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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第三章:炎の龍と温泉と、勇者な執事でベストマッチ!
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閑話

 暗い部屋の中、一人の少年がパソコンのキーをたたく。

 見回せば部屋の中はゴミまみれ。掃除をする主が掃除をする気力すらないのだからしようもない。


 ――事の始まりは数か月ほど前。

 彼の母親が男を作ってどこかへと出ていき、その事を絶望した父親が自殺したことが発端だった。

 その話を面白おかしく書き立てたマスコミたちはたちまちに少年の心を食いつぶし、読者や視聴者たちの興味が薄れるとともに次のネタへと飛びついていった。

 そんな、誰にでも起こりうる悲劇とも喜劇とも言える事が発端だった。

 理由なんてそんなこと以外でも良かったのかもしれない。けれども彼はその事が原因でイジメられた。 何の非も無く、何の理由もなくイジメは生まれたのだ。


 ただ、注目を浴びていてイジメやすかったから。そんな事で彼は壊された。

 イジメて、イジメて、イジメ抜かれて、彼と仲が良かった友達も、親しかった可愛い幼馴染も、そのイジメに巻き込まれて彼の元を去って行った。

 ある者は彼と同じくイジメられて、ある者は彼をイジメる側に回って、ある者は生意気だからと脅迫されて家庭ごと壊された。


 そして彼は何もかもを捨て去って、祖母の家に引きこもった。

 そうなることは当然で、必然で、誰にもどうすることができなかった結果。


――だから彼はもっと壊れて行った。


 部屋から連れ出してくれる友達は遠くに去って、一緒に笑ってくれていた可愛い幼馴染は犯され、汚され、彼女もまた死を選んだ。一緒に暮らす祖母はまるで腫物を触るように彼を扱い、会話すらまともに躱すことは無い彼とその周りを壊した奴らは今日も元気に学校に行っているのだろうと思うとおぞましく、彼は毎日のように吐いていた。


 そうして独りぼっち、たった一人でどうしようもなく壊れて行って、ただ画面を眺めるだけの生活に意味を見出せなくなっていた時――祖母が家に火を放った。


 たった一人の孫が壊れていく様に耐えられなかったのか、それとも壊れた孫をこれ以上面倒見切れなかったのか、或いはその両方か、彼にはわからなった。ただ燃え盛る部屋をぼうと眺めて、しゃがれた声でこうつぶやいた。


「ああ、これでもう奪われない」


 何をとは口にせず、彼はただ焼きただれる自分を絶望の痛みの中で死の眠りについた――筈だった。




「そう、おめでとうと言って置こうか少年!君は選ばれたのだ!!」




 気が付けば彼は真っ白な部屋にいた。


 目の前の誰ともわからぬ何者かは自身の事を神だと名乗る。

 ああ、なんだかどこかの小説で読んだことがある。自分の死すらも奪われるだなんて、自分はなんてついていないんだ。そう、独り言ちって神を眺める。

 姿かたちもあやふやで、見た目も定まらない何者か。これが彼の神だった。


「ふうむ、君には理想というモノがないようだね。だから私がそう見える。まぁ、そんなことはどうだっていい。見た目なんて認識の一つに過ぎないからね」


 からからと笑う何者かに辟易としながらこう尋ねる。自分を死なせてくれないのならどうするつもりなのか、と。


「どうするつもりかって?ふふ、それはもちろん君が勇者となって君の物語を見せて欲しいんだ!ああ、もちろん安心してほしい!着の身着のままで放りだそうだなんて考えちゃあいない!君には私から力を授けよう!そう、チートってやつだ!」


 チート……つまるところは何か能力をくれると神は言う。けれども、そんなものを貰ったところでどうなると言うのか?どうせまた奪われるだけじゃあないか。少年はいぶかし気に神をを見つめる。


「ううん、暗い!暗いなぁ、少年!仕方ないから明るくしてあげよう!せい!」


 そう、神が何か言った瞬間に少年の心の中で何かが弾けた気がした。


 ああ、そうか、うん、そうだ、そうだ!奪われるのが嫌ならすべて奪ってしまえばいいのだ!なんで今までそんな単純なことに気づかなかったんだ!


「うん?なんだか思った方向と違う感じになったけどまぁいいか!そうか、君は奪う力が欲しいんだね!それならば使役と言うチートを授けよう!君が素肌で触れてしまえば身も心も君のモノになるという、正しくチートだ!ただし、普通の人は使役できない。できるのは亜人や魔族なんかだけだ。え?何でできないかって?だって()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()。うん、理解したかな?あとはそう、力の強いものは抵抗したり使役できないモノもいるかもしれない。そういうときは弱らせたり、使役を受けたいと思わせてしまえば大丈夫だ!そして、君にはこの世界でその力をもって魔王を倒して行ってほしい。ふふふ、もちろん使役できるならしてしまっても構わないああ、君の勇者としての物語を存分に楽しんでくれたまえ!」


 なんでもいい!どうだっていい!ああ、早く、早く俺のモノを増やさないと。俺だけのモノを増やしていかないと!


 少年の心の中がドロドロとしてぐずぐずとした何かが蠢くように渦巻いて、早く動き出したい衝動にさいなまされる。


「ははは、うんうん。元気があってよろしい!さぁ行ってくるがいい、勇者よ。死なず、滅びず、この私を楽しませておくれ――」


 そうしてまた一人の勇者がその地へと送り込まれた。

 壊れて、壊されて、新しいナニカになった少年は、この世界で自分だけのモノを奪うために新たな生を授けられたのだった。

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