30話:温泉旅館のお土産の刀型のペーパーナイフって男の子だなって感じだよね?
「なんだ、なんだ、なんだ!何なんだよお前は!!なんで俺の邪魔ばかりしやがるんだ!」
頭を掻きむしりどこぞの誰かとも知らぬユウシャっぽい人が何か叫んでいる。うん、ご近所迷惑だからやめた方がいいかなって俺は思うよ!
「きゅうー……」
あれ、何かな?フレアさん、なんでお前が言うななんて雰囲気で俺の頭をポムポムしてるのかな?おかしいな。俺は昔から物静かな深窓の御曹司さんだったんだよ?決して学校に中々出席できてなくて友達が少なかったわけじゃないからね?休憩時間に寝たふりとかしてない!してないから!……ぐすん。
「まぁ、兎も角間に合って良かったです、フレイア様」
「すまぬな、真人殿。だが、私はすでに――」
ぞくり、嫌な予感が再び襲い来る。ああ、本当に糞ったれだ。ギリリと歯噛みして、傷らだけのフレイア様を寝かせあげる。
「そう、お前はもう手遅れだった。クカカ!!ああ、そうだ!完全じゃないにしろそいつはもう――俺のモノ!俺の!ドラゴンだ!!!」
瞬間、フレイア様から炎が溢れだす。
『母様……!』
――それは破壊の化身。
――原初の炎を受け継ぎし絢爛たる炎の龍王。
――その名は爆炎龍、ヴォルガイアドラゴン!うっひょい、ヤベーイ!!
「けひはははは!そうだ、そうだ!完全に掌握できていなくとも意識を奪うことくらいならできる!ああ、その頭の毛玉ごとそいつを消し炭にしてしまえ、ヴォルガイアドラゴン!!ブレイズ・カース・アンデットドラゴン共もやれぇええ!!」
「「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」
大地を振るわせるヴォルガイアドラゴンの咆哮は、その周りにいるブレイズカースアンデットドラゴンたちも雄たけびを上げ始めた。
んんん、ブレイズな、カースでアンデットなドラゴンって長くない?長いよね?フレイさんやどう思う?あ、どうでもいい?そうだね、どうでもいいね!
虚空を蹴って空を翔けあがり、迫りくる焔をクルクルと躱し、大量に押し寄せる巨大な龍たちの頭を腹を蹴っては飛んで、潜ったところでもってきている鋼の剣で斬りつける。うん、斬った瞬間再生しているよ!アンデットさんは伊達じゃない!というか鋼の剣さん溶けたし!溶けたし!!割といいお値段だったんだけどサヨナラなんだよ……。
「けれど、うんごめんね?」
繰り返しの繰り返しだけども俺ってばアンデットさんには滅法強い。
飛び回り、駆け巡り、扇を振るって舞い踊る。
「ええい、何してやがるそんな奴さっさと焼き尽くせ!!」
ユウシャの声に反応したドラゴンたちは己の持てるその全てをもってその炎を放射する。
火力がヤバイせいで火炎放射器なんて生易しいモノじゃなく、完全に熱線という名のビーム。一点に俺めがけて放たれた光は高高度のエネルギーの塊。原初の炎の力すべてが込められた魂すら焼き尽す一撃。
うん、それを待っていたんだ。
――第壱の秘術/八咫鏡/焔
今までやったことは無かったけれどもやれると信じて疑わなかった新兵器さんだけど、うん、やっぱり熱い!あち、あちち!うん、これだけの熱量で熱いって言ってられるだけ充分だけど、やっぱり熱い!え、気持ちいいくらいなの?さ、流石だ!
「な、何だ。何が起きていやがる!」
「焼き尽せと言ったから勇者の魂を焼き尽くせるほどの一撃を放ってくれたんだよ。特にフレイア様は俺が全力でやらないと焼き殺せないって知ってるはずだからね。うん、だからこの一撃は彼らの全力だった。だからその一撃を、もらう」
鏡に集めたそのエネルギーを浄化の炎へと転化して一つに固めて勾玉となる。
――第参の秘術/八尺瓊勾玉/焔
これは与える力。受け止めた力を放つ叢雲の剣とは違う、他者がいてやっと成り立つ術だ。
「いくよ、フレア!」
純然たるその膨大で莫大な浄化の炎がフレアに流れ込む。原初たる炎から生まれたそのエネルギーはいずれ彼女が受け継ぐべき炎。それならば、この力を正当に使いこなせるのは彼女しかいない!うん、俺じゃあ全部は無理かな!
紅く、赤く、朱く、炎が舞い、燐と散る。
――彼女は最初の火だった。
――そしていつしか炎になった。
――その姿は龍。爆炎すらも超える化身――
「むこうがカースとかつけるんならこっちはセイントってどうかな?セイントヴォルガイアドラゴンって。え、安直すぎる?ううん、格好いいと思うんだけどなぁ……。その命、神に返しなさい!的な?あ、神様に返すわけじゃないか!」
てへペロ!としたら尻尾で叩かれた!うまく躱したけど危ないよ!?今フレイさんでっかいからね!ビル並みだから!当たったら俺の頭どころか体ごと粉微塵だから!!
紅と白銀のその姿はなんだかおめでたいな?とか言ってしまうとまた叩かれそうだから言わないけれど、美しいその姿は正しくセイントヴォルガイアドラゴンという名がふさわしいだろう。格好いいぜ!
「糞、くそ、クソクソクソ!!なんで何もかも上手く行かねーんだ!おら、ボーっとすんじゃねー!あっちはたった一匹と一人!さっさと殺れええええええ!」
発狂したように叫ぶユウシャに反応し、再び龍たちが動き始める。
「あいつらは任せるよフレイ。俺はこいつらをどうにかしておくから」
『承知した』
巨大な深紅の翼を広げ、セイントヴォルガイアドラゴンは大空へと羽ばたく。その姿はフレイア様に近く、白が入り混じったその姿は正しく、セイント――うん、ダメなのね。長いのがダメなのかな?そういう事じゃない?そっかー。
残り少なくなってきた木札を投げて分身を追加で生み出す。
「……俺は交渉の材料にお前の事を調べるだけに留めるつもりだったのが一つ目の罪。そのせいで次の手が遅れていたのが二つ目だ。そして、フレアとフレイアに様、そしてサクラちゃんや町のみんなを悲しませてしまったのが三つ目。俺の罪は数えたぞ、勇者モドキ」
睨みつけ、木剣を構える。エルフに狼族にに虎族により取り見取りの種族たちの目が俺を捕えていた。数だけで言えば圧倒的に不利だろう。だが、そんなことは関係ない。
「さぁ、お前の罪を――数えろ」
こいつらは大切な目の前の誰かを傷つけたのだ、全霊をもって叩き潰す――!
諸々を訂正しています(ガクガク 2019/5/7