1話:炎の国と聞いて思い浮かぶのってやっぱり温泉だよね?
そうだ、炎の国に行こう!
「どうでもいいので準備をしてください。ほら、この前見たアニメでも言ってたじゃないですか。四十秒で支度しなって」
「うん、アレは緊急で出ることになっておばあちゃんが急かしてるだけだからね。というか、俺の荷物なんてアラク姉さんが新調してくれたタキシードと明日のパンツとちょっとのお金くらいだし?」
やっとできた自分の家の自分の部屋。久々に帰ったこともあって少しほこりっぽいけど、やっぱりここが一番落ち着く。でもこっちに来てまだひと月くらいだから物が少ないんだよね!
それにお給金が少ないのが不思議なんだよ。割と頑張って働いてた気がするんだけど?リターンが少なくないかな!
「それは仕方ありません。私だけではなく、勇者三人のお給金も真人様のお給料から出ていますから」
「ナルホドナー。うん、それは仕方ないかな!でも、もう少し俺に残したかったなって!給料明細書いたの俺だけど!試算したのも俺だけど!それでも俺のお給料が本当に雀の涙ほどしかないのが納得いかないんだよ!!」
今日日中学生でも俺よりもらってるからね!いや、何に使うわけでもないけどね?サクラちゃんに何かプレゼントしたいなーとか入用のときに、先立つものが無いと困ると思うんだよ。
「そうかもしれませんが、今は特に必要ないと思いますのでとっととカバンに詰め込んでください。とっくに四十秒は過ぎ去りましたよ。あのおばあちゃんなら怒って銃を乱射してるレベルです」
「うん、ソダネ。あのアニメよっぽど気に入ったんだね」
小さいころに見たアニメ映画のDVDを大魔王が持っていたのでロベリアちゃんに見せてあげたのだけど、かなり気に入ってくれたようだ。うん、やっぱりロベリアちゃんは可愛いなぁ!
「それで、どうして炎の国に行くんですか?」
「あれ?そういえばロベリアちゃんには言ってなかったっけ?それは――」
「説明しよう!」
バン、と扉が開かれてそこにいたのは……あれ、誰もいない?
「ここ、ここや!まったく、わかってて下を見ぃへんかったな!?」
ぷんすかと腕を抱えてマネちゃんがそこにいた。
マネちゃんドワーフだから小さいんだよね。大体ロベリアちゃんと同じくらいかな?年齢的には俺と近いせいか大きいところはすっごく大きいけど。ふふ、組んだ腕に持ち上げられてヤベーイ!……うん、ロベリアちゃん?痛いから脛を蹴るのやめてね?弁慶さんも泣いちゃうんだから!あ、ジトありがとうございます!
「それで、マネちゃんはもう準備終わったの?」
「そらもう終わってるに決まってるわ。行くって決まって真人さんが来るまでにぎょうさん時間あったし」
三日くらい前には決まってたしそりゃそうだよね!俺?俺はお仕事がね!ひと段落するまで時間がかかったんだよ!まさか過労死で三回もコンティニューする羽目になるとはね……。
「こん……?」
「復活の事言ってるんやろな、たぶん」
「復活したら大魔王がうれしそうな顔で待ち構えてるんだよ。ふふ、どうやってラビットラビットとかタンクタンクとか再現してたか知ってるかい?あれ自分のお小遣いじゃなくて防衛費とか使ってたんだよ?我が防衛力なのだから何問題ないのだ!って?うん、バレてアリステラさんに正座&始末書だったけど、なんでか俺も書かされたんだよ。理不尽だ!!」
俺はやられてた側なのにね!まぁ確かにあったら面白そうとか言ったけど?アイディアとか出したけど?俺は悪くないよ!全然悪くないよ!
「反省の色が見られませんね」
「まぁええんちゃう?楽しそうやし」
なんだか二人してヤレヤレとため息をついている。おかしいな、俺悪くないのになぁ……。
「んで、準備できてんのか?サテラさんがもう下に車つけてくれてるぞ」
通りがかったのか今回一緒に来てくれる夏凛ちゃんが声をかけてくれた。
うん、本格的にヤバイかな!
荷物をまとめたトランクを抱えて……。あれ、なんか重いな?まぁいいか!とりあえず運んでから考えよう!
ああ、またサクラちゃんに逢えなかったんだよ……。恋人で婚約者なのに逢えないのは寂しすぎる。なんでかこの前はお見合いまでやらされてたし?うん、ライラックさんは可愛かったんだけど、見てたらライガーに見えてきてあの後ライガ―を見たら変にドキドキしてやばかったんだよ!
「お待ちしておりました、真人様。お荷物はこちらへ」
「ん、ありがとねサテラさん」
待っててくれたサテラさんに荷物を渡して用意してくれた大型車に乗り込む。
大型車と言うか装甲車?ハッ、まさかこれも変形を……!み、見たい。すごく見たいけど、乗った状態で変形したら色々とヤバくなりそうな気がするぞ!
「……おや?」
「ん?どうかした?」
なぜか俺の荷物を抱えてサテラさんが小首をかしげていた。
「いえ、ふふ、何でもありません。小旅行ではありますが、ヴァルカスには温泉が有名だといいます。楽しみですね」
「温泉!温泉郷!温泉饅頭があったら最高だな!」
「いや、異世界だぞ?さすがに饅頭は無いだろ?」
夏凛ちゃんが首をフルフルと振っている。
確かに、そうかもしれない。けれどもそれは普通の異世界ということ。この世界だよ?転生者の手あかツキまくりの異世界だよ?無いと言い切れるのかな?俺には言い切れないね!!
「そんなに食いたいか、温泉饅頭」
食べたいね!ふかふかでもちもちな温泉饅頭は俺の大好物なんだよ!こう牛乳と一緒にきゅっとね?あと温泉と言えば温泉卵!そして泉質が炭酸泉だったらサイダーもあり得るんだよ!ああ、今から楽しみなんだよ!
「あれ普通に旅行しに行くつもり……ですよね?」
「ええんとちゃうか?うん、少しくらいは夢を見んとな……」
ロベリアちゃんとマネちゃんがかわいそうな子を見るような眼をしている。大丈夫だよ!予定はちゃんと立ててるんだから!たぶん、きっと、メイビー、少しくらいはのんびりとできるはず!はずだし!はず……だよね?
サテラさんからの答えは、とってもいい笑顔だけだった。
うん、なさそうだ!俺泣いていいかな!!うわああああん!!