7話:海に行くだけ行って満足して帰っちゃうことってままあるよね?
タンタンタンシャッシャと軽快に包丁を走らせて野菜を切って、魚を捌く。朝方と言うよりもお昼に近いのでのんびり食べれるお魚のマリネとサンドイッチである。卵サンドイッチさんはロベリアちゃんの好物なので多めに作ってある。うん、決してロベリアちゃんのご機嫌を取りたいわけじゃあないんだよ?生クリームさんと苺で美味しいケーキサンドイッチも作ってるけども、決してそんなつもりは無い。……無いんだよ?
「どう考えてもご機嫌取りなのはわかっていますけど、ハムハムご飯のおいしさに免じて許しましょう。アムアム」
どうやら許してもらえたらしい。うん、これで万事解決だな!
「万事解決ってそんなわけないでしょうが!何この国のトップを連れてきているの!お休みじゃ……お休みじゃあなかったの!?」
起き抜けのサラさんが頭を抱えて机に突っ伏して慟哭の声を上げている。
ううん?おかしいなぁ。ほら休暇だよ?ゆっくり休んでのんびり観光するんだし?うん、このドリっ娘は散歩行ったら拾ったんだよ?
「突っ込みどころが多すぎて頭いたぁい……。おかしい、ワインが足りなかったのかしら?ふ、ふふふ、そう私はのんびりバカンスを満喫するの。書類なんてぜぇーったい見ないんだから!」
「にゃぁ、サラさんが壊れちゃった……」
うへへ!とミラさんがお昼からワインのボトルを開けている。うん、お酒は百薬の長といわれてるけど、ほどほどにね?
「これがー!飲まずにー!やってられますかぁー!!」
グラスに注いだワインをかっぱかっぱと飲み干していく。いい飲みっぷりだな!
「はぁぁ、それで休暇を満喫されているところ悪いのだけどこれからどうするつもりなの?まさか本当にバカンスを楽しむだけ楽しんで帰るつもりなのかしら?」
怪訝な表情でバアルの娘ベルがこちらをジトりと睨む。切れ長でつんとした雰囲気だけど、かわいらしいからあんまり迫力はない。うん、ありがとうございます!
「なんだか不審者の目で生暖かい感じがするのだけど、まぁいいでしょう。それで、どうなの?」
「そりゃあもちろん観光していくよ?お母さんを探したいのだろうけど、無事か否かで言えば、うん
死にはしないんじゃあないかな?」
尤も、殺される可能性は無くとも弄ばれている可能性は無きにしろあらずだけれども。
「それなら、早く……!」
「うん、そこのところは問題ないんじゃないかな?だって、のんびりお茶してるみたいだし?」
「……ん?んんん?」
ベルが訳が分からないと大きく首をひねる。だってそのまんまだから仕方ない。彼女の母であるアスタロトさんはのんびりと庭園で紅茶を嗜んでいた!うん、焼きたてのスコーンがとっても美味しそうだな?
「い、いやいや、どうして?え、なんでそんなことが分かるのよ!」
「何でって実際に見てるからに決まってるじゃないの。というか、君のお母さん胸元開け過ぎじゃないかな?その、ぶるんと飛び出しそうだよ!?」
「お母様をそんな目で見ないで!?あれは単にサイズが少ないから、ゆったり目のを着てるだけなの!」
しかしながらに大きい。フレイア様もかなりの大きさだったけれどもそれを上回る大きさだ。うん、大きいことは良いことだ!もちろん小さいものも良いのだけれども!
「真人様サイテーですね」
「いつものことにゃ」
ロベリアちゃんとクロエの視線が痛い。ふふふ、ジトありがとうございます!
「ただいま戻りました、ってサラさん!?飲み過ぎです!ああ、三本も……」
「んへぇ~」
オーナーさんのところから帰ってきたビオラちゃんが驚きの声を上げる。うん、おかえり?
振り向くとおつまみのチーズをワインのつまみにサラさんが酔いつぶれていた。それにしても、こっちに来てから必ず誰かが潰れているなぁ。
「にゃ?昨日は誰が?」
「は、ハハ、気のせいでしょう!」
どこか遠い目でビオラちゃんがそう言う。素直な子なせいかとっても嘘が下手だった!なんだかクロエがジィっと見てる。
潰れてたのは君だよ?と言ってあげたいけれども、知らないほうが幸せと言うこともある。うん、幸せなんだよ?
「と、ともかくオーナーさんには、知っているとは思いますが追加で人が来ました、とお伝えしてきました。これでよかったんですよね?」
「うん、それでいいよ。こうしておけば向こうも手出しできないだろうし?」
こっちは知っているんだぞ、と先に言ってあげたのだし?うん、俺ってとっても親切だ!
「ここは海の傍、と言うことは水軍将エノシガイオスの……」
ベルが震える声でつぶやく。
そう、ここは敵地真っただ中。ベルにとってはいつ殺されてもおかしくは無い場所だ。
「まぁ、そんなことさせないし、してきたら潰すけどね?こちとら休暇中なのに邪魔されちゃたまったものじゃあないし!」
「笑顔でサラリと怖いこと言いますね。というか、どうあっても休暇と言うスタンスなんですね!」
ロベリアちゃんのつっこみがさえわたっている!うん、だって執事の仕事してないしお休みなんだよ?分身走らせて観光地を調査したり?現地のお店を探してるんだよ!ちなみに、リゾート地には他の領からお客さんがたくさん来ているけれども、内地のリリア・モルファの治めている土地はかなり閉鎖的らしく、お店らしいお店はとっても少なかった。それでもなぜかお土産屋さんだけはあったけど、ぼったくりだったよ!!
「なんだか一人でちゃっかりとこの領を満喫してますね。分身で」
「何で本体で行かずに分身で楽しんでるのか不思議にゃ」
「んぅ~。べつにこんきのがしてないもん~」
何やら聞いてはいけない言葉が聞こえた気がするぞ!ともかくみんなを連れて行く前に下調べは大事だしね!
「それで、お母様はどこに?」
「どこって、あそこだよ?」
指をさしたのは窓の外。高級リゾート地であるこの海岸で一番目立つ最高級ホテル。そう、その名もキング・ストーンホテルである!!なんだか不思議な力が発動しそうなホテルだよね!え、そんなわけない?おかしいなぁ……。
遅くなりましたああああああああ!!!OTL