4話:銭湯で「コーヒー牛乳」が無くなったのに気づいてる人って意外と少ないよね?
炎が燃え、風が舞う。
爆炎と暴風が荒れ狂う火口の中、俺はひたすらに空中を壁面を駆け抜ける。
うん、全力ダッシュで逃げないとさっきのお城の壁の黒いシミになっちゃうんだよ!
「えー、はじめてお目にかかります水無瀬真人と申します。オウカ姫様の執事をやっております。ご存知かと思われますが、以後お見知りおきを」
焼きつくような空気はそのままでは一呼吸さえ許してはくれない、水をかろうじて生じさせ、空気の層を作って何とか息を吸う。
「これはご丁寧にどうも。我はこの領の長であり、この大地の炎の精霊を束ねる長であるヴォルガイアドラゴン、名をフレイアと言う」
狂ったように猛々しい焔火は蛇のごとき執念で放射状に俺に襲い掛かるのを分身に分身を重ねて逃れきる。やばいやばいマジでヤバい!あれ触れただけで骨まで焼き尽くされるよ!?
「フレイア様ですか。私の故郷の世界の女神様の名前でそのような名がございます。美しい名前ですね」
熱く焼けた火口の壁面をダッシュで駆け上がりながら木札を切って水場を探す。うん、ここは温泉地。たとえ火口であったとしても水場が無い訳がない――あった!
バコンと壁面が崩れて大量の水がその場に流れ込む。
「ほう、名を美しいと言われたのは初めてだの。くく、実に面白き男だ」
「おほめにいただき光栄であります」
しかし、爆炎はその水の侵入すら許すことが無いらしく一瞬の瞬きののちに吹き飛ばされ、水蒸気爆発の威力を天空へと逃し、空へと俺は吹き飛ばされた。熱と衝撃がヤバイけど木札をいくつも消費して水のベールで逃れきる。ふほへへへ!あちゅいあちゅいやばいやばい!マジでヤバいよあの龍!
けれどもこれで火口の上に逃れられた。うん、結果オーライ、万事OK!
空にあるのは積乱雲。空を蹴り、風に舞い、しゃなりしゃなりと水の精霊に奉納する。雷鳴とどろくその大量の雲から水をいただいて生み出すは一筋水の槍。大量で膨大な水を一重に圧縮したその槍を火口から舞い上る赤銅色の龍へ向けて振り下ろす。
「それで、我が領との契約の件なのですが、一部を破棄して新たに結びなおしてはいただけないでしょうか?」
圧倒的な質量と水量のその槍は逃れるにべもなく、爆炎龍へと突き刺さる――かに思われた。
「それは我が領に対してどのような益をもたらす?」
が、俺の放った水の槍は爆炎龍のときはなった高々火力炎によってかき消されてしまった。というかあれビームだよ!どう見ても光線じゃあないか!どんだけ高火力なの!?馬鹿じゃないかな!!
「現状我が領は立て直しの真っ最中ではありますが、御領への製品の輸出量を増やし、なおかつ低コストでお納めいただくことができるようになります」
「ほう、確かにそちらの領の製品は性能もよく我が民もよく買っておる。しかしそれだけではの」
でも、目的はその一撃だ。その炎の威力すべてをもらい受ける。
――第壱の秘術/八咫鏡。
有り余る水で編み込んだ八咫鏡でその力を受け止め、反属性に翻してお返しして差し上げる。
――第弐の秘術/叢雲の剣。
うん、痛みは一瞬だ?
「魔鋼の採掘権を一部そちらに移譲すると言えばいかがでしょう?」
鋼鉄すら一瞬で溶かすほどの熱線の威力をそのまま水へと転換した一撃。
先ほどの槍とは圧倒的なまでに火力が違う――。これで!
「なるほど、だがダメだ。それだけではだめだ」
炎が収束し大地が脈動する。うんそれは卑怯じゃ無いかな!
マグマがせりあがり、爆炎龍を包み込むと大地の力すら取り込んだ爆炎龍がそこにいた。
俺の解き放った最大の一撃は咆哮で掻き消されてしまった。くぅ、なんて圧倒的な――!!
「で、あるならば、輸送に使われている船の供与であればいかがでしょう。それも、オウカ姫だけではなく、大魔王の四天王グルンガスト氏の協力を得た商船です」
それでも俺はあきらめない。空を蹴り、空を翔け、分身に分身を重ねて幻影すらも重ねて肉薄する。
「ほう、それは面白い。しかし、今の輸送船で充分ともいえるのだが、そこはどうする?」
魔力と霊力でコーティングした剣を突き立てはしたが、突き立てた先からぐつぐつと燃えて解けて消える。体温もヤバイよコレ!
