8話:最近のサメは極まりすぎて空まで飛んでくるからたまったもんじゃないよね?
蒼天の空の下。今日も今日とてギラギラと燃え盛る太陽は白い砂浜を熱く照らし、水着姿の少女たちをより美しく見せている。
「ああ、海……サイッコゥ……」
「真人様、昨日と同じく目がやらしいです」
「昨日と同じで鼻の下伸びすぎにゃ」
「ひゃぁー!ビールしゃいこー!」
約一名を除いて鋭い突っ込みを入れられてしまった!ジトありがとうございます!
俺たちがいるのはコテージから徒歩五分の海水浴場。バカンスに来ている種々様々な人たちが真夏のバカンスを楽しんでいた。うん、異世界なのに海の家が普通にあったよ!!
「いや、そんなことよりお母様を助けに行きましょうよ!普通に私も水着に着替えちゃったけど!というか何で私のサイズの水着が普通に用意されてたの!?」
「それはさっきのうちにビオラちゃんにお願いしておいたんだよ?やっぱりバカンスに来てるんならみんなで楽しんでおかないと損だし?」
そう、先程オーナーに一人宿泊人数を追加することと一緒に水着をお願いしてもらっておいたのだ。サイズはビオラちゃんの目計測であったらしいが、どうやらぴったりだったらしい。さすがクレオさんのお手伝いをいつもしているだけあるね!
「損って……。まぁ、確かに海に来たことなんてほとんど無かったし、楽しそうではあるんだけど。目の前にお母様が捕らえられてるのに、助けにもいかずに遊んでいていいのかって思うのよ。というか、お城を爆破した犯人もあそこにいるんじゃあないの!?」
「うーん、いないかな?」
そう、城を爆破した犯人は誘拐犯と同じじゃあない。なぜそう言えるかというと、爆心地が彼女の母親の部屋のベッドの下であったから。うん、殺意マシマシで仕掛けてあるのにさらうだなんて意味わからないんだよ?
「つまるところ、理由までは分からないけ君のお母さんは保護されてるんだよ。というか、さっきも言った通り、のんびりお茶してるし?ケーキを美味しそうに食べてるし?」
「あー。うん、私のお母様らしいわね。のんきというか、マイペースというか」
ベルは頭を抱えて大きくため息をつく。
彼女の母親をさらった奴に関しては目星がついているというか、どう考えても水将軍のジョーンズなのだけど、爆破した犯人が特定できない。怪しいのはバアルの子供たちに宮廷顧問魔術師リリア・モルファにバアルが今まで恨みを買ってきた人たちだ。うん、候補がかなり多くて絞り切れないんだよ!
そういうわけで、怪しい奴らのところに分身で走っているのだけれども、今のところ特に動きがない。領のトップの城が爆破されているのに動きがないんだよ!どう考えても怪しい。
「全員が示し合わせて爆破してきたという可能性もゼロじゃないのが困りどころかなぁ。うん、四面楚歌?」
「つまり?」
「敵しかいねぇ!」
海出てさらに出てくる監視の多さ!ビーチにお客さんがたくさんいるけれどもその中で見回す限りに十人はいる。隠れているのも含めれば更に倍に増えるんだよ!ううん、大人気だな!
「人気者というよりも命を狙われてるのではなくて?はぁぁ、いつかくる隠遁生活だけを楽しみに生きていたのになぁ……」
可愛らしい赤のビキニを着たベルがパラソルの下で膝を抱えていじけている。スタイルよし、器量よし、魔力もあって努力家で、運動はそれなりにできて、民のことを割と考えている。
王になればそこそこに領を取りまとめていたであろう人材だろう。けれどもうん、君のお父様が悪かったのだよ?
「でしょうね!私もそう思うわ!お父様のあほんだらぁー!」
ベルは海に向かって叫んでいる。うん、青春だな?
「真人……さん。アリステラ、さんと……お話、して……来たよ?」
声がして振り向くと、朝からいなかった苺ちゃんが帰って来てくれた。昨日の顛末を大魔王城に報告をお願いしていたのだ。
「おかえり苺ちゃん。それでどうだった?」
「言って……いい、の?」
ちらりとベルの方を見て苺ちゃんは言う。うん、大体予測はついてるだろうし、言っちゃって?
「ベルさんは……保護しても、しなくても……いいって。現状の……支配体制が、維持、されれば……それで問題ない、と。現状……彼女を……保護する、メリットは……ないから」
「だろうね。知ってる」
仮にベルが死んでしまって、現体制が崩れてしまい、新しい魔王が立ったところで現状の支配体制は変えることが出来ない。なぜならば、以前の戦いでこの領は消耗し過ぎたのだ。そう、彼の持ちうる陸上の全兵力をもって襲い掛かってきて、その総てを焼き払われてしまったのだから。
残された兵力をもって襲い掛かってきたとしてもたかが知れており、こちらの庇護を受けなければ領として維持が難しいというのもある。
だから、政治の場に立てていないベルがいようといまいと関係がないというわけだ。
「ま、助けたからには護るんだけどね?」
「んふ……。真人……さんなら、そう、言うと……思っていました」
にっこりと嬉しそうに苺ちゃんがほほ笑んだ。うん、可愛いワンピースなフリフリ水着がまぶしいぜ!
「真人さま、目がやらしいです」
「やらしいにゃー」
「んへー!もう一杯!」
ジト、ありがとうございます!というかそろそろ誰かサラさんを止めたげて!絶対明日に残る飲み方してるよ、アレ!
