挿話:開設!ハローなお仕事!2
本来尋問というモノは一人ずつ、かつ尋問部屋と呼ばれる場所で専門の尋問官によって行われる。
しかしながら私が通されたのは椅子の並べられた普通の部屋。そして、尋問官の代わりにいたのはあの勇者だった!
「尋問官じゃなくて面接官で、その前に説明会……的な?」
いまいち自体が飲み込めない。いったい私たちは何に連れてこられたというのだろうか?
「うん、とりあえず人も集まったことだし話を始めよう。ええと――」
「では、まず配布しました資料をご覧ください」
ルナエルフの少女に話を遮られ、勇者さんは何ともしょんぼりとしいた悲しそうな顔をしている。ううん、あの人が魔王の側近といわれる勇者のはずなんだけどなぁ……。
「一ページ目にあります通り、今回皆様をこちらへとお連れしましたのは、こちらの領での職業の斡旋を行わせていただくためです。資料二ページにあります通り、実際のところこの領は以前この領を実質的に統治しておりました魔王バアルによる圧政により人的被害が大量に出てしまい、人手がとても足りておりません。そこで今回皆様にご協力していただきたく集まっていただきました次第で――」
「あ、あのう……」
そっと震える手を上げたのは犬族のポチだった。
「その、えと、私達は強制労働をするためにここに集められたのでしょうか……?」
それは私たち皆が思っていたこと。
私たちの罪の重さを考え見ればそれは当然で、それがどのようなモノでも受けるつもりなのだが。
「いえ、これはあくまでも説明会。無理なら無理で問題ありません。故郷に帰りたいという事でしたら送り届けることもできますし、何をするかしばらく考えたいという事でしたら、しばらくの衣食住のご用意もあります」
予想外の想定外、まったく考えもしていなかった答えが返ってきた。え、送り届けるどころか、帰らなくてもしばらく面倒見てくれるって、どういうことなの?
「遠方へ送り届ける際にはサテラさん……グルンガスト卿による全面バックアップがありますので、ご安心していただければと思います」
しかも、大魔王国の四天王の支援って、ものすごく手厚い!?
「本音で言えばここの領で働いてくれれば助かるんだけどね。うん、本当にどうしようもなく人手が足りないんだよ。猫の手どころか犬の手も借りたいくらいで、助けてください?」
「わ、わふ、えと、エリスさん、ど、どうすれば……」
あわあわとポチがこちらを振り向く。
そ、そう言われても私だって困る。死ぬ覚悟でここまで来たのに、故郷に帰らせてくれるとも、帰れないとしてもしばらく面倒を見てくれると言う。うん、はっきり言って意味が分からない。
「こほん、当方としましては皆さまは被害者である、と考えております」
思わず目が点になる。私だけでなく、ここにいる全員が目が点になっているだろう。だって、私たちが被害者だなんておかしなことを言うのだから。
「ヴォルガイアにて尋問をすでに受けられているとは思います。あれは被害者側であったか、自ら進んで使役された加害者側であったかの選定であったわけです。結果、皆さまは被害者と認定されております。被害者であるのに罪を裁く必要はありません。ですので、皆さまのご希望に沿う形で就職、もしくは帰郷していただければと」
どうやら、私達を彼らは赦すと言っている。
意味は分かる。確かにその通りだろう。だが道理が通らない。
「確かに、確かにその通りなのかもしれない。だが、ルナエルフの少女よ。私たちは同族を殺すという許されざる罪を犯した。例え使役をされていたとはいえ、その罪を贖わぬ限りは救われない。帰郷させてくれると言うが、村の敷居を超えることは私たちにできるはずも無いだろうに」
そう、買えることなどできるはずも無い。中にはその故郷を自らの手で滅ぼしたものすらいる。……そう、私のように。
「んー、それを選ぶのは君たちかなって?許すも許さないも道義的な問題もこちとら知ったことじゃあないし?俺は君らを使役していた奴をこの世界から消し飛ばしたから、少なからず責任があるからね。だから、俺にできるのは道を示す事だけなんだよ?と言うか知ってる?罪人ってお金かかるんだよ?食費とか衣服代とか住居代とか監視の人件費もいるし?うん、働いてくれないのにお金だけかかる罪人さんよりも、普通に働いて沢山働いて幸せになってくれる方がこっちは助かるかなって。もしくは故郷に帰ってのんびりしていいんじゃないかなって」
自分勝手でこちらの事を何も考えていないようで、結果的に幸せになってくれた方が助かると言っている。何とも無責任で理不尽なことのようで理想的な提案だった!いや、確かにそうだけれども、その、うん、気持ち的に整理がつかないというか、帰郷できるはずもなし、私には選択肢なんて一つしか……。
「無い訳じゃないからね?うん、お仕事なんてどこでもできるし?まぁ、うちの領から紹介できるところなんて限られ過ぎてて申し訳なさすぎるくらいなんだけどね。責任くらいは取るから、その辺は安心してくれたらなって?」
本当に意味が全く分からない。なぜ、彼が私たちの職や行きつく果ての責任を取る必要があるのだろうか?
「それが真人さんだからですね。本当にどうしようもない人ですから」
「いやいや、どうしようもないってほら、一応俺って上司だよね?サラさんの上司だよね?なんでジトなのかな?うん、ありがとうございます!」
なんでか部下のルナエルフに睨まれて喜んでいる?
頭の中がごちゃごちゃとしてハチャメチャなまま、説明会は終わってしまったのであった。
遅くなりm(ry