挿話:小さな勇者と壊れた勇者たち2
城の裏側。街とは反対側に面している場所。
ここは普段ヴォルフさん達が訓練をしている開けた場所になっています。
そこに真人さんと、ひとみさん、史さん、早苗さんが相対する。
「はぁ、ちゃんと物事をしっかりと見てないからああいう馬鹿をしようとするんですよ」
ボクをベンチで抱きかかえながら、パティさんが尻尾をゆらゆらと揺らす。うん、頭にとても重いけれども柔らかな二つの塊が乗せられているのだけど、その、どうなのでしょう?ええと、どうなんでしょう!
「「代わってくれるなら変わって欲しい!って真似ぇ!?」」
なんでかひとみさんと真人さんが意気統合しています。あれ、本当は仲がいいのでしょうか?
「あはは、違うと思うなぁ」
「はい、違います、ねっ!」
「ロベリアちゃん!危ないからクナイ投げないで!危ないから!」
「ふん!」
ぷー、と頬を膨らませていつの間にか現れたロベリアさんがいました。
この子は勇者ではなく、元々からこちら側にいた人間との事。想定はしていたけれども、向こうの国で聞いていたのとこちら側は事情も情勢も違っていた。魔王達の考え方や動きはほとんど人間と変わらなかったんです。ただ、種族が違うだけ。それだけ。細かい違いはあれど、魔物だって普通の動物と何ら変わりがなかったのです。やはり、情報が一方的にしか来ない状態では正しい認識が行えないことがあるのが情報社会ではないこちらの世界の辛い所ですね。
「ううん、また玲くんが難しいこと考えてますね」
「いいかげん玲君から離れなさいよう!この駄犬!」
「犬じゃないもん!狼だもん!」
がるる、とパティさんとひとみさんがにらみ合う。うん、今回闘うのは二人じゃないですからね!
「それでは審判は私が付けさせていただきましょう。お任せください、3Dで完璧に映像化させていただきますので」
審判はサテラさんなんですが、妙にやる気です。というか、異世界で3D録画ってどうなんでしょう!人の国ではまだ狼煙とか使ってるところもあるんですよ!どうしてこんな技術格差が……。
「そこはまぁ、新しいモノを受け付けたくないっていう人間の性って奴だよ。産業革命の時代とか紡績工場が何度焼き討ちにあったか……」
確かにひどいモノだったと聞いたことがありますね。いまのこの領ではそれなりに成功していますが。
「俺が頑張って仕事を振ってるからね!仕事とお金がないと暇を持て余して壊しに来るんだよ!ヤベーイ!」
「真人様、そろそろ。次のお仕事の時間も迫っておりますので」
「ヤベーイ…」
あ、真人さんの目が死んだ魚の様に……!というか、真人さんの負担がかなりヤバいんですよね……。でも、あそこまで加速度的にする必要ってあるんでしょうか……?
「うん、その話はあとでね。サクッと片付けちゃうから」
「サクッと、ね。ふんだ!わんわんって吠えずらかかせてやるんだから!」
「ひとみ、吠えずらってそういう事を言ってるんじゃないわ」
やれやれと史さんがあきれ顔。後ろでは早苗さんはいつも通り柔和にほほ笑んでいた。
「それでは、模擬戦――開始!」
「「メタモル・フォーシス!!」」
ひとみさんと史さんの体が光に包まれ、二人の洋服が可愛らしいフリフリとしたミニスカートの衣装へと変化し、髪の色も明るいピンク色と水色へと変化していく。
「まさか、変身魔法少女!」
「「魔法戦士なの/です!」」
うん、息もぴったりのようだ!
「あれ、何か服が史のとおそろいになってる?」
「どうやら、神様たちが変な気を使ったのかもしれませんね」
二人の変身後の衣装は色違いではあるけれども、同じ特徴の様相になっている。あれ、何かこうどこかで見たことがあるような?ええと、ぷり、ぷり……?
