18話:授業参観の時って後ろのお母さんの一挙手一投足が気になり過ぎたよね?
――勇者教。
それは、異世界から召喚されたユウシャ達が自分たちのために作り出した組織。
冒険者たちを束ねる組織のトップであり、勇者の地位向上と現地の人々をつなぐ橋渡しとして作られたらしい。
まぁ、うん。勇者教なんて名乗っているせいで宗教染みている感じがしないでもないのは気のせいじゃないのが困りものだよね?勇者を支持している神様たちを信奉する統合宗教みたいだし?
「そこのところどう思いますか、奥さん?」
「そうねぇ、押し付けなければそれでいいんじゃないかしら?」
うふふと上品に笑みを浮かべて紅茶をすすっているのは、ベルの母であるアスタロト・ゼブルその人である。うん、間近で見ると本当に美人さんだよ!あと、でかい!とってもでかい!大きいことはいいことだ!本日何回同じことを言ったかは覚えてないけど、いいものはいいんだよ!ふふ、各所の分身にジトが突き刺さるぜ!ありがとうございます!
「それで、今日は何のお話かしら?ああ、昨日の差し入れあとっても美味しかったわ。ふふふ、とぉーっても甘くて、お口に入れた瞬間に幸せになっちゃったわ」
ニコニコとまるで少女のような可愛らしい笑みを浮かべる。ううん、ものすごい破壊力があるなぁ。まぁ、チャームも乗せて来てるのだから当然なんだろうけど、昨日も言ったけど俺には効かないですよ?
「あら、連れない。お友達になって、ここから連れ出してもらおうと思っていたのに」
残念、と言ってアスタロトさんは紅茶に口をつける。
「出たところで危ないだけってのも言ったのに、何で出たがっちゃうかなぁ」
「だって、仕方ないじゃないの。確かにここには綺麗なお庭も美味しい紅茶もあるけれど、私は自分でお庭を弄りたいの!まぁ、確かに眺めるのも嫌いじゃあないけど……。一仕事終えた後の冷たく冷やしたフルーツティーを飲み干すのが生きがいなの!」
なの!と少女然に頬を膨らませる。ううむ、無駄に可愛い。ベルを生んだとは思えないプロポーションに年を感じさせないその美貌。ベルの姉ですと言われても信じちゃいそうだよ、俺!
「生きがいなのはわかるけど、今はとっても危ないからね?」
「危ないのはあの子も同じでしょう?それなら、私だって外に出てもいいと思うの。ダメ?」
そう言ってアスタロトさんは可愛らしく小首をかしげる。うん、ダメだよ?
「はぁぁ、ケチねぇ」
「そう言わないで欲しいなぁ。こうして逢いに来て、現状を話すだけでも割と無茶してるからね?うん、サメのおっちゃんに割と吹っ掛けられたんだよ?まぁ、儲かったからうちの領的にはプラスなんだけど!かなり値切られたんだよ!せめて三割引きで抑えたかったのになぁ……」
簡単に言うと、アスタロトさんに逢わせてもらう代わりに魔導家電を大量発注された訳だ。しかも、お友達価格という名の四割引きで。送料は向こうもちにしてもらったけどね!何とかギリギリ利益が出る?くらいで納めた感じである。ううむ、商売人だよあのサメ将軍!
「魔導家電は便利よねぇ。魔導如雨露は本当に買って良かったわ。あれを作った人はお庭の事を本当にわかっている人ね!デザインも可愛いし、ふふふ、液体肥料も一緒に売ってくれてとっても助かったのよねぇ」
「そりゃあうちのサクラちゃんも菜園大好きだからね!まぁ、サクラちゃんはハーブとか薬草が主だけどね」
「あら、それは素敵!ふふ、一度逢って色々とお話をしてみたいわね。きっととっても楽しいわ!」
アスタロトさんは目をキラキラと輝かせている。うん、本当に土いじりが好きなんだなぁ。
「……それで、どうしてうちのベルが狙われているの?」
「現在調査中。……だけど、犯人の目星はつけれたかな」
今回の一件。間違いなく裏には勇者教が絡んでいる。この領には魔王バアルが生きていたころから人の国との親交があった。その中で勇者教からユウシャが送られてきている。それも、この領の運営に絡むほどに。
けれどもそれが誰なのか今のところは分かっていない。わかっていないけれども、そのユウシャが女で、しかもバアルの子供を産んでいる。うん、今絶賛尋問中のくノ一娘の母親なんだよ!
「そう言う訳で今日ここに来たのはそのユウシャって誰かを聞きたいんだよね。たぶん、と言うか間違いなくそのユウシャが主犯だし?うん、アーリアちゃんをそそのかしたのもそいつかなって?」
「……あら、そうなの?ふふ、ごめんなさい。わからないわ」
てへ、とペロリ、と舌を出して可愛らしくアスタロトさんがそう言った。まさかのてへペロである。無駄に可愛くて様になってるよ!流石サキュバスさん!チャームなしでもマジで可愛い!
「ふふ、思わずクラリと来たけど、俺にはサクラちゃんがいるから聞かないのさ」
「むぅ、本当に男の子なの?」
大きく胸が開かれたドレスからアスタロトさんがむにゅりと谷間を見せつけてくる。あ、みえ、そ、う?いや、うん、けど、うん!大丈夫。俺は大丈夫でぇす!
「……そんなにベルの事が心配なら自分でここから逃げ出せばいいんじゃないの?」
「それは、その」
そう、彼女の魔力と魔法の力ならば、いともたやすくここから逃げ出せるだろう。けれどもアスタロトさんはそれを実行しようとはしていない。いや、できないのだろう。
「つまるところ、この事件が解決した後の事の心配をしているんでしょ?確かにアスタロトさんがここから逃げ出したりすると、庇護しているサメのおっちゃんの面子を潰しちゃうから、魔王になったベルの下に付いてくれなくなる可能性が高まるし?」
「真人くんはイジワルね。わかってるなら聞かなくてもいいじゃない」
聞かなくてわかっていても、聞かないと安心できないんだよ?何せ出会ったばっかりだからね。
「でも、この事件さえ乗り越えればあのおっちゃんは大丈夫だと思うよ?アーリアちゃん、ベルに懐いてくれてるみたいだしね?うん、今日は二人仲良く遊んでるんだよ!」
「まぁ!ふふ、それなら安心ね。真人さんもベルの味方になってくれるみたいだし」
アスタロトさんの柔和な笑みを浮かべる。
まぁ、ベルは頑張り屋さんだし?個人的に応援はしてるかな。
「……ちなみに、バアルを殺したのは――」
「知ってるわ。貴方でしょう?もう耳にタコができるくらいにジョーンズに聞かされてるもの。でも、気にしてなんて無いわ。あの人とはベルが生まれて疎遠だったし、ほとんど仮面夫婦だったもの。だから、ベルの事……お願いね?」
本当に強い人いや、したたかな人だ。そう言えば俺が断れないってもう分かっているからそんなお願いをしている訳だ。まぁ、乗り掛かった舟だしね!今更ベルを見捨てるだなんてするつもりは無いんだよ。
「それを聞いて安心したわ。それで、その……今日も甘味があればうれしいなって!」
「この欲しがりさんめ!」
そう言って俺はこっそりと持ってきてるお土産を渡すのであった。うん、お土産って大事だからね?他意は無いよ?無いから!
はい、いつも通り遅くなりました!!OTL