16話:古い本屋さんに入るとなんだか異世界に入ったような気分になれるよね?
お城の奥の奥の部屋、頑丈な天窓から自然光を取り込んでいる何ともおしゃれな雰囲気のそこは書庫というよりも図書館だった。うん、一般の人もちらほらいるんだよ!
「これならフェネクスさんの案内いらなかったかな?」
「必要なかったと言われると寂しいところもあるけど、一応閲覧するところは禁書のところになるから僕がいないとダメなんだよね」
なるほど、とうなずいてみるけれど、それならお姫様にお願いしてもよかったのかもしれない。それなら宰相さんの手間も省けたし?
「いやいや、お姫様が他国の使者と仲よーしてるところ見ると色々と対外的にまずいことがあるんとちゃうか?」
「それなら宰相さんも……なるほど、俺が女装してくればよかったのか!」
「うん、意味合いは分かるけどなんでそう発想がぶっ飛んでいくねん!」
ズビシ、と見事に突っ込みを入れられてしまった。流石マネちゃん、的確かつ素早い反応だ!
「っと、ここだな。カギはあけておいたから自由に読んでくれて構わないよ。多分見たい資料は左奥側の棚あたり。国史の棚かな」
「その通りだよ、ありがとうフェネクスさん」
ひらひらと手を振ってフェネクスさんを置いて禁書庫へと足を踏み入れる。サラマンダーさんもモフモフと短い手を振っててカワイイ。
「とはいえ、いったい何を探せばええんや?」
「昔あったたくさん人が死んだ事件、事故、或いは戦場を探して欲しいんだよ」
人が死ねば怨念が生まれる。魂は成仏したとしても残留思念が残ることが多分にあるんだよ。
「なんや真人さん詳しいな」
「これでも神社生まれのMだからね!本当は寺生まれのTさんがいいらしいけど、うん、Mなんだよ!」
違うんだから仕方ないよね!と階段をスタコラ上って古書をあさる。うん、達筆過ぎて読みづらい!
「そういえば真人さんって異世界の人やけどこっちの世界の本って読めるんか?」
椅子に座って足をプラプラしながら本手にこちらを見上げる。
「今は読めるよ?そりゃあもう、沢山というか多大に勉強したからね!主にお札を作るために?」
あの頃は必死だった。とっても必死だった。紙がなかなか見つからなくて仕方なく桜の木の枝を木札にしてたけど、今となってはお値段の高い紙に書くより魔力と霊力の循環効率が良くって、逆に使えないというジレンマに陥ってるけどね!桜の木の枝を紙にしてしまえばいいんだろうけど、もっとコストが掛かって雀の涙ほどもない俺のお給料さんが、もっともっと悲しいことになっちゃうんだよ!グスン。
「はいはい図書館では静かになー」
「なーって、マネちゃんが話振ったんじゃないの。ん、こっちはダメか。次は――」
「きゅう、きゅ!」
次の本に手を伸ばそうとしたとき、頭の上のサラマンダーさんがぺちぺちと俺の頭を叩いてきた。うん?これじゃなくて、これでもなくて、んー、これ?
「きゅう!」
これらしい?赤く分厚い表紙のその本は炎龍の系譜というタイトルが書かれている何とも不思議な本だった。
「これは歴史書というよりも現代までのこの国の長の系譜のようですね」
「なるほど確かに、初代の頃はだいぶ文字がかすれて読みづらいけどその通りみたいだ。うんうん、最初のころからだんだんと代を重ねるごとにその力を受け継いで強くなっていってるみたいだね」
そして最後のページは今の炎龍、フレイア様の事が掛かれている。大きさ、強さ、そしてその能力の殆どが。
「あれ、これ今更ながらにやばい本じゃないかな?読んだら殺されるレベルじゃない?」
「あーあーアタシは何も見てへん!見てへん!」
マネちゃんが頭を抱えてプルプル震えている。うん、横からはみ出てる柔らかな二つの塊もプルプル震えてるよ!可愛いな?
「まぁ、それを覚悟で見せてくれたんだろう。まぁ、これを見たからと言って勝てるか、と言われると無理だね!って俺は答えるけどね?用意周到に準備に準備を重ねて良くて相打ちくらい?うん、無理じゃないかな?」
対策も何もかもを封殺する圧倒的なその火力は、下手な策謀も謀略も灰燼に帰すレベルだしね!ヤベーイ!ツエーイ!あとハエーイ……。速さもマジでヤバいからさらに手におえない。ふふ、俺って夢とはいえよく生き残れたな!
「でも問題はこの欄外、除外とされている炎龍さんたちなんだよ。堕龍とか暗黒龍とか書かれてるんだけど、その時の国の長の炎龍に反旗を翻し、悪逆の限りを尽くしたと書かれてるんだけど、うわぁ、村の人たちを丸ごと炎で呑んで力に変えてたりするとかマジヤバイな!」
「彼らは討ち果たされたあと、同じ首塚に葬られて行っているようですね。場所は――」
あの墓所とは正反対側、今まで事件が多く起きている場所のすぐそば。魔術的にも隠されている場所らしく、この本によると口伝も途絶えさせているとのこと。
「……なんだか俺、猛烈に?うん、すごくというか至極とっても嫌な予感がするんだけど、サテラさんはどうかな?」
「私も同じです。早急に確認する必要があると思われます。もしかすると既に取り返しのつかないことになっている可能性すらあります」
「俺もそう思う。急いでダッシュでゴーだよ!」
本を畳んで急いで外に出る。と、なんだか知らないでっかいおっちゃんが待ち受けたかのようにそこにいた。二メートル以上あるよ!でかいな?
「勇者が、なぜここにいる!!」
はげた頭に血管が浮き出るくらいにぶち切れてるご様子。うん、こういう時こそ宰相さんの出番だよ!あれ?フェネクスさん?フェネクスさーん?……いないなよ!どうしよう?