魔王姫と姫騎士たちと女子力と9
どうしてこうなったのか?その問いに答えるものは今はいない。
その原因になった誰かさんは実家に帰ってお母様に報告して来るとの事だ。うん、あれって絶対既成事実化させようとしてるよね!ボクの言うことやっぱり全然聞いてくれてないよ!
「え、ええと、ご趣味は……?」
「りょ、料理を少々……」
カポン、と苔落としが鳴る和風庭園。高級料亭の一角に用意された個室にボクと直人はいた。
そう、これはお見合い。男と女の想いと思いをぶつける合戦場。
こういうのって普通両親がいるもんだと思うんだよボクは。来たらぶん投げてやろうと考えていたんだけどなぁ。
着慣れない可愛い服を身にまとい、メイクをバッチリ決めて、この前と同じウィッグをつけている。今のボクはライガではなくてライラック。その昔事故に逢って両親を亡くし、親戚であるお父様が引き取って育てていた、という設定と手紙に書いてあった。けど、うん。真人に話してないボクの話そのまんまだからね!そこにほぼ男の子として育てられちゃったってのが入るけど!
「それにしても、ライおっさん今日来ないのね。せっかく気に入ってくれそうなお酒見つけてきておいたのに。あ、渡しておくから」
「あ、あはは、ありがとうございます。ライオネル様もきっと喜ばれます」
たぶんこの場で渡されるべきものじゃないと思うなぁ……。
「それで、その、どうして今回のお見合いの件、お受けしていただけたんですか?」
それはボクがどうしても聞きたかった事。
彼にはオウカ姫様がいる。だからきっとお見合いなんて断られてしかるべきだと思っていた。なのに真人の奴は、受けてくれた。まさか、とは思って二度見したけど今日来てくれてるんだから夢なんかじゃなく、本当にこのお見合いを受けてくれたのだ。あ、あれかな?たぶんこう見えて義理堅い性格だし、お父様の顔をつぶさないようにとか考えたんじゃないかなぁ……。
「そうだね。一つはライおっさんの顔を立てるため」
ほら、やっぱり……。そう思い、真人に聞こえないように小さくため息をつく。そんなものだ。どうせボクなんて――
「それと、ライラックさんともう一度逢って話したいなって思ったからだよ」
「ふぇ?」
思いがけない言葉にボクは気の抜けた声を出してしまう。
え、こいつなんて言った?ぼ、ボクとまた逢いたかったって?
「え、ど、どうして……」
「んー、そうだな。かわいい子にもう一度逢いたいのに理由がいるかい?……だなんて臭いセリフは俺には死んでも吐けないんだけど、うん、ライガーの話を聞きたくってね」
「え、えとぼ……ライガ様の、お話ですか?」
更にビックリして目が点になる。なんでボクの話を……?
「うん、アイツ最近元気が無いらしくてね。ライおっさんが気にしていたんだよ。個人的にライガーはこっちで一番の友達だからね。何か力になれないかなって思ってライラックさんに話を聞けたらと思ったんだよ。それで、何か心当たりとかないかい?」
「こ、こころあたり、といって、も……」
お前のせいだよ!と言葉に出したいけれども、喉元から出てきてくれない。そんなことよりもボクの顔、真っ赤になってないよね?今すごく顔が熱いんだけど!な、なんだよ、一番の友達って。あんなに適当な扱いばかりしてたのに、いや、その、確かに一緒にいて楽しいし、いろいろ悪戯もされるけど、こいつのこと嫌いってわけじゃ……。
「あれ?どうかした?なんか俺変なこといった?」
「にゃ、にゃんでもないです!その、えと、ライガ様は……最近、真人さんに逢えなくてさび、つまらなかったので落ち込んでいたそうですよ?たまにでいいので、一緒に遊んでくれると喜ぶかなって」
あああ、ボク何言ってるんだよ!他人の顔して自分のして欲しいことなんて言って……。
「それくらいなら何とかなるかな?うん、次に死んじゃった時にでも顔を出すかな」
「自分を大事にしよう、してくださいね!」
言ってくれるのは嬉しいけど、もっと自分を大事にしてくれないかな、こいつは!
完全に毒気を抜かれてボクは椅子にもたれかかる。
「うん、ライラックさん。本当にありがとう。あと……」
「大丈夫です。わかっていますから。真人さんは余程オウカ様の事を愛されていらっしゃるんですね」
「もちろん。世界で一番に……ね」
二番目くらいに、なんて言葉を紡ごうとしてボクは口を閉じた。
「で、断ってもーたん?」
情けないなーと椿さんが首をフルフルと振っている。うん、そんな暇があったらお仕事だよ!真人からの分担分が思った以上に回ってきてるんだから!
「もったいないわねぇ。きっともう少し押せばお妾さんになれないのに」
「お母様、そういうのはライガさんの気持ちもあるんですよ?」
「え、でもどう見てもホの字じゃない」
うん、サラさん。ミラさんのお口をチャックしておいてね!こんな話をしてるところに真人が死んでやってきたらたまらないから!
「何も考えずに押し倒しちまえば良かったんだよ。ほら、アレだ。男も一皮むけば野獣っていうだろ?」
「何も考えてないのはサンだっ!ほら、書類全然終わってないぞ!」
「うわん!アタシが書類仕事苦手なの知ってるだろー!」
しくしくとサンが泣きながらペンを走らせていく。うん、みんなでカリカリ進めないと終わらない量だからね!マジでどうやって一人でこなしてたんだよアイツ!!
「ホンマ、真人さんって一家に一人欲しいレベルやな。うちも欲しい」
「そんなのボクも欲しいくらいだ!ふふ、もしもいたらこき使ってやるんだい!」
やけくそになりながら全力でガリガリとみんなでペンを走らせる。終わらない書類作業に埋もれながらアイツの顔を思い浮かべる。
真人はボクの事を一番の友達だって言ってくれた。それが何よりもうれしかった。だから、もう少しだけ。うん、ホンのもう少しだけ、男の子って勘違いを直さないでおこう。
もし、本当の事がバレたら?その時は、ボクはアイツに――
窓の外を桜の花びらが散って落ちてゆく。
ボクの心の中に秘めた女の子としての想いをいつか届けられたらいいなと、そう思いながらボクはまた山盛りの書類に頭をうずめたのだった。
とーっても遅くなりました。
GWなんてなかった!!
次話より第3章を開始いたします。