2話:授業中はよく消しゴムを削ってハンコづくりで遊んだよね?
広くて大きめの車内。シートはリクライニングで座り心地も抜群だった!
到着までは数時間はあるし、本でも読みながらのんびりしようかと思ったら、てんこ盛りの書類タイムだった!おかしいな!アークルからの列車の中でも大量に済ませてきたはずなんだけど!
「こちらは姫騎士の皆様にお願いしておりました書類になりますので、確認ののちに承認のサインをお願いいたします」
なるほど、サテラさん曰く承認印が必要らしい。ふふ、コッソリと作っておいたお手製はんこさんの出番がやってきたんだよ!はんこっていいよね、オシャレだし、かっこいいし、何よりサインを書く時間を短縮できる!
「でも朱肉がねーぞ?」
「しゅにくってなんです?お肉ですか?」
うん、ロベリアちゃんお腹空いてきたのかな?俺のお膝の上でパタパタと足をふりながら目を輝かせている。でも残念ながら朱肉はお肉じゃなくてハンコを打つのに必要なインクの付いた……あれ?俺もしかして朱肉忘れてきた感じ?
「残念ながらそうみたいやなぁ」
「そんな、まさか、どうして、こんな……」
一人で顔をぐにゃらせていると前の席からマネちゃんがニヤニヤとしながらこっちを見ていた。夏凛ちゃんもマネちゃんも漫画読みながらリラックスしてる。ズルい、ズルくないかな!
「どうでもいいのでさっさと済ませましょう。はい、どうぞ」
「また羽ペン……」
ロベリアちゃんから渡された羽ペンとじっと見る。ぢっと見る。
つまりは、この膨大な書類の山にペンで挑まないといけない。しかもインクを使うタイプの羽ペンで。舗装された道路を通っているけど、揺れたらヤバイよ!インクが!
「まぁ、がんばれ?」
「できれば手伝ってほしいけど、俺の承認がいるから誰にも手伝ってもらえない!?しかも車内だから分身もできない……だと」
つ、詰んでる。も、持てよ俺の腕!俺、帰ったらサクラちゃんの頭をなでなでするんだ……。
「その前に私の頭ですね。サンドイッチを作ってきました。どうぞ?」
「あむ、ん。これは、なかなかに美味い!」
カリカリと書類をこなす俺の口にロベリアちゃんが小さめのサンドイッチを放り込んでくれた!ああもう可愛いなぁ、俺のメイドさんは!なでなでといつも以上に撫でてあげると目を細めて喜んでくれているようだ。しっぽがついてたらすごい勢いで振ってそうだ!
「そういえば、なんでこれから行くとこには列車が通ってねーんだ?鋼材とか運ぶんなら必要になるんじゃねーの?」
「確かに夏凛ちゃんの考えは間違てないんだけど、残念ながらあっちとこっちじゃ山脈に挟まれてるせいでまだ線路が通ってないんだよ。だから鋼材は航路……つまりは船で運んでるんだよ。輸送車で運ぶ手もあるんだけど、船が圧倒的に安いんだなぁこれが。まぁ、うちの領は海に面してないから隣領から送ってもらうんだけど、どちらにせよそっちの方が安上がりなのよね」
「な、なるほどなぁ?」
夏凛ちゃんは首をひねりながらうなずいている。うん、絶対わかってくれてないな!
時代がどれだけ進もうが、輸送コストは船が安い。海賊も出るらしいけどね!異世界の海賊ってどんな感じかなぁ。現実的には漁師崩れだけど、異世界的にお宝探してるロマンにあふれた海賊さんがいてくれたらいいな!だって異世界だし?
「ヴァルカス領の輸送船は、武装戦艦になっておりますので木っ端の海賊ごときでは太刀打ちできないかと思われます。むやみやたらに近づいた時点で五十一センチ砲の餌食になるだけですね」
うん、何を考えてそれ積んじゃったのかな?ロマンだけど!それって戦艦大和のサイズだよね?戦艦ならともかく、なんで輸送船に積んじゃったのさ!
「それは私にはなんとも。ちなみにその船の中はかなり豪華で客船としても人気だとか。サイダーとアイスがおいしいらしいですよ?」
ふんふんと、少し興奮した様子でサテラさんが熱弁をふるってくれる。うん、こういうの好きだよね、サテラさんも。でも、ホテルクラスの内装にサイダーとアイスって本格的に大和な気がする。乗ってみたいな!
「では、帰りは船になさいますか?領までは数日かかりますが」
「車で!帰ろう!!」
乗りたいけど、早くサクラちゃんに逢いたいから陸路で我慢だ!乗るんならサクラちゃんと一緒にハネムーンでもいいなぁ……。
「そ、そういえば、その、サテラさん?う、運転……大丈夫なんですか?」
はた、と気づいたのかロベリアちゃんが青ざめた様子で首をひねる。
「い、今気づいたけど、なんでサテラさんも後ろの座席に……?」
夏凛ちゃんも気づいたのかだんだんと真っ青になってる。
今この車の中にいるのは俺、ロベリアちゃん、夏凛ちゃん、マネちゃん、そしてサテラさんだけのはず。それじゃあ、いったい誰がこの車の運転を……?
「もちろん私です。このくらいの遠隔操作は造作もありませんので」
えっへんと少し大きめの胸を張って優しく微笑む。うん、こういう細かなところが可愛いんだよね、サテラさんって。
そもそも最近までサテラさんはロボだったからね!車の運転を遠隔でやるなんて造作もないことなのだろう。というかバイクになってたりもしたし?
「なんやビックリさせんといてや。てっきり知らない誰かがこの車の中におるんかと思ってびっくりし
「ガタン」たわ。……ガタン?」
前方の座席ではなく、後部座席の更に後ろ。荷物を積んでいるトランクから音が鳴った。
え、何?ホラー?ホラーなの?いや、何となく誰かがいるような気配があったしわかってはいたんだけど?
「ふふ、大きなネズミが紛れ込んでいるようですね。これもお仕置きの一環です。ええ、つくまでは放っておきましょう。空気穴くらいはあけておりますので?」
なんでかすごくいい笑顔でサテラさんがにっこりとほほ笑んだ。
あ、これ誰が中に入ってるか知ってたのか。ううん、いったい誰が入ってるのかな?イチゴちゃんとか?それともライガあたり?大穴だと椿さんかなー?ちょっとだけ楽しみなんだよ!
遅くなりましたOTL