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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:小さな勇者と壊れた勇者たち
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挿話:小さな勇者と壊れた勇者たち6

 私たちは壊れている。

 勇者として、人として、壊れている。

 砕かれてグズグズになっていた私たちの心と体を綺麗に集めて一つに又まとめてくれたのが今の私たち。

 だからきっと今の私と昔の私はどこかが違っている。昔の私が今の私のようだったかもあまり自信が持てないし、元居た世界の事がかなり思い出せなくなっているのも、きっとそういう事なんだろう。


「ひとみも史も早苗も体の方はエリクシールで治してるんだから大丈夫よ。精神状態はある程度はエリクシールが治してくれるんだけど、完全には……ね」


 私たちの体を定期的に見てくれるドワーフラビットのミウ姉さんはそう言う。確かにミウ姉さんの言う通り体の調子はすっごくいい。目覚めもばっちりお肌も調子もいい。だけど、そう、だけど、私の心には何かとても大きな穴を空けられている。その穴がどうしても気になって仕方がないわけだ。

 はぁ、と大きなため息をつきながらお昼のサンドイッチを一人でかじる。今日も今日とて魔王の執事(真人さん)の手料理だけど、すっごく美味しいのが腹立たしい。うん、すっごく腹立たしいよ!なんでこんなに美味しいかな!照り焼きチキンサンドなんて美味しくないわけが無いじゃない!もぐもぐ!


「お、がっついてるね」

「もぐもぐあれ、もぐもぐ夏凛姉さんもぐもぐ」

「うん、とりあえず飲み込もうな」


 声をかけてくれたのは黒髪長髪長身で巨乳、さっぱりとしたまさしく姉さん!というイメージの夏凛さんだ。うん、ギュってしていいです?ギュって?


「な、なんでそんなに抱き着きたがるかね。まぁ、それよりなんだ、ひとみ。そんな暗い顔をして」

「……そう、見えました?」

「見えた。誰かに悩みをぶちまけてーってな?」

「そこまで!?」


 はは、流石に冗談だ、と夏凛姉さんは言って私の隣に腰かける。


「それで、どうした?」

「……聞いた話ですけど、夏凛姉さんも、その、私たちと同じで……」

「ああ、魔王に堕とされて魔石を産まされてた」


 さらりと言う夏凛姉さん。ううん、割り切ってるのかなぁ。かっこいい……。


「その、えと、何といえばいいか私にもよくわからないんですけど。あの地獄から、今みたいに普通に戻れたのはいいんですが、何というか、ううん、心がぽっかり空いてる感じで……」

「そこに玲の奴がいる感じがするんだろ?」

「そ、そうです。そうなんです!それって何か変な感じがして……」

「そりゃそうだろうな。んー、アタシもいまいちわかってねーんだが。ほら、アタシらの胎にはさ、魔紋ってのが刻まれてるだろ?」

「は、はい。その、主なしではもう生きていけない証だって、ミウ姉さんが……」

「そう、アタシもひとみももう主無しじゃあ生きてけねーんだ。サテラの奴に試しにアタシらの主の設定が消えたらどうなるんだって聞いてみたらな、主を探してゾンビみてーになって歩き出すってんだよ。そんな訳ねーって思いたいけど、たぶん嘘じゃねえ。やったことはねーけど不思議と確信がある。ひとみもそうじゃねーか」


 その言葉に私はコクリとうなずく。確かに何故か確信が持てる。誰でもいいから()()()()()()()()()()と見つけた誰かの足に縋ってしまう。そんな確信……。


「まぁ、アタシには真人がいて、ひとみにゃ玲がいるから大丈夫ってか運が良かった。だけど、きっとまだ足りてねーんだよ」

「た、足りてないって?」

「玲の奴の力が、だよ」


 それを聞いてムカリときた。私の大事な玲君の力が足りないだなんてそんな酷いこと……。いや、うん、強くは無い、かな?お仕事すっごい出来るし、可愛いし、優しいし、すっごい大好きだけど?


「ふふ、その強さじゃねーよ。そうだな……護ってくれる、とか、ずっとアタシらを傍に置いてくれるんだって安心感みてーなもんだ。それをアタシの主人は力で見せてくれたからそのイメージなんだが、玲の奴は何か見せてくれたのか?」

「見せてくれたというか、その、みんな一緒に添い寝を……」

「それでどうだった?」

「顔真っ赤にしてすっっっっごく可愛かったです。えへへ、玲君の手って、小さくてやわらかくてあったかくて、にぎにぎしてると安心するんです」


 そう、安心する。玲君と一緒だと心が全部満たされる気がする。……あれ?


