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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:解説!ハローなお仕事!
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挿話:開設!ハローなお仕事!6

 同じ境遇、同じ鬼族であった牡丹姉さんはこのままこの城の兵士として勤めるのだという。

 悲しいかな、拙者には即決できるほどの勇気はなく、唯々平和なしないでぼうと過ごしてしまっていた。

 うん、ダメだ。働かないとダメだ。と言うかこのままだとダメ鬼になってしまう。拙者が亡き者にしてしまった夫にも怒られてしまう。

……無くしてしまったはずの腕を、じっと見つめる。

 もう戻ることのないはずの左腕。顔に残されていた傷すらも万能霊薬(エリクサー)は消し去っていた。


「拙者は拙者がやってきたこと、やらされてきたことを赦してもいいのでござろうか?」


 城の中にあてがわれた部屋の中、ただ一人で思いを巡らせる。

 抗えない命令とはいえ、拙者は夫だけではなく無碍の民すらも容赦なく切り伏せた。

 命を乞い、殺さないでという小さな子供まで……。


「いっその事、処刑してくれれば……。いや、これも罰なのやもしれぬな」


 綺麗で清潔な服を着て、自分の左腕の感触を確かめる。りはびりと言うのを繰り返し、ようやっとあの頃の感覚を取り戻せてきたように感じる。けれども、牡丹姉さんと同じくこの領の兵になるのかと言われると、どうしても踏み出せない。


 怖いのだ。


 またあの時と同じように目の前で大切な誰かが奪われてしまうのが。

 またあの時と同じように自分の手で誰かの命を奪うのが。


「はいはい失礼しますよ」


 ノックの音が響き、入ってきたのは黒と白でフリフリで可愛いメイド服姿のくっ殺エルフと呼ばれていたエリスだった。彼女もまたすぐにこの城で働くことを選んだのだ。


「エリス、か。すまぬな。まだ決断ができぬばかりに」

「はいはい、その言葉は何度も聞きましたよ。まぁ、仕方ないんじゃないかしら。誰しもが私やアンズみたいに前に踏み出せる訳じゃないんだし。そこら辺をあいつ(真人)は分かってて、時間をくれてるんだと思うよ?」


 なるほど、と会得が行って頷く。けれども、だ。うん、主なのにあいつ呼ばわりとはどうなのだろうか?処断されたりせぬのか?


「されないわよ。というか、真人がそうしてくれって言うんだもの。俺なんて偉くもなんともないから普通でいいよ普通でって。それでもアンズとかは真人様って呼んでるみたいだけどね。あれは普通に懐いてるんだと思うけど……」

「はは、どうだろうなぁ。新しい飼い主だと思っているのやもしれぬな」


 犬族と言うのは基本的に帰属意識が強く、主と認めてしまうとたとえどんな命令にでも従う性質がある。尤も、我らをオモチャのようにしか見ていなかった勇者には懐いてはいなかったようであるが。


 てきぱきと部屋を掃除していくエリスの姿を見ながら考える。拙者はどうすべきであるのか。罪を贖おうにも拒否され、死を選ぼうにも施しを受けすぎてしまった。

 つまるところ、彼――真人殿の元で働きたいとは考えているのには相違ないのだ。恩を返すべき。いや、還さねばならない。拙者の夫の敵を討ち、亡くしたはずの腕を傷を治してくれた。半ば強引に無理やりな感じで治されたのには違いない。けれども、真人殿に感謝の念を抱かないわけが無い。と、なれば己の力を発揮できる牡丹姉さんと同じ兵士になる道が一番良いのであろうが……やはり踏み出せない。


「何を私をみてうんうん唸ってるのか気になるけど、どうせ働くって思うんならメイドでもいいんじゃないの?」

「い、いやいや、拙者にそのようなフリフリで可愛いのは似合わないであろう?その、流石に可愛すぎるというか……」

「そう?私は梅雨のメイド服姿って似合うと思うわよ?胸も大きいし。ぐす、大きいし!」

「まて、それは関係あるのか!?」


 どうやら彼女にはあるらしい。うむ、良くわからん。けれども、拙者がメイドになるというのも悪くないのやもしれない。夫と道場暮らしのときは家事一般は拙者がやっていたのだ。昔取った杵柄というもの。できない訳がない。


「まぁそれに、この仕事になれば真人のそばで働けるしね。兵士になっちゃうと、たまにしか顔見見せに来てくれないって話だし」


 なぜか頬を染めてエリスは言う。うん?まさかお主、真人殿の事を……?


「ち、違うわよ!単純に恩返しがしたいから、沢山手伝いができて嬉しいってだけだし!それだけ……だもん」


 もじもじと、正しく恋する乙女のごとくエリスは言う。いや、だもんって……。


「それで、どうするの?メイドでいいのならすぐにでも伝えてくるけど?」


 エリスはぷぅと頬を可愛らしく膨らませている。

 そうだな、流石にそろそろ決断をするべき時なのかもしれない。気落ちしているとはいえ、このまま怠惰な日々を過ごしてしまえば亡き夫にも笑われてしまう。


「そうさな。うむ、そうさせてもらうでござる」


 これが罪の償いになるとは思ってはならない。それでも、真人殿の助けになれる仕事であると言うのであれば、拙者もエリスらと同じくメイドになるべきなのだろう。


「それでは、まずは研修ですね!」

「え?」


 気づけば、扉から長い髪を後ろでゆったりと三つ編みにしているメイド服な少女が部屋を覗き込んでいた。なんでもエリスたちのメイド研修をしているという少女らしい。小さいのに一部が大きくて、しかも可愛い、だと!?


「ビオラちゃん先輩ってちょっとドジだけど仕事は抜群にできてすごいのよ。うん、ちょっとドジだけど?」

「ドジって強調しないで!?」


 うん、とっても可愛い先輩さんらしい。なるほど、これは中々に楽しい仕事になりそうだ。


「だから!私で遊ばないでぇ!」


 ふくれっ面のビオラ殿が可愛くて思わず頭をなでなでしてしまったのはここだけの話で候。

今日は!早めに!!

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