11話:コゲコゲの日焼けと焼けてない白い肌のコントラストって綺麗だよね?
――海の家。
それは海水浴場になくてはならないものだ。
味付けの濃い焼きそばに伸び切ったラーメンにどう考えてもレトルトのカレー。そして同じ味の色違いのかき氷たちに、あまり冷えていないジュース。どれもこれも夏の思い出に欠かせないもの――。
「いや、流石にそれは普通にサービスが行き届いていないだけだと思いますよ?遊びに来てまでわざわざ美味しくないご飯は食べたくないです!」
「うん、それを言われちゃうと俺は何も言えないなって!そういうわけでへいおまち?」
欠食児童のごとく海で遊んで戦って、水底に沈んでしまった魔獣戦艦を軽く弔ったあと、一緒に来ていた海獣兵さんたちとお昼を食べていた。人っ子一人いなくなったしね!貸し切りでお願いしたら店員さんが快く貸してくれたよ!やったね!材料を適当に調達して、さすがに魚とかはダメなのかなと海獣兵のおっちゃんたちに聞いてみたけど、みんな割と普通に食べるらしい!ぎょぎょ!共食いじゃなかったのか!!
「それはそうですわ。海獣族といえど、魚人の数はとても少ないんです。ほとんどは海にすむ獣の魔人なのですわ!ああ、それにしてもおいひい……!」
ふんすふんすと美味しそうに海鮮焼きそばを食べながら、アーリアちゃんは満足げな笑顔を浮かべている。いつもは塩焼きに鍋ばかりだったらしい。うん、同じく海鮮だけどいいのかな?
「いやいや、なにのんきに一緒にご飯を食べてるの!?普通血で血を洗う戦いが起こるところでしょう!?」
椅子を倒して立ち上がって食って掛かるベルを無視して、焼きそばを焼き続ける。次はソースだよ!うん、海運が発達してる領だから売ってたよ焼きそばソース!マヨネーズに青のりを添えて、これが普通の焼きそばが異世界仕立て!
「普通ってなんですか?! 美味しい!って、だから!何で戦わないのよ!」
「だって、戦う意味がないんだよ?だのに戦うなんて馬鹿らしいじゃない」
ベルはぽかんと口を開けてしまっている。うん、それじゃあ焼きたてのホタテっぽい貝をプレゼント?
「ほあっちぃ!?でもおいひい!!?」
「あははは!って、私もくださいな!ああ、バターとオショーユのいい香りが……」
幸せそうな顔でもぐもぐと食べるベルとアーリアちゃんの顔はどこか似ていてやっぱり姉妹なのだなと感じてしまう。
「おう兄ちゃん!こっちもお代わり!焼きそば!大盛で!」
「はいはい、肉マシマシにしておくね。それにしても、なんでおっちゃんはアーリアちゃんについて着たの?正直、勝手にこんなことしたら水将軍に怒られるんじゃない?」
「はは、そりゃあ大目玉だろうな!だがいいんだよ。うちの姫様はジョーンズ様の妹君の忘れ形見だからな。多少の……いいや、自分でこうしたいと初めて言ってくれた姫様のお願いを聞かないわけにはいかないじゃないか」
なるほど、それはそうだろう。たとえそれが俺でもそうする。うん、妹が結婚すると聞いただけでも相手に殺意を覚えちゃうけどね!お兄ちゃんだから仕方ないね!
「それで、アーリアちゃん。どうしてベルを倒そうだなんて思ったの?たぶん今までそんなこと考えたこともなかったよね?」
「教えて……もらったのですわ。お姉さまの魔石があればこの領を……その、大魔王から守れると」
しかし、そんなに簡単に解決してしまうのであれば皆すでにやっているだろう。うん、あんなお城に軟禁して放置なんてしないんだよ?
「一番の問題はそれを誰に吹き込まれたか、何だけど。多分覚えてないんじゃないかにゃ?」
「うぐ、その通りですわ」
クロエの言葉にアーリアちゃんは頭を抱える。
「誰かに言われた……それは確かなのです。けれども、それを思い出そうとすると靄がかかったようになってしまって……」
「うん、だろうねー。私もそうだったし?」
そう、クロエには経験がある。洗脳、催眠術、人の心を惑わし壊す魔の所業――。
「それができるのは夢魔であるベル様の母君――アスタロト様」
「そういえば、今いるのって水将軍ジョーンズのところでしたね」
クロエの言葉にうんうんとロベリアちゃんがうなずく。
なるほど、そう考えれば確かに辻褄はあう。夢魔であれば催眠も夢の中での暗示誘導もできてしまう。
「お母様がそんなことするわけがないじゃない!趣味の園芸と紅茶が生きがいなのよ!?」
「大丈夫、それは分かってるよ。というか今日ものんびりお茶してるし、むしろこっちに俺らがいるって話してるから、暇を見つけてはこっちを見てるよ?」
「何で教えてるの!?というかいつの間にお母様に逢いに行ってるのよ!!」
分身飛ばせばすぐだし、ちゃんと名乗ってホテルのオーナーさんという名の水将軍にアーリアちゃんのお話したら入れてもらえたんだよ?うん、頭抱えてたな!
「だから、ベルのお母さんがそんなことしたとは考えられない。そうすると、もう一人舞台に上げないといけなくなってくる。それで苺ちゃん、どうだい?」
「……魔力痕が、残って……る。これ、魔族の……魔力じゃ、なくて――勇者の……力、感じる」
ざわり、と聞き耳を立てていた海獣兵たちが色めき立つ。はい、どうどう。まだどこの誰と分かったわけじゃあないから落ち着こうね?腹を満たして心を落ち着かせよう!
最後のとどめはふわふわのかき氷!天然水でできた氷を切り出したものを竜刀:鼓草で薄く削った逸品である。ソースは果物とお砂糖を煮詰めたジャムソース。ふふ、美味しいけど見つかったらマネちゃんにグーで顔面を殴られそうだな!
「ああ、何ですかこれ!何ですかこれ!ふわふわしてます!氷がこんなにおいしいだなんて知りませんでした!」「かき氷……!にゃああ!幸せにゃああ!!」「えへ……おいし……」「うめぇ!何だこれ!」「やべぇ!マジでやべぇ!」「あめえええ!!うめえええ!!」「んへへ!しゅわしゅわかき氷もおいしいのらぁー!」
いつの間にか復活したサラさんがかき氷に甘いお酒をかけて食べていた!おかしい、ビオラちゃんがお酒を飲むのを止めていたはずなのに――はっ!お酒かき氷を食べて、潰れてる!?
何だかあられもない格好でビオラちゃんがが長椅子に突っ伏していた。海獣兵の皆さんは全く気にしていなかったけれども、うん、流石にМ字のままは危険が危ないのでそっと閉じてあげたのはここだけの話である。誰も見てない。イイネ!
今日は早めに。