22話:山が近い場所に住んでいると一度くらいは秘密基地を作っちゃうよね?
温泉街を縫うように流れる大きな川の中州にある小さな祠。
木々が生い茂っていて見つけることも困難な場所にそれはあった。
うん、ゾンビが発生していた処刑場の近くだよ!この辺り厄過ぎないかな!
「ふん、わざわざ見に来たモノの何もないではないか」
不満たらたら、文句たらたら。巨漢の将軍さんはブツブツと文句ってご立腹のようだ。一緒について来てる十人くらいの兵士さんたちが視線を泳がせてなんだか居心地が悪そうだ?
「ええと、こいつを掲げれば中に入れるんだったな」
将軍が懐から取り出したのは淡い青色の宝玉。恐らくはそれがカギで、中に入れるようになるのだろう。
「お前ら下がっていろ。えー、『天より賜りし蒼き宝珠により、この封を解かん』」
紋章が祠を中心に広がり、空間が開ける。奥には大きな石碑が見える。あれがどうやら首塚と言うやつのようだ。
「ふん、異常なし。まぁ、ある分けが無いよなぁ。何せ……その異常が吾輩たちなのであるからな!」
がはは、と将軍が馬鹿笑いをするのをきっかけに兵たちが次々と鎧と兜を投げ捨てていく。
鬼、悪魔族、狼族、猫族、ドワーフにエルフ様々な種族の魔族、亜人がそこにいた。そしてその中の見慣れた黒い髪の少年――。うん、こいつが勇者っぽい!
「ご苦労だった、赤いの。くく、まさか自分から部下になってくれるとは思いもしなかったぞ?」
「なに、吾輩はこの国さえ手に入れば……いや、見たいものさえ見せてもらえればそれでよいのだ。さぁ、勇者よ、結界などもうありませぬ、どうぞ中へ――」
「ああ、万感の思いで中に入るとしよう」
結界の門をくぐり、次々に勇者とその一行たちが中に入ってゆく。んー、肝心かなめの冥府の者が見当たらない。気配からして影の中かな?
「なんだ、探しているのか?」
ゾクリと、背筋が凍る思いで見上げると将軍がこちらを見下ろしていた。あらら、どうやらバレていたようだ?
「よくぞ見破ったと言いたいところだけど、ついて来ているのわかっていて放っておかれた感じがするんだけど、そこのところどうかな?」
「ああその通りだ。何せお前はここにいてくれた方が都合がいいモノで――な!」
大ぶりの一撃が俺のいたところに振るわれた。うん、危ないな!当たってたら死んじゃってたよ!?
「そう容易くはいかぬか」
「おい、殺すなよ?死なれて復活ポイントにでも行かれちゃ叶わんからな。まぁ、そこもじきに潰れて消えるだろうが」
けらけらと黒髪の勇者もどきが笑っている。なんだか楽しそうだな!うん、うっとおしから全員纏めてぶっ飛ばそう!人数が多い?それならこっちも増えれば問題ないよね!
「な!?分身だと!」
驚いているところ悪いけどさっさと終わらせてもらおう。数で圧殺――
「させると思ったか!」
気づけば二メートルほどだったおっさんが十メートルになっていた!しかも炎を纏って無駄に格好いいんだよ!一瞬で木札で作られた分身たちが焼き尽くされていく。マジでヤバイ!火力がヤバイ!あっち!あっちい!!
「ふ、ふん。驚かせやがって。おら!ボーっとしてねーでさっさとやれ愚図が!」
勇者の影がゆらりと動き、黒く、昏い拘束されたナニカが姿を現す。
漆黒のつややかな髪に、闇夜のような肌、目だけは爛々と月のように蒼い美女さんだった!
「こいつは冥府で姫をやっていたらしいんだが上手いこと手に入ってなぁ。ケケ、まだ調教が足りねーせいで感情がうまく引き出せねーんだよなぁ。ま、今はそれはどうでもいいか。……やれ」
勇者もどきの言葉に、昏き姫君は涙をぽろぽろと流しながら叫び声をあげた。
『ああ、ぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』
声とも呼べぬ叫びともつかぬその声は――うん俺、知ってる!これって死霊の喚び声だよ!