「玲君!それ以上、いけない!」
ダメらしい。ううん、なんだか思い出せそうな気がするんですが……。
「よくわかんないけど、なんだかパワーアップしてる気がする!いくよ、はぁ!」
ひとみさんは一蹴りで真人さんの懐へと潜り込み蹴りを放つ。
「たわぁ!?」
が、軽くいなされて逆に吹き飛んで行ってしまった。
「そこだ!」
今度は史さんが真人さんの左側から拳を振るう。
「うん、力に振り回されてるね。力み過ぎなんだよ?」
「えうぁ!?」
そのままくるんと一回転し、史さんは軽く地面に叩きつけられてしまった。
「くぅ、つ、強い!?」
「武器もチートも使わずに……。でも、まだ!」
史さんとひとみさんが魔力でできた剣を作り出し、真人さんに切りかかる。けれどもそれすらもその場を動くことなく真人さんはすべての攻撃を素手で払いのけていく。
「うん、たとえ魔力でできていようが触れれば払えるんだよ。まぁ、さわれなくても払うけど?はらうのは俺の得意分野だからね!」
「では、今度新しくできた甘味やのお会計をお願いしますね」
「その払うじゃないよ!」
ロベリアさんはちえという顔。真人さん今お金ないって嘆いているから、仕方ないですね。
「こ、こうなったら!史、行ける?」
「貴女、こそ!」
ひとみさんと史さんが並び立ち武器を構える。
「ま、まさか!」
「「魔力充填!必殺☆シャインブレイカー!!」」
二人の膨大な魔力がひと塊となり、魔力砲として真人さんへと襲い掛かる!その威力はメタルゴーレムをも一撃で蒸発させるクラス。
「うん、凄まじい威力だね。収束のタイムロスもほとんどないし。まあ当たればヤバいかなー」
「なっ!?」「えっ!」
二人の背後にいつの間にかいた真人さんが二人の膝をかくんと崩し、チョップを加える。
「ひとみさん、史さん、アウトです」
「え、まだ戦えるのに!」
「そ、そうです!」
二人はサテラさんに抗議の声を上げています。それはそうでしょう二人はまだけがも無く、気力も十分。戦えないことはない状態の筈です。
「お二人の残存魔力量が先ほどの五パーセント程度です。あと五秒ほどで変身が解除されます」
「で、でもそのために早苗さんが!」
早苗さんのチートはエフェクトエイド。薬や毒、魔法などで現れる効果を回復・持続させることができるというチート。つまり、魔法衣として変身していた姿を回復。持続させることができるわけなのです。
「確かにそうでしょう。ですが、先ほどの魔力砲はもう打てません。それに――」
「私もあうと、ですしね」
真人さんが早苗さんのおでこに軽くチョップをしている。うん、あれって頭撫でてますね。
「さ、早苗さん……」
「そもそも早苗さんに戦闘力がほとんどないんでした……」
ガックリとひとみさんと史さんがうなだれてしまう。
早苗さんは戦いを好まず……というか、魔物との戦いをした事がない勇者だ。
苗床なんかにされていたのは、人助けをしてお礼にと勧められたお酒を断り切れずに飲んでしまい、酔いつぶれた所を人買いに売られてしまったからと言うモノで、なんとも早苗さんらしい理由だった。本当に人が良すぎるんですよね……。
「うん、そういう訳でこれにて終わりなんだよ。って、待ってサテラさん。首根っこを掴んでひきずって行こうとしないで欲しいな!俺、もう少し休みた、あ、あああああ!!」
「申し訳ありません真人様。これからヴォルガ領の使者との面会がありますので」
「はたらきたくないでござるぅーぅーぅー……」
真人さんの哀しみに満ちた声が響き渡るなか、ひとみさんと史さんはただ呆然と立ち尽くしていた。
うん、息も切らさせることもできなかった相手があっけなく引きずられていったから仕方ないですよね!