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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第三章:炎の龍と温泉と、勇者な執事でベストマッチ!
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13話:混浴なんて素敵なシステムがあるけど現実的に入ってくるのはおっちゃんばかりだよね?

 温泉、それは野に生きる者たちの楽園。

 水を恐れ、足を付けることすらままならぬ者すらも肩まで浸り、その身を癒す。


「そう、洗髪よーし!体洗いよーし!かけ湯よーし!真人、いっきまーす!」


 水柱が上がらない程度に飛び込んで、思いきり露天の温泉を堪能する。


 ああ~一日の疲れが癒されるんじゃ~。


 ぷかぷかと浮かびながら三つの月の上がる空を眺める。星空は満点、照明も少なめなおかげか一段と明るく見える。本当にいい温泉旅館なんだよここ!


 結局のところ犯人まで行きつくまでには至らなかったけれども、収穫はどうにかあった。行き当たりばったりというよりも、大体の目星をつけて墓地へ行ったのだけど、早急に行き過ぎて警戒されてしまったかもしれない。うん、俺も少し焦っていたかな?

 けれども気になるのはあのモフモフのサラマンダーさんだ。たぶん、恐らく、あの子もゾンビを見つけてとびかかったのだと思うけれども、どうしてそんなことをしたのかが気になる。ううん、やっぱり――ふよん。え、何かな?今俺の頭にとても柔らかなものが当たったような?


 ザバリと起き上がってみると、燃えるような赤い髪を肩くらいに揃えた紅い瞳の――そう、スレンダーでありながらもご立派なメロンを二つお持ちの少女がそこにいた。ここってドワーフ以外も一部分が大きくなるのかな!?この子たぶん俺より結構年下だよね?うん、まさかの巨乳の湯なのか!!……効能には書いてない。違うかー。


「ここの湯は気に入ったか?」

「え、あ、うん。そりゃあもちろん、泉質もいいし、温度もいい。なにより、霊泉なおかげか体に力がみなぎる気がするんだよ」

「そうか、君が気に入ってくれていて良かった」


 赤いルビーのような大きな瞳の少女ははにかむように笑う。うん、すごく可愛いんだけど、目のやりどころに困るな!恥じらって!もっと恥じらおう!


「?何を恥じらうことがある。この身は炎。あるがままが我だ」


 裸族さんだったかー。いや、そうじゃないよね!炎ってことは炎の精霊さんという事だろう。


「それじゃあ、フレイア様の……」

「娘とされている。だが、正確には分御魂(わけみたま)だ。母様という大きな炎から分かたれた魂が(オレ)。故に(オレ)は母様の手足のようなものなのだ」


 平坦な口調で淡々と言葉を紡ぐ。

 そろそろ前を隠して欲しいな!できればお湯につかろう。あ、使ってくれた!これで少しは見え……浮いた!?


「え、ええと、い、色々とアレだけど、うん。フレイア様の事が好きなのかな?」

「好き、というかは分からない。けれども、母様のお役に立ちたい。立たねば、ならない。……母様は好きなようにすれば良いと言ってくださるが、そういわれると、その、困る」


 少女は可愛らしくぷくぷくと顔を沈めて眉をひそめる。やはりというかこの子自身が何か思い詰めているらしい。


「フレイア様がそう言ってるんなら、それでいいんじゃないかな。それとも、誰かにそうしなければならないとか言われてるの?」

「母様以外の皆に」


 悲しそうな顔でまたぶくぶくと顔を沈める。

 OKだボス。そのみんなを一発ずつぶん殴ってきてやろう!こんなに可愛い子に悲しそうな顔をさせるなんてありえないんだよ!ジャッジメントタイムで即デリート許可下りるレベルだよ!?


「だ、ダメだ。それは母様に迷惑を……」

「かけていいんだよ。子供なんて親に迷惑をかけてなんぼだし?うん、かけ過ぎのはダメだけど、かけなさ過ぎるのもダメなんだよ。何事もほどほどが一番だしね!だけど、それ以前に周りのその連中は間違いなく君のこともフレイア様の事も思ってなんていない」

「なぜ、そう言える」


 燃えるような瞳で俺を睨む少女に俺はほほ笑みながら答える。


「だって俺がそうだったからね。俺の義母さん(かあさん)は、俺に自由に生きていいんだって言ってくれた。けれども周りがそうさせてくれなかった。死んだお前の義母(はは)の為に、残された妹の為にお前は犠牲になり続けなければならないって。うん、実際に犠牲になって死んじゃったんだけどね。そのことに関しては俺は後悔はないけど、目の前に同じようになってる子がいたら止めるんだよ。ほら、今みたいにね?」


 ぽかんとした表情で少女は俺を見る。うん、俺なんて見ても何にもならないよ?悲しいかな、イケメンに生まれてこなかったらしいし?ポーズを決めてみたけど笑いは取れなかったみたいだ。悲しいな!


「そう、か。そこまで言ってくれる者は初めてだ。迷惑をかけていい……か。いや、でも、それでも(オレ)は……」

「役に立ちたいって言うんならそれでいいんだよ。だってそれは君のお母さん、つまりはフレイア様の事が大好きだってことなんだからね」


 またまた驚いた顔で少女は俺を見つめる。ふふ、なんだか照れてきちゃうな!


「好き、好きか。そう、か……。ならば、真人に感じるこの気持ちもそうなのだろう」

「うん、うん?なんでそうなるのかな?いや、嬉しくない訳じゃないけど初対面なのにそれはちょっとダメだよ!?」


 君みたいに可愛い子に言われると勘違いする輩が出てこないとも限らないからね!


「初対面、ああそうか。ふふ、いや、そういう事にしておこう。その方がきっと良いだろうしな。あと、真人が望むものは城の書庫の中にある。(オレ)が話を通しておこう」


 大きな瞳を細めてザバリと少女は湯から上がる。ありがとうございます!じゃなくて、全部見えちゃってるから隠そうね!見えてるから!見えてるから!!


「真人なら(オレ)は構わない。既にそれだけの事をしてくれているからな」

「え、何を言って――」


 いるのかな?と言葉を紡ぐ前に少女の体が炎に包まれ、どこかへと消え去ってしまった。

 彼女がいた、という痕跡は何もなく、まるで夢幻を見ていたかのようだった。


 とっても眼福だったなという言葉は心の内にしまって、また風呂に浮かんで星空を眺める。

 名前すらも聞けなかったけれどもこれで渡りをつけられたのだろう。確認は明日に後回し。今は体を癒すことだけを考えることにしよう。うん、だって今日は疲れたし?



 ――あれ?そういえば俺って名乗ってたっけ?何であの子、俺の名前知ってたんだろう……。不思議だな?

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