挿話:小さな勇者と壊れた勇者たち9
やっと僕に家族ができました。
家族と言っても血なんて繋がっていない、繋がりはかの魔王が彼女たちに施した魔紋と呼ばれる穢れた絆。
でもそんなモノは目に見えるものなんかじゃない、心の、そう、心の絆。
「うん、お見事かな……。四対一でやっと一つになった感じ?」
「あ、ありがとうございましきゅぅ……」
クロエさんは嬉しそうににっこりとしているけれども、完敗でした!それでもやっと一撃、かすり傷位つけることができて、そしてなにより、誰も死ななかった。殺されなかった。その成果が何よりも大きいんです!
「それが当たり前ですからね?死んでもいいなんて間違ってるんです。人間も獣人も魔人だって同じ。強い理由は死にたくないから必死なんです。必死なんて言葉の通り必ず死んでたら絶対に強くなれないんです。だから、普通の勇者は頭打ちになってくんです。ようは死になれちゃうんですね」
「死になれ……ですか」
「そう、慣れちゃうんです。死んだから死ににくい動きをするんじゃなくて、死んでもいいやになってくるんですよね。人生は一度きりの筈なのに、一度きりじゃないからありがたみを忘れちゃうって話です」
ありがたみ……。そう、確かに僕らは忘れかけていたのかもしれません。
二度目の人生、本当なら本当にありがたいことなのに、三度、四度と死んでしまううちにそれが当たり前になってしまう。勇者となった以上は必ず通る道。思い返してみれば確かに僕も死んでしまって悔しいと思ったことはあっても、いつの間にか死ぬ恐怖ではなく、クエストを達成できなかった悔しさの方が重要になっていた気がします。
「だから弱くなっていきます。死ねることは間違いなく強みです。だけど、取り違えないでください。死ねば自分が死ぬだけじゃすみません。周りの大事な何かもきっと失っていきますから」
僕にとってはひとみさんであり史さんであり早苗さん。魔王や強い魔物に敗れてしまえば、ううん、きっと勇者に敗れても同じ。僕は大切な家族である彼女たちを失う羽目になりかねない。
「特に玲君は覚悟をもってくださいね。一番の要は貴方です。きっと貴方が崩されてしまえば全員が崩れます」
「むむむ、聞き捨てならないな!」
「そうね。まるで私たちが玲君がいないとダメって事じゃない」
「つまり、玲君が倒されたらすぐに撤退した方がいいと言う事ですか?」
「そういう事!その場合だけは死んだ方がいいですね」
ううん、言ってることは真逆だけども、その答えは正しいんです。
「貴方たちは残念ながら玲君がいなくなった途端に自分を、隣にいる仲間を忘れてしまうんです。焦るのは分かるんですけどね?先ほどもやりましたが、動きがてんでバランバランになってしまってボロボロのグズグズのグダグダです。行ってしまえばダメダメですね」
ああ、クロエさんの評価が散々でみんなの表情が暗く!うん、悔しいのは分かるけど、今はこぶしを下ろしましょうね!またやられちゃいますから!
「そういう訳で、玲君がやられたらいっそのこと死んでください。それ以外の場合は必死になってくださいね?あなたたちは玲君がいれば百人力以上の力を使えるようですので、玲君がいる限りは一人でも残っていれば頑張れます。ふふ、よっぽど愛されてるんですね」
クロエさんがなんだか嬉しそうににっこりとほほ笑んだ。
愛されている、ですか。
確かに僕はみんなにまるで弟の様に思ってくれてるみたいですごく幸せ者だなあって思うんです。みんな優しくてあったかくて、本当にお姉さんが一気にできたみたいで……あれ?なんでみんな目を逸らすんですか?なんだか顔も赤いですけど?
「うん、頑張れ玲君!その、うん、夜だけは気を付けて?」
「は、はい?」
ううん?何を気を付ければいいんでしょうか?はっ!まさか他の魔王とかの襲撃ですか?それなら大丈夫です!最近は四人いっしょにもがが!?
「ええと、うん、大丈夫だよね!」
「そ、そうね。うん、大丈夫」
「問題は、なにも、ありません!」
満場一致で問題ないと言ってるけど、何が問題なの!?確かに女の子の部屋で僕が寝るのはちょっとケ恥ずかしい気もするけど、その、家族……だし?ダメなのかなぁ……。
「ああ、もう色々と……」
何かを察したような顔のクロエさん。いったい何の話を……?
「ま、まだしてないよ?まだ!」
「して、無い。う、うん、まだ大丈夫」
「そうですね、まだ、何もしてませんし……。ただ添い寝というかギュッとして寝てるだけですし?」
そうそう、だからきっと何も問題はないと思うんですけど。
「うん、今のところは大丈夫そうかなー。でも、そうだね!玲君、早めに一人で寝るようにした方がいいかもしれないかな?色々と諸々が危ないよ!?」
うん、大丈夫です!皆さんと一緒だから安心して眠れます!
「ああ、そ、そう?にゃぁ……どうしたもんでしょにゃぁ……」
クロエさんが頭を抱えています。ううん、頭痛ですか?ステータスには異常はなさそうですよ?
「異常があるのは後ろでそっぽむいてる三人です!はぁ、うん、ちゃんと合意だけはとるんですよ」
その言葉を聞いて何でかその三人はさらに顔を真っ赤にしています。
ねぇ、いったいどういう事なんですか!?
「小さな勇者と壊れてる勇者たち、というか……ショタに堕ちた勇者……ってどうなのかにゃぁ……」
なにやらブツブツとクロエさんは遠くを見つめながらつぶやいていた。
よくわからないけど、きっと僕ももう大丈夫です。僕とみんなで、家族なんですか――あれ、パティさん?なんで恨めしそうにこっちを見てるんですか?パティさんも優しいお姉さんで大好きですよ!
その言葉を聞いて今度はクロエさんが更に頭を抱えていた。ううん、不思議です。
これにて挿話その4は終わりになります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
あと1つ挿話を挟んだのちに第3章に移りますのでよろしくお願いいたします。