「……何よ、変な奴。私、こいつのこと殺そうとしたのに」
「ふふ、真人さんですから仕方ないんです」
飲み物を買ってきてくれたビオラちゃんが帰ってきたようだ。ええと、俺だからって褒めてくれてるんだよね?
「まぁ、真人様は基本的にオウカ様が基本ですし。ベルさんがこの領のトップに座ってくれれば闘争が起きそうにないと考えているのでしょう、どうせ」
「血気盛んな人が魔王になるよりはましって事ね」
うんうんと、ロベリアちゃんとクロエが二人して納得してる。なるほど、確かにそうだね!うん、何も考えずに助けちゃったとは今更言えないし、そっとしておこう。うん、そうしよう!
「打算があるならそっちのほうが安心ね。恩を売られたと考えればこちらとしても下手に出れないのだし、というか現状貴方に頼るほかないのだけれど」
「……一応聞いておくけど、信頼できる部下って?」
「いるならとっくにここから逃げ出してるわよ!はぁぁ、お父様の人望がないなー。私の代になったら変えないとなーとかのんびり構えてたらこれよ。ふふ、もう笑いしか出ないわ」
フフフフと暗い笑みをベルは上げていた。なんとも不憫である。
「それで真人様、これからどうするんですか?監視の目を潜り抜けて各個撃破もしていきます?」
「うん、それはさすがに面倒くさいし、やるとこの領が弱体化していくし、泥沼だしやりたくないんだよね」
見渡す限り敵だらけ。そんな中でコツコツ潰していっても最後は自分だけになるけれども、それでは裸の王様にしかならない。
「必要なのはベルがこの領のトップにふさわしいと認めさせていくこと。そうすればおのずと下はついて着てくれるものさ」
方法としてみれば簡単なこと。観光かな?
「どういう思考回路でそこに至ったのか私はとっても理解が追い付かないのだけど!」
ベルの鋭い突っ込み!うん、こういうところをみんなに見て欲しいかな!
「どういうことなの!?」
「ベルさん、気にしては負けです。いつものことですから」
「そうそう、一々考えてたら頭が痛くなるだけだし?考え過ぎたらこうなるにゃ」
「ひーっく。んぁーしょりゅいーおへぇー」
なんというかドン引きするくらいにサラさんが酔いつぶれていた。め、メディーっく!じゃなかった、ビオラちゃん!お、お水を!サラさんに水を!
「は!はい!あとアンチドートもかけますね!」
さらりとそういうとビオラちゃんは真っ赤な顔のサラさんに魔法をかけている。
アンチドートは割と高度な水系の魔法で、毒を解毒分解してしまうという名前通りのモノだ。俺には特に必要ないかなって思ってたけど、覚えたら便利そうだな?というか、二日酔いにも効く魔法って飲んべえには必須じゃないかな!
「なんというかあなた達って平和ね」
「こうなるまでに紆余曲折ありましたけどね」
「そうそう、いろいろとベル様のお父さんにはお世話になったし?」
にゃーにゃーと鋭い目でクロエがベルを睨む。うん、気持ちはわかるけど、彼女は悪くないのだからステイね、ステイ。
「わかってる。ただ言っておかないと気持ちの整理がつかないから」
暗い顔でクロエはそういう。彼女もまた、魔王バアルのせいで人生を多き狂わされた一人だ。やりたくもないことをやるべきだと誤認させられてやり続けさせられて来た。バアルの娘であるベルには言いたいことが山ほどにあるだろう。
「ああ、お父様が何かされてしまっていたのですね。本当にごめんなさい。今の私に償いなんてできないけど、せめて謝罪の言葉だけ――」
「んーそれで充分かな?というか、元凶は真人さんが吹っ飛ばしたし?」
けれどもクロエはあっさりとベルのことを許した。うん、まぁ元凶が吹っ飛んでるしそうなるのかな?
「そうなると、お父様がしでかしたことが他にも盛沢山であるって事よね?あああ、あ、頭が、痛い……!」
な、なんだか苦労人過ぎてかわいそうになって来たぞ!うん、親がいろんな意味でアレな人だと子供ってとーっても苦労するよね。かく言う俺もそうだったし?北極点からの生還は涙無くして語れないんだよ?
「く、苦労していたのね……」
「おかげで死んで、勇者やってます!けど、大魔王に割と頻繁に殺されてるから最近あんまり気にならなくなってきてるんだけど、ちょっとやばいかな?」
なぜかとってもかわいそうな子を見る目でみんなからみられている。し、心外だな!そんな目で見られるくらいならジトのほうがいいんだよ?え、おかしいかな?
「「「「おかしい!」」」です!」
満場一致でおかしいらしい。ううん、不思議だな?
『見つけた、でぇええええすっ!』
唐突に、そう、唐突に大音量のスピーカーでジャカジャカと音楽を鳴らしながら海の向こうからナニカがやってきた。うん、ナニカがやってきたよ!何だよあれ!!
「魔物?ふ、船!?」
「あー、あれってたしか……」
「ええ、水将軍の戦略魔獣ですわね。乗っているのは――」
露出度の高い水着で自己主張の激しい胸をぶるるんとさせている長い水色の髪の美少女が船型の戦略魔獣のデッキに立っていた。
『我が名わぁ!アーリア・ゼブル!!バアル・ゼブルのぉ!娘が一人ぃ!ベル・ゼブルぅ!!いざ尋常に!!ぶっ飛びですわぁ!!』
戦艦とも言うべき、戦略魔獣の砲身がこちらを捕らえた。うん、なんだかやばいな!!
今日は早めに!