大地が鳴り、ビシリと首塚が砕け四散する。地面からゾルりとどろどろとした龍の形をしたナニカたちが姿を現し、思い思いに叫び声をあげている。邪龍、堕龍、そう呼ばれた者たちのなれの果てがそこにいた。ドラゴンゾンビさんたちだ!!
「さて、ここまでは上々だな。こいつらは俺が使役しなくていいんだから楽なもんだ。おら、くっころエルフ!とっと次に移れ!」
「く、糞、この紋章さえ――ああ!」
幾本もの矢をつがえ、くっころさんはその矢を放つ。矢じりにはすべて魔石がちりばめられてる。なんだかおしゃれだな!誰にプレゼントするのかなー。あ、温泉街のみんなに?太っ腹だ、な!
川の水を操って音速で幾本も放たれていく矢を撃ち落としていく。流石エルフ!射出速度が半端ない!というか用意しすぎだよ!!
「かかか、そちらばかりに意識してもらっちゃあこまるなぁ!!」
おっさんが解き放った灼熱の炎が中州の森を焼き尽くす。ついでとばかりにあたりの川の水を蒸散させていく。どんだけの火力だよ!
水のベールで何とかしのいで、扇をふるって風の精霊さんにお願いして風を起こして炎を全部返して差し上げる。うん、火旋風だよ?
「ふん、自らの炎で焼かれるほど愚かではないわ!」
「うん、おっさんじゃなくて後ろのもどき勇者さんたちが目標だったんだけど、鬼っぽい武者さんにかき消されたんだよ!マジヤバイな!」
巻き起こした炎の竜巻さんはイケメンの鬼な武者さんの斬撃で見事にかき消されてしまった。うん、何だろう、チートが多すぎないかなこの世界!
「あ、あぶねーじゃねーか!こっちを確認して戦いやがれ!」
「うるせぇ!お前はとっと先に進めやがれ!!」
うーん、仲が悪いなぁ。……ん?先?先ってどういう事かな?ドラゴンゾンビさんたちが目標で目的じゃないとすれば、いったい何が……?まて、待とう。そういえばこのおっさんは何と言っていた?この国さえ手に入れば?いや、でもフレイア様をこいつらで倒せるかと言われると、抑え込むくらいがせいぜいで……。まさか、フレイア様そのものが目的?
「ご明察!はは、よくわかったなぁ!まぁ、今までわからなかったからただの間抜けの馬鹿か!」
ゲラゲラと勇者もどきが笑い声をあげる。ああ糞わかってるさ!どうせ俺は馬鹿だよ!分身を放とうと木札を出すが瞬間に灰となって崩れ落ちる。打つ手がない!マジでない!
黒い帽子を目深にかぶった魔女らしき少女が杖をふるい、ゲートを開く。この距離じゃ間に合わない!せめて場所が分かれば――。城は――サテラさんがいるからありえない。大魔王の四天王の一角がいるところに行かせるなんて馬鹿なことはさすがにしないだろう。墓場は――フレイア様が今行く理由が浮かばない。このおっさんがいないのならほかの協力者がいない限りはありえない。それなら一番可能性が高い場所は――。
「サクラちゃんのいる、旅館……?」
勇者もどきたちとドラゴンゾンビがどこかへ消えた瞬間、爆炎が上がった。そこは、紛れもなく昨日泊っていたあの旅館の位置だった。
「ああ、やっと、やっとわかった。そうか、全部お前が仕組んでいたんだな――宰相、フェネクス!」
それであるならばすべてが繋がるんだよ。
死者が多く出た場所を知っている誰か。
この領の内部事情を知っている誰か。
この祠の事を知っている誰か。
そして、サテラさんが城にいて、俺がここにいて、サクラちゃんが城にいると知っている誰か。
姿かたちは違えども、こいつは紛れもなく、奴だ!!
できたと思って上書き保存を押した瞬間に消えたのはバグかな?戻っても消えてたんだけどバグかな?
とっても遅くなりましたOTL