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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第三章:炎の龍と温泉と、勇者な執事でベストマッチ!
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32話:夏の暑い日差しに負けて飲むラムネって最高に美味しいよね?

 ――(オレ)は炎だ。


 この世界に生まれ出でたその日から(オレ)(写し身)でしかなかった。

 (フレイア)の代用品。

 いずれ来る世代交代のための器。


 そう、そんな道具(モノ)だと言われ続けてきた。

 けれども母は己を大事に、まるで本当の娘のように愛を注いでくれていたように思える。

 それは単なる自己投影だったのか、単なる自己愛でしかない、器として私を見ていただけだったのかは定かではない。けれども、ああそうだ。己は母を“母として”愛していた。


『だから、己は母様を奪い返す。貴様らごときに蹂躙されたままにしてなるものか!凌辱されてなるものか!己の母を、返せ――!!』


 堕龍たちの放つ黒き熱線の隙間を縫うように躱し避けて奔り抜け、襲い来る者たちを爪で、尾で、炎を舞い上げながら蹴散らしてゆく。


『馬鹿なぁ!なぜ!なぜ我らの炎が効かぬ!数ならば圧倒できるはず!?』

「うん、それは単純至極、まっとうな話。アンタらがカースなんて冥界で暗黒さんで真っ暗闇のどん底から上がってきてるからね。セイント――つまり聖なるものには弱いんだよ?あ、シャイニングの方が分かりやすかったかな?でもそっちもなんか色々と言われそうな気がするんだよね!ほら、強化形態にはよくある名前じゃん!ってうぁち!不意打ちビームと弓矢はやめて欲しいな!当たらないけど!」


 との、己の相棒(真人)の弁である。うん、いつの間に私の背中に乗ってたのかな?神出鬼没にもほどがある。しかしなるほど、セイントと言う名はおふざけでも酔狂でもなく、伊達じゃない者だった訳だ。


「セイントは伊達じゃない!ふふ、このセリフって割と行ってみたいセリフだよね?え、知らない?うん、そうだよね!知ってた!」

『真人、ふざけてないでまじめに戦ってくれないか?』

「まじめに戦ってるけど!けどね?まじめにやってたら気がめいりそうだから仕方ないかなって!ほら、あの犬耳さんとか虎耳さんとか見てよ!泣きながら俺の分身さんと戦ってるんだよ?まぁ、数人くらい何だか嬉しそうに剣とか斧で襲い掛かってきてるけど?うん、楽しんでるなって!」


 どうやら真人もこの戦いに辟易としているらしい。あ、分身の真人がなんか爆薬みたいなのを投げて――酸っぱい匂いがすごくする!やば、やばい!?思わず上空高くへと舞い逃げる。


「ぬにゃー!?」「ひゅー!ひゅー!」「ぎゃー!うぎゃ!あぎゃぎゃ!」「うほほぉぉぉ!?!!」


 すると、眼下の獣人たちが一斉に雄たけびを上げながら鼻を抑えてブクブクと泡を吹いて倒れだした。うん、何あれ?


「対獣人さん決戦兵器まじすっぱEXさんだよ!魔王も一撃コロリの逸品でござい……」

『そんなのがあるなら早く使おうよ!?』

「うん、使いたいけど使ったら匂いがね、なかなか取れなくなるから使いたくないの。いや、作ったの俺だけどマジヤバイからねー。猫系用にマタタビとか混ぜたら泡ふきながらび白目向いて更にがやばいことに?……うん、ライガ―は犠牲になったのだ!」


 誰とも知らぬ犠牲者さんのおかげで、あの必殺兵器は仕上がったらしい。な、なんてむごい……。


「けれどもこれで少しは数が減らせたかな?うん、あのユウシャな男が必死に仲間を盾に逃げ回っててウザいなって?こっちもビーム吐いて一層して欲しいけど」

『町が危ないから、できない』

「うん、だよね。でも今のフレアなら吐き出す炎で充分なんだよ。じゃ、後任せた!」


 言って、真人はクルクルと回りながら再び地上へと降りて行った。己を追ってきただ堕龍の翼を蹴り砕きながら。

 ううむ、本当にあれって人なのか?いや、勇者なのだろうが割とその域を軽く超えていないだろうか?


『ガアアアアアアア!!』


 理性なき堕龍たちが己の炎を喰らわんと牙を剥いて襲い掛かる。ああ、いいよ。好きなだけ喰わせてあげよう。

 そう、高火力のね熱線など吐き出す必要なんて最初から無かった。今の私は()()()()ヴォルガイアドラゴンなのだから。


 口に充填した炎をボウと吐き出し、襲い来る黒い嵐へと吹きかける。


『ぎゃあああ!?』『痛い!いたいいい!?』『焼ける!この儂が焼かれぇ!?』


 めらめらと輝く炎が瞬く間に堕龍たちを焼き焦がし、悶絶する彼らを爪で尾で地面へと叩きつけてゆく。


『小癪な――!』


 まだ炎を避けるだけの知性の残る堕龍の黒い熱線が体を掠める。――が、己の鱗には煤すらつくことは無い。


『な、な!?』『馬鹿な!我らは魔王クラスの――』『たかが小娘が!』

『フレア、フレアあああああああああああああああ!!』


 自らの炎の効かない己に恐れ、慄く堕龍たちを押しのけて紅い影が襲い掛かる。


『――母様!』

『私を殺せ。殺して力を継ぎなさい。そうしなければ、私はあのユウシャの――ガアアぁあああああ!』


 紅い熱線は天空を焼き払い、上空の積乱雲すら吹き飛ばす。何という火力――!


『それはさせない、絶対に嫌!己は、母を救いに来たのだ!だのに己に殺せない!』


 空中で交差する鋭い母の爪がが鋼のごとき鱗を削り取る。やはり、母様は強い!


『聞き分けのっ!そうでなければ私は貴女を殺してしまう!そうでなければこの国を滅ぼしてしまう!ああ、そんなのは!そんなのは耐えられない!』


 炎を巻いて、母の放った熱線がはじける。大地へ放った炎を受け止めざるを得なかった。同じ炎であるのにこうも威力が違うか――!


『それでも!己は貴女を死なせない!死なせてなるものか!(オレ)を一人にしないで、母様――』


 黒い影がその隙を狙って攻め寄せる。ああ、ダメだ。すまない真人。己はここまでだ。だが、せめて、せめて母様だけは――。


()()()――!』


 それは魔眼、この世のあらゆるものへと下される至上命令(インペラティブ)だった。


「フレアっ!」


 聞き覚えのあるれ(オウカ)かの声を背に受けて、己だけが動いて母を組み敷いて大地へと墜ちてゆく。


『母様、己は不義な貴女の分御魂だ。けど、だけれどもそれでも貴女を救いたい』

『ああ、我が愛しき娘よ。不義だなんて言わないでくれ。貴女がここまで私を愛してくれた。それだけで、ああ私は――』


 炎が舞い上がり、輝く光があらん限りにあふれ出し、その全てが一つになる。炎が混じり、その境界すらも無くなって――嗚呼、己と母は最初は一つだった。それならば――



『『ならば、こうはなるのもまた必然――』』



 神々しき炎は唯一にして無二。


 そして(オレ)(いち)へと至る――。

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