17話:黒縁眼鏡で白髪白髭のチキンなおじいさん人形が道頓堀で見つかったのって奇跡だよね?
仁王立ちするその姿はまさしく巨人。うん、関西弁が多いこの領に巨人ってどうなんだろう?
「いまいち言ってる意味が分からへんけど、今突っ込むところはそこや無いと思うで!」
「そうなのかな?そうなのかも!」
びっくりして思考を放棄してたんだよ。危ない危ない。
「真人さん現実逃避をされるのはいつもの事だと思われますが?」
「はは、サテラさんも面白いことを言うなぁ!俺がいつ現実逃避したって言うのさ!あ、ちょうちょ」
「逃がさんぞ、盗人共」
ふらふらと立ち去ろうとしたら首根っこを掴まれてしまった!ううん、流石にその持ち方は男の子がされるととても悲しいかなって?
「盗人とは人聞きが悪いな。俺たちは何も盗んじゃいないし、というかフレイア様に許可をいただいてここに入らせてもらっていたんだよ?」
「ふん、盗人は皆そう言うのだ。許可をいただいたという口約束だけで入らせてもらったとな。さぁ、盗んだ本をだせ!出せば見逃してやらんことも無いが――」
そういわれて後ろを見る。うん、間違いなく誰一人として本を持ち出しちゃいない。俺だって持って出てないよ?
「無い袖は振れないという言葉もあるんだけど、無いものは無いから出しようも無いんだよ。それとも何かな?俺たちが本を盗んだという明確な証拠でもあるのかな?」
「ふん、そんな事知ったことではない。貴様らがこの中に入ったということは何か目的のものを盗み出したに決まっているだろう」
ああ、うん。ダメだ!このおっちゃん人の話を全く聞こうとしない人だ!なんでも全部自分が正しいって思ってるよ!
「なるほど、言いたいことは分かったよ。それじゃあ拘留でも拘束でも好きにしてくれたらいいよ。ちなみにここの扉を開けてくれたのはフェネクス宰相さんでね。後ろにいるサテラさんのお知り合いなんだけどそこのところはどうなのかな?」
「はん、フェネクスがお前らのような知り合いがいるわけが無かろう!兎も角、全員牢屋送りだ!盗んだものを出すまで痛めつけて――」
「はい、そこまでだよ将軍」
何とか声の方に頭を向けるとフェネクスさんがそこにいた。うん、どこに行ってたのかな?というか、将軍なのこのおっちゃん!?
「フェネクス!本当にこいつらを書庫に入れたのか!?」
「ああ、その通りだよ。まったく、早とちりも勘弁してくれないかな?彼らは客賓だよ?しかも大魔王の姫君の領の、だ。いくら君でもこの意味が分からない訳じゃあ無いだろう?」
「ぐ、むっ」
髭面の顔を真っ赤にしたり真っ青になったりなんだか忙しいおっちゃんだな?あと、その、そろそろ下ろしてくれると嬉しいかなって?周りの目がね、すごく痛いの!
「俺はただ、善意ある市民に通報を受けてだな……」
「はぁ、それなら部下に任せればいいでしょ。なんでこう昔から格好つけたがるのかな、君は」
「格好つけてなどいない!ただ、そう、たまにはちゃんとした軍人らしく働こうとしただけだ」
なるほどなー。将軍職って軍の最上位さんだから戦闘よりも訓練よりも書類仕事が多量で多忙なんだね。今の俺にはおっちゃんの気持ちが痛いほどよくわかるんだよ!
「俺も執事なんだけどね、うん。書類仕事に忙殺されて何度ゲームオーバーしちゃったか……」
「なんというかお前も苦労してるんだな……」
なんだかおっちゃんがあきれた目でこっちを見てる。仕方ないんだよ!愛する人のためだからね!魂燃やすぜ!
「それで目的の本は見つかったのかい?」
「ええ、何とか。堕龍の首塚を今から探して見つけに行くつもりだけど、知らないかな?」
という言葉に二人が固まった。うん、やっぱり国の極秘事項だったみたいだ!
「なんでお前がそれを調べている。まさか、あの首塚を壊すつもりじゃあ――」
「俺が見る必要は無いんだけど、そこを最近のゾンビ事件の主犯が狙ってる可能性がありそうだから、調査してほしいなってお話をしたかったんだよ。直接見に行って確認するのが手っ取り早いんだけど、その様子だとなんだか入ったらまずそうだし?」
将軍と宰相。フレイア様の次に偉いであろう二人がこんな顔をするのだから相当まずい場所なのだろう。
「それならば吾輩の部下を向かわせよう。フェネクスの部下じゃああまりに頼りがいがなさそうだからな」
「一言余計だよ。それで、どうしてその結論に至ったんだい?」
当然投げかけてくるだろうと思っていた意見なので、ここまでの経緯をざっくりと説明しておく。他にも怪しい場所は無きにしも非ずだけど、一番の狙いはまずその首塚なんだよ。
「この領で最も力が強くて、最も怨念を抱いているであろう者たちが眠っているところだからね。そういう場所を襲撃していた奴らが狙うなら、最終目的地は間違いなくそこなんだよ」
色々とブラフも混ぜてゾンビを出現させているけれども、本当の狙いはそこなんだろう。
だって、そこから一番離れている墓地に落ちてた魔石が一番小さかったからね?重要度的に墓地は低かったと考えるのが妥当なんだよ。
「おそらく、まだ入れていないと思う。思いたいかな?もし入っていたらやばいことになってそうだし?だから一刻も早く確認して警戒して欲しいなって」
「なるほど、そういう訳なら納得がいく。けれどもそこは禁忌の場所。本来なら秘匿されてしかるべき場所だから、扉を開くにはキーが必要なんだ。フレイア様に事情をお話すれば貸していただけると思うのだけど――」
「その役目は吾輩がさせていただこう。がはは、久々に血がたぎるのう!」
高らかに笑いながらおっちゃんはフレイア様のもとへと行ってしまった。
ふぅ、やっとおろしてくれたんだよ!俺って猫じゃないから次はあんな持ち方はしないで欲しいな!でもだからと言ってお姫様抱っこは嫌だし……。うん、まず抱っこはお断りなんだよ!