「だったら大丈夫だろ。心がぽっかり空いてる気がしたら、うん、玲の奴に抱きつきゃいい。それで万事解決だ」

「でもそれってすごく不健全じゃないです?」


 不安になったら玲君に頼っちゃうのってなんだか申し訳ない気もするし。


「アタシらはもうそういう生き物になっちまってるんだよ。自分でもわかってるんだろ?」

「……うん、本当に私たちって壊れちゃってるんですね」

「そうだ。でも、壊れて治ったモノは強いんだぞ。……あと、これは秘密だぞ」


 そう言って、夏凛姉さんは私に二言ほど耳打ちする。……ふむふむ。……え?あ、あれ?そ、それって、夏凛姉さん、真人さんの事――!


「く、口にするんじゃねぇ!まぁ、その、言い訳だが、アタシらは主になった奴に好感を抱きやすいんだ。その人のためにって考えると頑張れるんだよ」

「なるほど、それで一日頑張ったらご褒美になでな――」「だから口にするんじゃねぇ!ゆ、油断も好きもねえっ!!」


 顔を真っ赤にして夏凛姉さんが私の口をふさぐ。ふふ、夏凛姉さんは綺麗だけど可愛い人なんだなー。


「でも、私も史も早苗さんだって、玲君に褒められるようなことなんて……。この前だって、真人さんに挑んで惨敗だったし……」


「うん、勝てねーよ!あいつ大魔王の四天王と互角に殴り合える奴だぞ?そんなのにたった三人の勇者で挑んで勝てるわきゃねーよ。この前なんてヤマタノオロチ出してたし?何だよヤマタノオロチ!マジで日本神話の化け物を召喚してるんじゃねーよ!その後、聖剣ぶっぱして湖と山を切り裂いてたし!頭おかしいんだよアイツ!」


 夏凛姉さんが頭を抱えている……。う、うん。思った以上に半端なかった!というか、聖剣!?なんで魔王側の勇者が持ってるの!?いろんな意味でヤバいんじゃないのかな!


「いいんだよ、気にしなくて。だって真人だし」


 本当に信頼してるからこその言葉だろう。夏凛姉さん本当に真人さんの事……。


「ともかく、あいつを基準に考えるのが馬鹿げてるんだよ。せめてヴォルフのおっさんか、姫騎士辺りにしとけ。アタシと林檎、苺を合わせてやっとあいつら一人と同等かそれ以下だろうし?」

「そんなに強いんですね、あの人たち」

「そう、強いんです……にゃ!」


 がさり、と音がして影が立ち上がった。え、あれ?い、いつからいたんですか、クロエさん?


「え?耳打ちしてた辺りからですかね?むふふ、やっぱり夏凛は真人様の事……」

「こ、ころ!ころちゅ!他の奴にいったらぜってーころちゅ!」


 姉さん、ろれつが回ってないです!落ち着いてください!ギュッと抱きかかえるようにして凶行に及ぼうとする夏凛さんを引き留める。あ、おっきくてやわらかい……ふぅ……。


「どさくさに紛れて揉むんじゃねぇ!」

「あいたぁ!何も殴らなくてもぉ!」


 怒りの鉄拳が私のおでこに大きなたんこぶを作った。ふふふ。でも、とっても柔らかかったです!こう、早苗さんと違う柔らかさというか、弾力で……。ふふ、素晴らしきかな!


「まぁ、それは置いといて。それどうです?ひとみちゃん、私の特訓、受けてみませんか?」

「とっくん、ですか」

「そう、特訓。話だけ聞いていたんですが、ひとみちゃんと史ちゃんの変身能力って、元の基礎値からの底上げみたいなんですよね。だけど、私が見るに今のひとみちゃんはその基礎がかなりおろそかに見えるんです。戦うとき、いつも変身して戦っていませんでした?」


 確かにその通り。普通に戦える敵ですら、私も史も変身して戦っていた気がする。けれどもそれで大体対応できていたし、できなかったのは捕まったあの日だけで……。


「でも、できなかったからああなったんですよね?」


 ぐうの音も出なかった。だからああなって、今ここでうなだれている。


「だから、特訓です!」

「でも、今更強くなっても……」

「なったらきっと玲君の役に立てますよ?」

「やります!ぜひやらせてください!史もすぐに呼んで来ます!」


 私は全力ダッシュで史を呼びに走る。待っててね、玲君!絶対役に立てるようになるから!






「はぁ、真人の差し金か?」

「ふふ、どうでしょう……にゃ」

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