「はい、その商船はそのままお使いいただき、新たに作ることによりピストン輸送が可能となります。私が聞きました話によりますと勇者たちの海賊行為により、武装戦艦として運用されているとの事。そして、その艦があまりにも高コストのため、建造数が現存する一隻のみだと」
だから、さっきの余り。水を高々々々々々々々密度に圧縮した刃を突き立てる。水は百度が沸点。それ以上に上がれば水蒸気となり気体へと変貌する。けれども熱は水蒸気へも伝搬し、水は水蒸気が周りにある間は百度に保たれ続ける。だから大量の水を供給し供給し続けて刃をその肌にぶち込んで差し上げる。
――うん、空を飛ぶその翼にね?
「む、それは魅力的だ。しかし、そこまでするのであれば何を望む?」
片翼をつぶされクルリクルリと炎の龍が大地へと墜ちてゆく。けれどもその目は決して死んでない。ああ、そうだろう。炎の魔王龍がその程度なわけがない。
「まず、私共の領に製鉄場を作っていただきたく存じます」
「ほう」
バサリと炎が翼を形どり、赤銅色の龍が再び空を舞う。
――けれどもそれは、こちらの思惑通りなんだよ!!
木札のバーゲンセールとでも言わんばかりに大盤振る舞いして、天空から大量の水を雷すらも纏って蹴り下ろす!その速度は音速を軽々と超え、神速とも言うべき一撃――うん、セイヤアアアアアアアアアアアアア!!!
勢いのままに大地へと蹴り落とし追撃とばかりに大量の水槍を降り注がせる。――勝ったな!
「そして、その製造した製品はそちらの領の利益として八割を計上いたします。こちらは二割でかまいません」
「なるほど、輸送コストを抑えることにより、製品にかかるコストを少なくする腹積もりな訳か。しかし、部品製品はそちらでは製造できまい?」
それでも、それでもなおその魔王龍は立ち上がる。
こちらの魔力は素寒貧、手持ちの木札ももうないし、支給品の剣はドロドロに溶けて無くなっている、ふふ、もう打つ手がない。
「ええ、ですのでこちらの領に支社を作っていただきたく存じます。技術供与をお願いしているわけではなく、あくまで支社と言う形で納める形です」
いや、まだだ。まだこの身は滅びていない。例えボロボロに焼け焦げていたとしても、まだ俺は生きている。死んでいなければまだ、まだ――!
「くく、くははは!面白い、面白いぞ!ここまで我とまともに話せる奴は久々だ」
ゴウと一陣の風が吹き、あたりの情景が一変する。
――気が付けば俺は赤いレンガに囲まれた王城の謁見の間にいた。
そう、今までの戦闘は夢幻。目の前にいる女性――フレイア様が見せた幻影に過ぎなかったわけだ。うん、全部最初から知ってたけどね!
「はっ!私たち生きてます!?生きてますよね!真っ黒こげになってませんよね!?」
ロベリアちゃんが慌てた様子でキョロキョロとあたりを見回している。大量に汗をかいているせいか、ぴっちりとシャツが肌に張り付いていてなんだか艶めかしい。
「ふふ、大体わかってたさ!ああ、大丈夫だ!……ちびってねー」
フルフルと震えた声で夏凛ちゃんが涙目だった!後でお風呂に入ろう!ゆっくり浸かって今日の事は忘れたらいいさ!
「ふふ、すまなんだ。どうも真人殿の実力を聞いてどれほどのものか確かめたくての。つい、夢幻へと導いてしもうた」
くすくすと龍の肌色と同じ赤銅色の長い髪をたなびかせる美しい女性――フレイア様は笑う。陶器でできたかのごとき美しい肌は目の前の彼女が龍であるということを忘れさせるほどだ。
うん、赤いドレスからこぼれんばかりの大きな二つの丸い塊さんがね!ヤバイよアレ!どう考えてもメロン……スイカクラスはある……あいたぁ!足を踏まないで欲しいな!って、あれ、なんでロベリアちゃんだけじゃなくってサテラさんまで俺の足を踏んでるの!?
「まったく、お遊びがすぎます」
「その姿……ふん。ようやっと己が姿を取り戻したか」
「ええ、真人様のおかげで取り戻すことができました。危うくアベルの手に落ちるところでしたが」
くすくすと二人が笑いあう。
どうやら、フレイア様とサテラさんは昔馴染みの知り合いらしい。どれくらい昔からなのかは知らない方が身のためだろう。うん、きっとそうだ!年齢は乙女の永遠の秘密だからね!
あれ、マネちゃん?マネちゃん……死んでる!?