閑話
勇者教の総本山、勇者国ヴァルハラにて行われた会議は混迷を極めた。
各国の名だたる勇者たちが集い、開催される定例の会議。
どんなに殺されても蘇り、心を殺される……或いは封印される以外には、いかなる場所で、いかなる状態であったとしても復活できる、それが勇者。神より遣わされし御使いである。もちろん、魂を砕かれたのであれば消滅するのが定めであるが、殺されたとなると話が違ってくる。
「つまりそれは、円環の理に戻されたと……そう言っているの?」
美しい少女が動揺した様子でこちらを睨む。だからそう言っているではないか。相変わらずこの魔法少女さんは物わかりがわるい。彼女がこの世界に降ろされてすでに数百年、それもまぁ仕方のないことだろう。
「その通りだよ、消滅でも封印でもなく、魔物使いのサトルは死んだ。その魂は滅することなくこの世界から消え去ったというのが観測班の話だ」
「バカな!ありえない!神の目を掻い潜っていったいどうやって?」
槍使いのイケメンが声を荒げる。こいつもこの世界に降りて永いせいか、情緒が不安定なところがある。まったくもって人の話は最後まで聞いて欲しいものだ。
「そこまでは不明。だが、問題はそこではない。勇者サトルは複合チートの実験例、現状彼を超えるチートを持つものはナンバーワン以外にはいないだろう。観測班によると彼は魔王フレイアを使役することに成功していたとの事だが……」
「魔王を!?しかし、ならば一体どこの誰が――」
ざわざわと各国の勇者たちがざわめく。魔王フレイアは魔王の中でもトップクラスの能力を持つ魔王。それを使役できたというのならば、勇者サトルはその魔王の能力を得ることができたという事。その筈であるのに、敗北し死に絶えた。それは勇者たちを戦慄には十分な情報だった。
「それで、そいつは何者なの?どこの魔王?」
「まさか、大魔王が……」
「わからないというのが現状だ。観測班によるとその場に魔王グルンガスト、そして魔王オウカがいたという報告があるが、彼らとの交戦記録はない。つまり、魔王以外の何者かに勇者サトルは敗れたということになる」
そう、魔王フレイアと同格と言われる魔王グルンガスト、そして大魔王の娘と言われる魔王オウカがいたのにも関わらず、勇者サトルは彼らと戦った形跡すら無かったという。しかし、他に魔王のほかに勇者たちがいた、との報告もある。つまり、彼ら魔王を勇者たちが足止めしている間に勇者サトルはフレイアを使役したのだろう。そして、何者かに討たれた。その何者かがわからない。
「まさか……堕ちた勇者が、また?」
震えた声で誰かがつぶやいた。
「そんな馬鹿な!そうならぬよう我らがいるのではないか!」
「そうだ、魔王に与する勇者が現れるなど!」
いいや、ありえないとは言い切れない。勇者の末路、その中にはこのヴァルハラの地下にある。
聖なる行いという名の魔石製造工場。
魔に犯され、穢れ、壊れた勇者たちの隔離施設。魔術紋を刻まれた勇者たちの行きつく最終処理の場所。殺すことのできない勇者が堕ちたとき、我々でも殺すことのできない化け物が生まれ出でる。
だからこれは廃棄物の有効活用に他ならない。堕とされた女勇者たちはここで魔石を生み出させ続けることにより、心を砕き、破壊し、ただの機械の一部へと組み込む。栄養さえ与え続ければ、彼女らは永遠に魔石を生み出すのだ。有用活用しない手はないだろう。
ちなみに男勇者の場合は四肢を奪われ、栄養の入排出のパイプと空気口を設置されたのちにコンクリートに封印される。これが、堕ちた勇者たちの末路。
裏切りは死すら生ぬるいと言うが、非道であれ、非情であれこうせざるを得ないというのが現状である。
――だから、魔に堕ちる勇者などありえないと彼らは言う。
堕ちればどんな末路が待っているのか分かりきっているのであるから。
だがそれでも尚、魔王に与する勇者が現れる。勇者とて人だ。彼らに絆され、人類の敵となることもある。だが、そうなる者は決まって我らより弱い。理由は明快、チートが我らより劣っているからだ。
勇者の強さとはチートの強さによってほぼ決まる。それを逆転できるものなど極々僅か。それも、時間をかけ、そのチートを磨き上げて来た者。そして、聖なる剣に選ばれし者のみ。
しかし、聖剣は邪悪には、魔王には使えない。だからたとえその剣が大魔王の国にあろうとも抜かれ、人類の敵になることなどありえない。
――尤もその聖剣の本来の力はここにあるのであるが。
「皆の衆、我らは神よりチートを賜った。だが、それだけではより一層強化されてゆく魔王たちに太刀打ちができなくなっているのが現状。このままでは勇者の、強いては人類の敗北は目に見えているだろう。だが、我らには新たなる力がある!勇者サトルは残念な結果に終わってしまった……。だが、その力は単独で魔王を打倒できると証明して見せた!そう、我らの新たなるステージに踏み出す時が来のだ!」
会場がシンと静まり返る。そう、ついに現れたのだ。授与のチートを持つ勇者が!
私のもつ奪取のチートと組み合わせたならば、勇者たちは自らのチートを更に高めて行くだろう!
そして、私自身の強化にもなる。ナンバーワンと呼ばれ、勇者教のトップであるこの私の――
勇者たちの歓喜の声の中、かつて私が打ち倒した魔王の巨大な魔石が嵌め込まれた正義の杖を眺める。
ああ、これで私は更に強くなれる。更に――
正義の杖は鈍い紫色の光を放ち、ただ美しく輝いていた。
これにて第三章は完結となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
そして遅くなりまして申し訳ありませんでした!!OTL
いつも通り挿話を2つほど挟みまして四章へ続きます。