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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:小さな勇者と壊れた勇者たち
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挿話:小さな勇者と壊れた勇者たち5

 僕は勇者だ。

 そうでありたいと、そうなりたいと、今よりずっと小さいときに思いました。

 けれどもそれは叶わなくて、どれだけ勉強をしても、どれだけ周りの大人にもてはやされようが、自分が一番褒めて欲しい人に褒められたことはいちどだってありませんでした。

 博士号なんて身に余るものをもらって、父に見せたあの日、僕は死にました。

 泣きながら、なんでお前なんだ、なんて言われて、僕は呆然としたまま、酔った父の振るったビール瓶に頭を砕かれてしまった。

 うん、字面にするとすごい酷いけれども、それが僕、不知火玲です。


 そして、死んでまさか勇者になってしまうだなんて……。でも想っていた勇者とは何もかもが違い過ぎて、自分の中の勇者としての像が揺らぎだしていたその時、彼が現れました。

 目の前で傷つき、守りたい人を護れない。自分の中の勇者が死んでしまう。そんな瞬間に彼が、来た。


 水無瀬真人、魔王の執事である、あちら側で言えば堕ちた勇者。けれども彼はそんなことは無くて、自分勝手に自由気ままに自分の正義を心に秘めて、力を振るっています。

 うん、なんで勇者なのにヤマタノオロチなんて召喚しちゃうんですか!?というか、チート貰わずにヤマタノオロチを召喚するって、つまりは元の世界にも非現実的な能力や生物がいたと言う事で……うん、やめておきましょう。もう過ぎ去ったことです。考えてはきっと負けなんです!


「だけど、その、なんでみんなで寝ることに?」

「え、だって早苗さんだけ一緒に寝るってずるいし?」

「流石に男女が二人で寝るのは不健全だし」

「みんなで寝るってなんだか楽しいじゃないですか!」


 三人一致で一緒に寝たいらしいです。うん、シングルベッドだから割と狭い!というか、早苗さんの上に僕がのってその両端にひとみさんと史さんが陣取っているのですが、早苗さん、僕重くないですか?


「ふふ、大丈夫よこのくらい。ん……枕は大丈夫?」

「ま、枕、というかその、えと、早苗さんの……」


大きくてふかふかとした二つのお山に僕の頭にしかれて、ふにょんと潰れている。うんん?こう、ワイヤー的な感触が無いですけど、あ、あれ?まさか……。


「寝るときは窮屈だから、付けないのが普通なの。寝づらかったかしら?」


 早苗さんが僕の頭をやわやわとなでてくれる。うん、心地いいけど、緊張して眠れないです!


「もう、早苗さんばっかり。私たちも一緒に寝てるんだからね?」

「……まぁ、私たちは早苗さんと違って横に寝ているだけなのだけど」


 そう言いながら僕の両腕を二人がそれぞれギュッと抱きしめています。うん、ふよっとした感触がですね。感触がですね!!


「ふふふ、こうして誰かと川の字になって寝るなんて何年ぶりかしら。なんだか楽しいわね」


 楽しいんですか?僕は寝れそうにないです!ただ、早苗さんを元気づけたいなって思って来ただけなんです。こんな風に川の字というか、お姉さんたちに挟まれて、抱きしめられて寝るだなんて、想定外なんです!ううう、女の子の免疫なんて無いのに……。真人さん、真人さん助けて……!


『座して死ねぃ!!』


 ……うん、助けを求めたら絶対にこう言われますね。自分で、何とかしないと!


 何とかってどうすればいいんですか!!

 右にはひとみさん、左には史さん、後ろには早苗さん。

 うん、逃げ場がないです!それ以前に動けません!指……あれ、何で僕の手が温かい何かに挟まれているんです?足ですか?ロックしてます?本当に動けないんですけど!!


「あ、あの、みなさん、僕、寝返りを……」

「ぐぅ」

「すや」

「にゃむ」


 ……寝てる?みんな寝てます!あ、あれ?もう寝てるんですか?さっきまで話してましたよね?も、もしもーし……。くぅ、本当に寝てます……!ど、どうしよう。ドキドキしすぎて寝れません!お、落ち着きましょう。大丈夫、僕は冷静です。こういう時は素数を数えればいいんだって真人さんが言っていました。素数は孤独な数字!僕の心を癒して……。


「んぅ……、玲、くん……」


 ひとみさんの柔らかな感触がさらに僕の腕に押し付けられる。小さいながらもしっかりと主張のある二つの……な、なな、何を考えているんだ僕は!し、しんこきゅう!しんこきゅーを!


「す、きぃ……」


 すべすべで柔らかい史さんの太ももが僕のグーの手をむにむにと潰していきます。ああ、だ、だめ、だめです。手が、手のひらがっ!うわ、あ、ああっ!あーーーー!!


「んふー。えへへ……」


 ギュウと、早苗さんの腕が僕を包み込み、頭がさらにあたたかくてふかふかな今は僕の枕になっているモノにさらに押し付けられて、あ、あ、頭がし、沈んで……んぎゅ……。


 全身にひとみさんの、史さんの、早苗さんの感触が伝わって……うん、もうぼかぁ、だめだぁ……。


 その日、とっても不本意ながらも、僕は少しだけ大人の階段を駆け上がったのでした。




「うん、とりあえずもげればいいんじゃないかな!」

「不本意なんです!というか何をです!?」


 翌日、予想通り真人さんに弄られたのでした……ぐすん。

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