挿話:開設!ハローなお仕事!7
メイドの仕事は朝早くから始まります
先輩たちとのミーティングが簡単にあった後、すぐに持ち場に就く。
まだ私はお仕事がきちんとできるわけじゃないからお手伝いだけだけれども、いつか一人前のメイドさんになってお城の人の、真人様のお役に立てればと思うんです!
「うん、そう言う訳で配膳をジャンジャンお願いね?バリバリやらないと後が使えてヤバいから、素早く的確に丁寧にやるのが大事なんだよ!」
厨房でカンカンと鍋を振るっているのはこの領でナンバーツーであり、私達をあの勇者から救ってくださっただけではなく、居場所まで作ってくれた真人様。
偉いはずなのにこの領の誰よりも働いていて、誰よりも頑張っていて、誰よりも疲れ果てて死んでいる人なんです。うん、少しでもいいので休んで欲しいなっ!
厨房の料理人はもちろん彼一人ではなく、他にも数人いるのだけれども話を聞く限りまだ真人様が教えるレベルなのだという。
「ゲーハハハ!美味ければ良かろうなのだぁ!!中華の国に行った時に師匠が言っていたんだよ!四本足の物は机と椅子以外、二本足の物は家族以外、空飛ぶものは飛行機以外、水中の物は潜水艦以外、何でも食べれるって!つまり!!美味ければ大体食える!!うん、流石に家族云々とアレだし、人間も喰うのかなとか少し疑問があるけど深く突っ込んだら負けだよ!!ちなみに、机と椅子も材質次第では食べると聞いたのはここだけの話だぞ!」
との弁でした。真人様の元の世界ってどれだけ食べ物に貪欲何だろうともの至極気になるけれども、真人様の言う通り突っ込んだら負けなのでしょう。
次々と並べられていく料理はどれも美味しそうでよだれがだらだらと流れ出てきて、尻尾をブンブンと振ってしまいます。だけどご飯は朝食時間あとの賄いと決まっているので、我慢のしどころです。
賄い、というのはお仕事を頑張ったみんなに、厨房担当のみんなが余った材料なんかで作ってくれるご飯……とか言って作ってるけれども、どれも趣向が凝らされていてとっても美味しいんです!評判が良ければメニューに並ぶのだどれも美味しくて私はいっつも悩んでしまうのだ。とても幸せな悩みだと私も思う。
朝の戦争という名の朝食時間と私の朝ごはんが終わり、食器をみんなで洗う。水の精霊さんと契約を交わしているビオラ先輩はこの時大活躍で一度にたくさんの食器を一気に綺麗に洗い上げるのは見事の一言だった。ほら、簡単でしょ?って流石にまねはできないかな!私は犬族だし、水って割と苦手だし?耳に入っちゃうと中々取れないから……。お、お風呂はきちんと入ってますよ?本当ですからね!
お城の中はとっても広くて毎日きれいにみんなでお掃除をしていく。担当は日々変わって行っていて、いつも新鮮な気持ちでお掃除ができる。高い置物なんかを拭くときは慎重にやらないととっても怖い。うん、ビオラ先輩!それもっちゃダメです!重いからプルプルしてる!プルプルしてます!わーれーちゃーうぅ!!
