的なんだよ?それなのに、自分たちを助けてくれる教会にいるのに襲い掛かれるわけがない。次に、ここは人と魔族たちの交易の拠点であること。つまるところは争いはご法度なわけで、この教会を襲おうなんて考える魔族もいない。だから、すももちゃんを預けるにはここ以外には無い、とっておきの場所なのだ。
「自分のもとにいれば危険が及ぶからと、お母様がこの教会に私を預けてくださったんです。ここであれば必要な勉学もできますし、なにより安全だからと」
うんうん、なるほどね。本当にすももちゃんはお母さんのことが大好きなんだね。話をするときすごくいい笑顔してるよ!
「はい!お母様も、お姉さまも、お父様も大好きです!お父様は……先日の戦で命を落とされてしまわれましたが……。はい、私がきっとお母様のいうことをきちんと聞いて、立派なまお――」
「ごほんごほん!す、すもも?ここでその話はしてはダメだとお母様にきつく言われているでしょう?」
「あ、そうでした。あはは、ごめんなさい、姉さん」
恥ずかしそうに、申し訳なさそうにすももちゃんが頭を下げた。
予想通りというか想定していた通りというか、すももちゃんの母親であるユウシャがすももちゃんを魔王に推挙しているらしい。うん、どう考えても傀儡だね!どう考えてもユウシャが裏から手を引いて魔族の国を支配しようとしているよ、参ったなこれ!
「残念ながらすももちゃん。君がここの王になることは許されない。というか、なって貰ったら困るんだよ?うん、主に近隣諸国というか、この国が?すももちゃんがやる気に満ち満ちてるとってもいい子なのはわかるけどね!」
「ならば、お前は私たちの敵だ。ここでお前を殺して――あれ、殺したら復活するのよね?勇者だし。あれ?ここで復活するの!?」
あんずちゃんがとてもいいことに気づいた!うん、素晴らしい洞察力だ!感動した!だが、無意味だ?うん、悲しいかな俺ってなんでかセーブポイントが移動できないんだよね?移動したいんだけど、死んだら大魔王の間なんだよ。そしたら、お仕事中のはずの大魔王が玉座に座っててね?おお、勇者よ死んでしまうとは情けない。そして死ね!って言ってくるんだよ!大体新しく取り寄せたおもちゃを腰に巻いたり腕に巻いたりしてるんだよ!ファイ〇フォンは流石に懐かしすぎだと思ったら、新しい奴だったよ!欲しいな、Ⅹ!!
「大魔王さんととっても仲がよろしいんですね」
「いや、すもも?そこじゃないからね、そこじゃ」
うん、やっぱり良い子だよすももちゃん!というかピュア過ぎて怖いくらいだよ!?
「言ってるでしょう!この子は純粋で、誰よりも優しいの!だから、貴方に殺させやしない!」
「姉さん……」
覚悟を決めた瞳。どうやってでもすももちゃんをこの場から逃がそうと考えているらしい。
だけど、うん。殺さないからね?というかそもそも俺、お休みで観光に来てるんだし?なんでそんな七面倒なことしないといけないんだよ!お仕事こわい。お仕事こわい!そしたら今度もお仕事こわい?ふふふ、もうゲームオーバーはきついんだよ……。
「かろうし……?過労死!?なんで勇者が過労死なんてしてるのよ!」
「ぐす、頑張りすぎです。休んでください」
死んだような目になってる俺の手をそっと握って、すももちゃんが優しく微笑んだ。ああ、すももちゃんの優しさが心に染み渡るようだ……。俺の為にここまで親身になってくれるだなんて!うん、サクラちゃんがいなかったら惚れてたな?いや、流石に無い、無いよね?
「……あんた、小さい子が好きなの?」
「違うよ?うん、決して違うからね?俺はロリコンさんじゃないよ?条例さんは異世界にはないけど、俺ってほら、見た通りの紳士だしね!というか、すももちゃん年齢の割に小さい、小さくないかな?ちゃんとご飯食べないと大きくなれないぞ!」
「そうですね。せめてもう少し大きくなってくれれば、赤ちゃんを産んだ時に安心なのですが……。姉さんくらいあれば、うん」
「どこを見てるいってるの、どこを見て!」
どうやらすももちゃんは小さいことを気にしているらしい。大丈夫!すももちゃんはまだ成長期!これから大きくなるさ!どことは言わないけど?そして、どうしてロベリアちゃんはまた向こうでクロエと俺の分身のお膝をまた蹴ってるのかな?痛いな!
とっても遅くなりまし( ˘ω˘)スヤヤァ