31話:冷凍庫の中って気が付いたら氷が張ってるけど一気にはがすと気持ちがいいよね?
轟音と共に爆炎が上がり白銀と紅の龍が空へと舞い上がった。
「フレイア様じゃ……ない?」
そう、その姿はフレイア様に似ているけれども、別の龍でした。だって、フレイア様は黒い龍たちと共にその龍を取り囲んでいるのですから。って、あれ、ええ!?いったいどういう……。
「あたしにもわかんねーよ!よくわかんねーがこれだけはわかる。爆炎龍が勇者共の手に堕ちた、そういう事だ!」
私を背負ったまま夏凛ちゃんがそう叫ぶ。兎も角ここから逃げのびるのが最善。結界もすでに消え失せています。この場を逃げきれれば……。
「戦っています」
「え?」
見上げるロベリアちゃんにつられて私も顔を見上げる。
そこには、小さい人影が炎と風を纏い紡いで龍とその他のいくつもの小さい人影と戦っている姿が見て取れます。あれは――まーくん!?
「そんな、ダメ。ダメです!爆炎龍と戦えばまーくんが魂ごと――!」
「それだけ姫を大事に思ってるんだよ!アイツが戦ってる理由は一つ。姫さんを護るため、助けるためだ。そのためなら自分が消えても構わないなんて思うやつだからな」
夏凛ちゃんがギリリと歯噛みする音が聞こえた。
――そう。そんなまーくんだから私は彼を好きになったのです。でも。けれども。だけれども。そんなまーくんが好きなのだと言ってまーくんが消えていいなんて訳ありません。彼を助けたい、今すぐにでも飛んで行ってあの龍たちの前に立ちふさがりたい。けど、私が行ったとしてもただの足手まといにしか――。
ゴウと巨大な何かが、私たちの目の前へと墜ちてきました。
それは、黒い龍でした。姿かたちは爆炎龍たるフレイア様に似ているけれども、その有様は邪悪。美しいフレイア様とは違う不気味な雰囲気を持った龍でした。
『おやぁ、おやおやおや!うぇひひひ!ああ、なんて懐かしい匂いだ!思い出すわぁ、あの小生意気な小僧を!そうか、お前ぇグリムの娘か!』
「だとしたら、何だというのです」
夏凛ちゃんの背から降りて、ケラケラと不快な声で笑う邪龍に向き合う。無視して逃げれば背後からこの龍は容赦なく炎を吐きかけるでしょう。だから、危険と分かっていても話すしかありません。
『ああ、いいねぇ。綺麗で、可愛くて、うぇひひひ!ああ、お前は殺さずにフレイアと同じようにあの勇者にやるのも楽しそうだ!犯して壊して……ああ、あのグリムの顔が歪むのが目に浮かぶようじゃあないかい』
恍惚とした何とも下品な笑みを浮かべた邪龍はチロチロと黒い炎を上げながらこちらを見下ろす。
「ごめんなさい、夏凛ちゃん、ロベリアちゃん。完全に標的にされてしまったようです」
「ああ、アタシは構わねーよ。そのためにここにいるんだしな」
大きな剣をすらりと抜いて、夏凛ちゃんは正面に構える。
「私も問題ありません。真人様には危なくなったら逃げていいと言われていますが、まだ大丈夫そうですので!」
そう言ってロベリアちゃんはスカートを翻して両の手に小さな剣を構えました。もう、この二人は――!
『あらあらあらあら!なんとまぁ私と戦うつもりなのかい?うぇひひひ!冥界からの出戻りだけれどもフレイア姉さまの炎を思う存分に吸い取ったからねぇ、全盛期とまでは行かなくとも魔王と言って過言は無いのよぉ?』
「舐めたことを言っているのは貴女です。私は魔王――そう、氷獄の魔王オウカ。行きますよ、夏凛ちゃん、ロベリアちゃん」
眼前の敵を魔布ごしに睨み、魔力を練る。
「ああ、行くぜ!」
「参ります!」
二人が駆け出して、刃を振るう。
「エンチャント、アクエア!」
魔法陣を瞬時に展開し、二人の刃に水の力を付与させる。しかし、その刃は振れた瞬間にジュワリと溶けて、焼き溶けてしまいました。
『うぇひひひ!無駄無駄!鋼ごときじゃあ私に傷なんてつけられないわよぉ!』
巨体を振るい、長く強靭な黒い尾が二人へ向けて薙ぎ払われ、空を薙ぐ。
「当たらなければ!」「どうということはない、です!!」
うん?なんだかまーくんに似て来てる?気のせいですよね!
魔力を充填、循環させて魔法陣を幾重に多重に複層へと組み上げる。本来、魔法陣というモノは平面に描いた正しく絵のようなもの。図画描写して幾他もの魔法が生み出されてきたのですからそれで間違いではありません。けれども、空間は縦と横だけではなく奥にもあるものなんです。昔、魔法学院の賢者さんと文通して研究したこともあったり無かったり。いまあの人何してるんでしょう?
「ちょっと、姫さん!」「しゅーちゅー!しゅーちゅ!」
大丈夫!集中してます!編み込んだ魔法陣は極限多重複層魔法陣。割と複雑で難しいんですから!よし、スペルチェック――問題なし。
息を整え、魔力込めて、言の葉を紡ぎ出す。
『総てを奪え、総てを喰らえ、氷獄へ、永劫たる世界へ、かの者を誘いたまえ――』
邪龍の気を引いていてくれていた二人がサッとその場を離れる。そう、そこです!
『――至れ、永劫氷獄』
『なっ――』
驚く声を上げる間もなく、その邪龍は巨大な氷の塊へとなり果ててしまいました。カッチコチです!
「炎の龍相手に氷って溶かされたりしねーのか、これ?」
「大丈夫です。この氷は炎すら、時間すらも凍らせることができるんです!ふふ、私のさいっきょー技です!」
えっへんと胸を張るけど、二人は凍った邪龍をつんつんつついています。うん、ちょっと寂しいです!
「すごいけど、初動が遅いしなぁ……」
「前衛がいる前提ですね」
うん、そうですね!アリスお姉さまにも同じこと言われましたし?ぐすん、いいんです。まだ改良中なんですから……。
「それで、どうするんだ?」
「このまま予定通り逃げちゃいます?」
そんなの、答えは一つしか無いじゃないですか。
「行きましょう。まーくんを、この町の皆さんを、フレイア様を助けましょう1」
微力かもしれないけれど、きっとお役に立って見せるんですから!……ところでまた走るんですか?うん、ですよねー。
遅くなりましたOTL