魔王姫と姫騎士たちと女子力と5
弄ばれた、うん、完全におもちゃにされた。
可愛い、かわいい、カワイイ。そんな魔法の言葉に流されて、気が付けばボクはピンク色のフリフリのロリータファッションを身に着けて、メイクなんて生まれて初めてされてしまって、さらにはウィッグまで付けられたツインテールな萌え萌えきゅん☆な姿にされていた。
どうしてこうなったのかな?!ボクはただ女子力高めて、可愛くなって、アイツにボクが女の子だって認めさせたいだけだったのに……。あれ?なんだか目的が変わってるような?いや、ううん、いっか。
「ぐふふ、お嬢ちゃんどうしたのかな?迷子かな?」
一階の環境課の前で変な声に振り向くと、オークのおっちゃんがいた。確か課長のオオキさんとか言う名前だった気がするけど……あれ?気づかれてない?
「いえ、その、迷子ではなくてですね?」
「うんうん、そうかい。でもね、そっち側は立ち入り禁止の区画だから行かないようにしようね?」
緑色の肌、つぶれた鼻、飛び出た凶暴な牙。けれども清潔なスーツに身をまとい、眼鏡をかけたその姿はただの親切なおっちゃんでしかない。うん、漫画とかアニメとか見ちゃうとギャップに苦しむんだよなぁ……。
「ん?どうかしたかな?」
「あーいえ、な、なにも。その、一応ボクは関係者だから向こうに行きたいのだけど」
「ええ、そうなのかい?ううん、それなら入場章は持ってないかな?持っていれば大丈夫だよ。最近は入場章も魔王勲章ないのに大魔王様に挑もうとする勇者も増えているから、念のために、ね?」
ちなみに入場章は大魔王様かここで申請して受け取れる一種の大魔王挑戦権で、魔王勲章というのは各地にいる魔王を倒したという証明。七つ集めると大魔王様への挑戦権がもらえる仕組みになっている。
うん、アトラクションだよね?と思わなくもないけど、大魔王様が決めたシステムだから一介のボクが文句を言うことはできない。
ちなみに、集めてきた猛者は今のところいないらしい。いつも大魔王に挑んでる例外は一人だけいるけど。
「あー、どうしたのオークのおっちゃん」
「ああ、ちょうどよかった。真人さん、この子が立ち入り禁止区画に入りたがっているんだけど、よかったらパーティを組んで中に入ってくれないかな?それだったら許可できるからさ」
ま、真人!?いやいや、どうしてこっちにいるんだこいつ!というか、見られた!?
「ふーん、というか獅子耳の子だったらライおっさんの知り合いかなんかじゃないの?獅子族っぽいし」
「ああ、それは気づきませんでした!ごめんね、お嬢ちゃん。気づけなくって」
「い、いえ、その、わかってもらえれば大丈夫です」
き、気づかれて……ない?うん、気づかれなくてよかったんだけど、どうもこう、釈然としないというか、悲しいというか……。
「まぁ、とりあえずライおっさんのとこに連れてけば大丈夫でしょ。今の時間ならたぶん自分の執務室で書類と格闘してる頃だし」
「それでお願いします。お嬢ちゃんもそれでいいかな?」
「あ、え、う、ううん、いい、です?」
って、うあああ!良くない、よくないよ!どうするのさ、お父様にこの姿見せるのか!フリフリのピンクのロリータファッションを着て、るん☆みたい雰囲気になってる今のこの姿を!?
……し、失神しそうだ。というか下手すれば怒られる!一応今の時間も姫様の護衛っていうお仕事中なわけだし。
「それじゃあこっちだからついて来てね、ええと……」
「あ、え、えっと、ら、ら、ライ、ライラック、といいます……」
「へぇ、かわいい名前。というか異世界でも咲いてるんだなぁ、あの花」
思わず、昔の名前を名乗ってしまった。
しみじみとボクの顔をじっとみてなんだか首をかしげている。き、気づかれてない、無いよね?
「花言葉は確か、友情、謙虚……だったかな。うん、いい名前だよ」
「ありがとう、ございます」
あれ、なんでボク顔が赤くなってるんだ?いや、ただ名前をほめられただけじゃないか。でもまぁ、悪きはしないし、いい、かな?
「それで、どうしてライおっさんを訪ねて?」
執務室への長い廊下を歩きながら真人がボクに話しかける。こうして並んでみると割と身長差があるんだよなぁ。
「あ、ああ、えと、ぼ……私のお母様がライオネル様に言伝がありまして」
「ふぅん、なるほどね」
こ、言葉が続かない!普段ならもっといろいろと話せるのに!いや、そもそもなんで気づかないんだよ!化粧もしてるし、ウィッグで髪も伸ばしてるけど、こ、声でわからないかな!わからないかなぁ……。
「それにしてもかわいい服だけど、その服もライラちゃんのお母さんが?」
「は、はい、母はこういう服が好きでして、自分が着れないからって、私に……」
「それはまたご愁傷さまで。まぁ、ライラちゃんに似合ってて可愛いし、悪くないと思うけどね」
か、かわ!?可愛い!!こいつ、ボクの事、可愛いって言った!いった!こ、これは今のボクに少なからず女子力がついたってことだよね!やったよ、ミラさん、サラさん!着せ替え人形にされたかいがあったよ!今度何かでお返しするけど!!
「そ、それで、真人さんはどうしてここに?み、見たところ勇者さん、みたいですけど」
「それはとっても複雑怪奇な問題でね。うん、今さっきまでオウカ姫様っていう魔王で俺の彼女さんの領でお仕事してたんだけどね、多忙すぎて死んだの。いやぁ、いろんな死に方したけど、過労死は初めてだったかな!ヤバイね!」
誰かこいつを休ませてあげろぉ!いや、多忙なのは知ってたけど、死ぬまでお仕事させてるのはどこのどいつだよ!って、ボクだ!?
う、ううん、クロエも勇者四人組もいるし、あっちで沢山雇い入れてるから大丈夫だと思っていたけど、想像以上にやばい状態らしい。ミラさんとサラさんを追加で派遣しないとなぁ……。
「その、大丈夫なんですか?いろいろと」
「だいじょばない!マジで死ぬ!というか死んだ!復活したら大魔王にクリティカルクルセイド決められてまた死んだんだよ!いやこっちも時間差コンティニューだ!とかライダーキックでやりかえしたけど、酷くないかな?あっちは死なないし!!」
うん、状況が全くつかめないけど、本当にこいつってば大魔王様と仲いいなぁ……。
あはは、とにがわらいをしているうちにお父様の部屋へとたどり着いた。
「そういうわけで、ライおっさんによろしくね。またどっかで逢えたら軽くお茶でも」
「ええ、その時は」
ひらひらと手を振って真人は去っていった。
ふぅ、何とか乗り切ったぞ!……あれ?今ボク、お茶に誘われた?ま、真人に?ど、どうしよう、またこの服じゃおかしいし、そ、それなら別の可愛いい服を……。
「ライガ、その、ええと、どうしたのだ、そんな恰好をして?」
振り向くとお父様がいた。なんでお父様は一目でわかるかな!
「あいたぁ!なぜ吾輩の足を踏むのだ!?反抗期、反抗期なのか!」
「気にしないで!」
女心は複雑怪奇なんだよ!ボクだってこの気持ちをどう表現すればいいかわかんないんだから!……うぅ、次にアイツとあったときどんな顔すればいいんだよ。
ものすっごく遅くなりました。申し訳ありません。OTL