挿話:モフモフドラゴン娘の異国漫遊記8
大通りから少し入った小道に面したそこは元は孤児院であった治療院。
現在は詰め所も兼ねてあるというのだから不思議な場所である。
「病院と警備兵が同じところにってどうなのかなって思うけど、捕まえて怪我しても大丈夫と考えればある意味理に適ってる?こう、腕の一本くらい折れても大丈夫だよね的な?」
「流石にそんなことしねーよ!?きちんと、適切に逮捕してるからな!」
モフモフのわんこな警備兵さんが小さいうさ耳の女の子をお膝にのせて抗議の声を上げる。
うん、小さな女の子を膝に抱えてる時点で警備兵としてどうなのだろう?逮捕案件なのでは……?通報、通報を……。
「しなくていいからな!?こう見えてこいつは――ったぁ!?こら、ミウ!俺の太ももをつねるんじゃあない!」
「女の子の年齢をそう簡単に言うのはマナー違反よ。マナー違反」
ぷんすかと頬を可愛らしく膨らませているが、実のところは割といい年齢のようだ。うん、何でもない。口には出してない。己、言葉、出してない。ぷるぷる。
「まぁ、ミウ姉さんとヴォルフさんがラブラブなのはいつもの事ですから」
「狼と兎がラブラブって、そこのところはどうなの?」
そう、獣で言うならば捕食の関係である。なのに二人は恋人だという。まったくもって不思議だ。
「まぁ、紆余曲折あってこうなったんだがな。というか、好きになっちまったら種族とか関係ねーぞ」
「そうそう。関係ないの。体格差も最初は気になったけど、こうして彼に密着できると思えば……ね?」
「こら、恥ずかしいじゃねーか」
どうやら相当にお熱いカップルらしい。熱すぎてくらくらしそうなくらいに。ミウがたまに振り向くとヴォルフの胸に顔をうずめてスリスリとしている。く、見せつけて……!
「で、なんでここに?林檎ならさっき帰ったけど」
「はい、一緒におやつ食べてきました」
「じゃあ、なんで?」
ミウは首を可愛らしくかしげている。その頭をヴォルフが優しく撫でる。これがうわさに聞くばかっぷ……いえ、なんでもありません。
「フレア……が、敬語……に!?」
「恋する乙女は強いと言う格言通りなのですね」
それは違うと思うかな!
しかしながら、なぜ二人は己をここに連れてきたのだろうか?そもそも、ここは病院で、警備兵の詰め所で……。病院にしては入院している人はいないし、警備兵の詰め所にしても人が少ないというか子供ばかりだった気がするけれども。
「病院と言っても急病人以外はだいたい林檎がチートで治しちまうからな。病人はほぼいねぇ」
「それに、警備兵も普段はお城の方にいるし、ここに詰めてるのはヴォルフくらい?」
うん、詰め所と言うよりお家だった!え、何?二人の愛の巣にお邪魔してしまったの?
「まぁ、愛の巣と言うには子供たちがいるから違うんだがな?というか、一応仕事場でもあるし」
「林檎がいる間は特に警戒してくれてるの。彼女を狙ってる他領の人ってわりといてね。スカウトしに来るの。まぁ、本人も勇者だし自分で何とかできないことも無いんだけどね」
確かに林檎には自覚は無いだろうが、彼女がいるだけで領のほぼすべての病人もけが人いなくなる。これはとんでもないこと。正しくチートなのだ。
「本人は自分が使えない子だってずーっと言ってますけどね。みんな感謝してるんです」
「うん……林檎は、すごい……」
二人の評価も高いらしい。
恐らくはそれを受け入れられないのは彼女の過去の経験のせい。きっとこれからも彼女はその評価を素直に受け入れられる日は来ないのだろう――。
「まぁその話はどうでもいいです。ここに来た!その理由は!二人のラブラブっぷりを見てもらうためなのです!」
「うむ、意味が分からん!」
何をどうしてそうなったのかがわからない。え、何かな?己はわざわざ二人がイチャコラしている様子を見せつけられるために連れてこられたの?何その拷問!?
「拷問ではありません。見ての通り、二人は種族が違います。ですが、こんなにも愛し合っていて近々に結婚の約束も交わしたとか」
「ぶっふ!?何で知ってやがる!」
どうやら誰にも知られていない事実だったらしい。
「ふふふ。私は今でこそメイドですが、元は諜報部の一員。情報を探るのはお手の物なのです」
えへんと小さな胸を張ってロベリアが答える。なるほど、小さいからどこにでも潜り込んでいけるわけか。
「むむむ、背が低いのはフレアも同じじゃあないですか。コホン!兎も角です。私が言いたいのは一つ!恋に種族も年齢も身長差も関係ないという事です!見てください、このラブラブっぷり!思わず血反吐というかお砂糖を吐きそうなくらい甘々ですよ!ぐ、ぐふう……」
自分で言って自分でダメージを受けている。うん、見ていて胸やけをしそうなほどのラブラブっぷりである。
「うん、お前らさっさと帰れ!と言うか俺ら見世物じゃねーよ!?」
「んふふ、照れちゃってもう♪」
「だー!ミウまで何言ってやがる!」
声を荒げながらもミウを抱きしめる腕を話すつもりは無いらしい。熱々っぷりがヤバイ。た、退避を、苺、そろそろここから……し、死んでる!?
「いえ、寝てるだけですから」
どうやら余りの甘さに耐えきれなかったらしい。苺、不憫な……。
「落ち着いてください?苺は寝てるだけですよ?」
この経験をきっと生かして、苺の無念を果たして見せる!
「だから寝てるだけですって!苺も起きてください!そろそろ帰りますよ!」
「にゃ、むぅ……」
けれども、無念を果たすとしてどうすれば良いのだろう。そこのところどう思う?
「んー……れっつ、告白?」
告白するしかないらしい。
……?
こ、告白?己は一体何を告白すればよいのだろうか?ううん、困った……。
「さらっと会話したのにまず気づいてください!!」
遅くなりましたOTL