ビオラ先輩は私と身長が同じくらいなのに頑張り屋さんの努力家さんなんです。なんでも一生懸命にやって最初は失敗しちゃうこともあるけど、次には自分のモノにしちゃうからすごいんだって真人様は言っていました。獣人でも虫族でも魔族でもなくて普通の人間なのに、そこまでできちゃうのってものすごいことなのだそうです。
確かに何でも工夫してやっているビオラ先輩はとってもすごいと私も思います。そして優しくて、お話しててとっても楽しい!教えるのもとーっても上手で、真人様が大魔王城から呼んだ理由も分かる気がします。
お掃除も終わり、お昼の戦争も終わって、中庭でのんびり休憩中。そこから見える訓練場では鬼族の牡丹さんと真人様の分身が試合をしてるけれども、剣を使っている牡丹さんに対して真人様は木刀であしらっていました。
「アンズちゃん見るでござる!あれヤバイでござるよ!牡丹さんも大概にすごいけど、真人様はもっとすごいでござる!」
同じ鬼族だけど蒼鬼の梅雨さんが興奮した様子で真人さんたちを指さす。
それもそうでしょう。真人様は牡丹さんの素早い連撃からの重い横薙ぎの一撃を躱すことなく、全て木刀でいなしているのですから。しかも、その場から一歩も動くことなく。
「師範クラスが牡丹さんだとすると、真人さんは達人クラスか?人間なのに魔力も霊力も何も纏わずにあれだけの事ができとは、どれだけの研鑽を積み上げて……」
うぬぬ、と梅雨さんは唸って頭を抱えています。
聞いた話によると、真人様はこの世界に来てまだまだ日が浅いらしい。私の知る勇者は戦いのない世界からやって来ていて、魔物を殺すことにすら戸惑う人ばかりだという。……まぁ、私の元主はそんな戸惑いも無く遊ぶように殺していたのだけれども。私の家族すら……。
兎も角真人様はおかしいのです。いきなり戦いの世界に落とされたのに、すぐに順応してしまうだなんて……。
「驚くのにも飽きてきたけれども、私達もあの真人様と戦っていたのよね。しかもアレ、分身ってことは
本体の真人様は執務室で書類仕事してるのよ?」
呆れ顔で一緒にご飯を食べていたエリスさんが大きくため息をつきます。
「道路の舗装もしてますね」
「あと川の整備も?何でも川底を深くしてるのだそうです」
「あれ?さっきおトイレ掃除してなかった!?」
他のメイド仲間のみんなが言うには、今日もまたいたるところでお仕事を同時にこなしているらしい。
本当にもう、働き過ぎだと思うんです!
――気が付けば牡丹さんが膝をついていた。勝負は真人様の勝ちのようだ。
「真人殿はやはりおかしいでござる。人でありながらに心を分かつなど本来あり得ない事。聞くに働き過ぎで幾度も死んでいるとか。本来なら恐怖心で次はそうならないようにとするのが人でござる。けれども、真人殿はそれを一切せずに同じように働いている。これを異常と言わずに何といおう」
「しかも、あれでチートなんて何も貰ってないって言うのだから更におかしいのよね。運だけはいいんだーとか言ってたけど、それだけって……」
元から激運チートなんだと言ってたけれど、それなら最初からこの世界に来ていないと思うんです。それ以前にそんな技術を身に着けるほどに地獄を見ていない筈。だけど、真人様は笑顔でこう言っていました。
「いやいや、俺はものすごく運がいいんだよ?この世界に来て恋人ができたし?いつの間にか婚約者までできたし?可愛いメイドさんに囲まれた生活を遅れてるし……あ、ジトですか?ありがとうございます!!」
――とかなんとか。
ロベリアさんも、クロエさんも、もう少し真人様に優しく接してあげればいいのに……。みんな真人様の事大好きなんですし。
だから、みんな真人様のお役に立とうと、少しでも真人様を楽にしようと頑張るんです。だけど真人様はみんなにはちゃんと休むように言って、自分だけ働こうとします。
「うん、俺は死んでも生き返れるからやってるだけだし?いい子のみんなはマネしちゃダメだよ!」
――なんて言って。
けれども、その言葉を聞いてみんなはもっと頑張るんです。早くこんな状況を脱出できるように、もう真人様を死なせないように。
だって、みんな真人様の事が大好きなんですから!
私だってそうです。早く真人様のお役に立てるようになって、真人様にたくさん褒めてもらえるように頑張るんですから!
……頭なでなでしてくれたら嬉しいなー。えへ♪
今日も早めに!!