挿話:モフモフドラゴン娘の異国漫遊記3
「そしてこっちに飛んできて、何で私の頭に乗ってるんですかね?」
『それは己が聞きたい』
そう、真人の頭の上にいるはずの己はいつの間にか真人のメイド、ロベリアの頭の上にいた。休憩時間との事で食堂への移動中。お腹もすいていたところなのでちょうどよかったのだけれども、真人のそばにいるという目的からは遠ざかってしまった。むぅ、困る……。
「というか!キュウ♪とか鳴き声じゃなくて普通に話せるじゃないですか!」
「きゅう?」
「いや、ちょっとー!」
もふもふと己の顔をふにーっと伸ばされる。割と、いふぁい……。
実のところ今も普通に話しているわけではない。近くにいる者に言葉を魔力で飛ばして話をする。いわゆる一つの念話というモノだ。
「ロベリア、ちゃん。お……落ち、着いて……!」
あわあわと真人の部下だという勇者の眼鏡な苺が我をもふんと奪って抱きしめる。ふむ、苺の方が柔らか……まてロベリア、またつねろうとするんじゃあない!
「まったく、人間の姿になれるのであれば自分で歩いてくださいよ。人の言葉も喋らないで真人様にずーっとなでモフされてましたし」
なぜかは分からないけれどもロベリアの目が厳しい。もしかしてロベリアも撫でモフされたかったのだろう、いーふぁーいー!
『うう、そうは言われても今の己は真人の魔力で構成されている故、節約しなければならん。だからこの姿で、言葉を普通にあまり話したくないのだ』
「その割に、向こうにいた時もその姿ではありませんでしたか?」
ついとロベリアから視線を逸らす。
「あ、目を逸らしました!逸らしましたよ!苺ちゃん、今見ました?!」
「あ、あははは……」
苺が苦笑いをしている。
しかたない、これは仕方ないのだ。己はまだ魔力量が少なく燃費も悪い。だからこの姿がとっても、ものすごく楽なのである。声を普通に出すのも割としんどい。だからこの姿でキュウキュウ言って必要な時だけ念話を飛ばすのが己の普通の姿なのだ。……という建前が三割、残りはこの姿の方が楽しいからだったりする。この姿のままでヴォルガイアの温泉街を歩けばなでなでモフモフされておやつも分けてくれたりするし?
「フレイア様はその事について何か言っていませんでしたか?」
『その姿のままでは真人に愛玩動物にしか思われないぞ、と。己はそれでも良いのだが……』
「「いいの!!?」」
なぜか二人が唖然としてる。やはりそれではダメなのだろうか?
「いやダメでしょう?その、ええと、フレア?一応貴女は真人様の婚約者になったのではありませんでしたか?」
『その通りだ。けれども、真人のそばに入れるならそれで』
今度は二人が頭を抱えている。むぅ、母様もだったけれどもどうして理解してもらえないのだろうか?
「理解するも何も……」
「理解は……できる。けど……そこで、止まると……女の子として、見てもらえない……よ?」
己は炎龍。自らの炎から新たな子を生み出せるため、通常ならば婚約などせず独り身であるのが普通だ。母様もそうであったし。なのに己が結婚をする理由など――
「それはどうでもいいです。単純に考えてください。真人様との子供が欲しいと思わないのですか?」
ロベリアの言葉に後頭部を殴りつけられたかの様な衝撃を受けた。真人との子供……だと!?
「そう、子供です。女の子として見られたいという事は、まぁ、その、超端的に言えば真人様と子供を作りたいという事につながります。どうなんですか?フレアは真人様と子作りしたくないんですか?」
『そ、それは、し、したくないと言えば、嘘になる……が』
そう、それか頭の片隅にはあったけれども考えないようにしていた言葉。――真人との子作り。
自分の子供は自分だけで生み出すと思い込んでいたせいで思い至らなかった言葉だ。
では、己は真人との子供が欲しいのか?そう問われてしまえば答えは瞬間で出る。
『欲しい。欲しいが、己にそれだけの魅力があるのかがわからぬ』
圧倒的に自信が無い。普段はこのモフモフスタイルであるし、人の姿はほとんど誰かにさらしたことなどない。詰まるところ、自分がどんな容姿であるのかを客観的に言ってくれるものなど誰もいなかったのだ。
「なら、色んな人に話を聞いて見聞を広げるといいと思いますよ?自分の姿の事とか、あとは男の人をメロメロ?にするファッションだとか」
「そ、それは……私も、気に……なる」
ならばすることは一つ!この領で己を磨き、真人と子作りを目指すのだ!
「うん、子作りは結婚してからでお願いしますね?」
『ダメなのか!?』
「「ダメです!!」」
二人にさっくりとダメ出しされてしまった。うむむ、ダメなのか―。
「なんだか考え込んでるけどどうしたのかな?ほい、プリン三人分おまけしておくね」
食堂に到着するとなぜか真人がいた。あれ?さっきまで執務室で頭を抱えていたような?
「分身ですね。真人様は現在各地に自らの分身を飛ばして働かれています」
「無理しすぎ……だよね?」
「ははは!そろそろまたゲームオーバーしそうでちゅらい!」
真人は泣きながら大きな鉄鍋を振るっていた。というか、何でこの国のトップⅡが料理してるのだ!?
「美味しいから仕方ありませんね」
「「しかたない、しかたない。あ、おかわりです?」」
「食堂のみんなも働こうよ!!」
どうやらこの領は相当に平和らしかった。
遅くなりましたOTL