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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:小さな勇者と壊れた勇者たち
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挿話:小さな勇者と壊れた勇者たち

 私の終わりは唐突だった。

 簡単なクエストだから、仲間のそんなとても甘い言葉に誘われてついて行ったが運のつき。亜人狩りなんてふざけたことをやりたくなくて仲間の頬をぶん殴ってやった。それが、私の人として、勇者としての最後の記憶。

 気が付けば四肢は奪われ、目を潰され、声も出せず、身動きすら取れず、何かわからない何かに繋がれて、胎に宿された熱い何かをただ、ただ、ただ、ただ、ただ、ただ、産みだすナニかに変えられていた。

 熱く、熱く、熱く、熱い記憶だけが焼き付くように続いて、意識を痛みとナニかで何度も、何度も、飛ばされて、私がガリガリとゴリゴリと削られてしまう。

 ああ嫌だ、私はまだ、消えたくなんかない。私はこんな風になるために、勇者になったわけじゃ――


「大丈夫。もう、大丈夫です――!」


 不意に、体の熱さも痛さも何もかもが消え去り、目に久方ぶりに光が差した。その光の中に彼は、少年はいた。

 私を助けてくれたのは小さい男の子。本当に勇気のある、一人の少年――不知火玲だった。








「その、ですね。色々と視線がものすごく痛いので、できれば、えと、離れて頂ければな、と」

「周りの視線なんて気にしなくて大丈夫だよ。ん、ほら、フルーツ牛乳だよ?」

「あ、ありがとうございます、ひとみさん」

「んふ、いいのいいの。玲君はお仕事頑張ってるんだからこのくらいはね♪」


 昼下がりの文官室。お仕事中の玲君のサラサラの髪をなでなでとしながら私はにっこりと幸せをかみしめる。ああ、可愛いなぁ……。


「きもっ」

「なによ(ふみ)。文句でもあるの?」


 振り向くと私と同じく玲君に助けられた史がいた。


「別に。ただ、仕事も手伝えないのに玲にべたべたするのはどうかなと思って?」


 ツンと、横を向いて史はカリカリと書類を書き進めている。だって仕方ないじゃない。私ってばまだこっちの世界の文字とか読めないし、書けないし?それならこうやって、玲君を可愛がる……じゃなかった、ねぎらうのがお仕事かなって?


「はぁ、全くもう。せめてちゃんと働きなさいよ。というか、こっちの世界に着てそれなり経ってるんだから少しくらい読めるようになってなさい!」

「ふふ、英語がオールいちだった私に隙は無いのであった……」

「威張る事じゃない!はぁ、この子と同い年なのが信じられないわ……」

「うっさい狐目!」

「私が狐ならアンタはタヌキよ!せめて茶釜にでもなって役に立ちなさいな!」

「言ったわね!」


 むむむと、史とにらみ合う。この子とは人の国で勇者をやってた頃からそりが合わなかった。そもそも、有名進学校の史とバカ中出身の私とじゃ話も合う訳がないのよ!


「はいはい、ケンカはやめましょうね?玲くんが困った顔をしていますよ?」


 同じく黙々と机に向かっていた早苗さんに注意されてしまった。


「もう、早苗さんに叱られたじゃない」

「どっちのせいよ、まったく」

「ほらほら」


 流石の早苗さんもあきれ顔だ。


 おっとり系お姉さんの早苗さんは大学生の十八歳だったらしい。彼女もまた、ううん、この部屋でお仕事をしている玲君を除いた私を含めた全員は、あの魔王バアルに捕らえられていた。ちなみに書類作業をしているふりをしながら絵を描いている菜奈さんもその一人だ。

 それを開放してくれたのが我らが玲君というわけで、私たちは刻まれてしまった魔術紋のマスターとして全員が玲君になっている。他にも助け出された子はいたらしいのだけど、私たちみたいにちゃんと意識が戻ってこなかったらしい。うん、本当にそうならなくてよかったなって。


「だから、誤解をしてるんです。僕はただ、皆さんを助けに行っただけで、実際に頑張っていたのはオウカ姫様の執事の真人さんなんですよ?」


 と、玲君はいつも言っているが私たちは誰も信じていない。

 だってあの人、色々と適当すぎてお仕事しているかすらわからないんだよ?あるときは食堂にいて、ある時は街で買い食いしてて、ある時は道路の建設現場にいる。

 気づけばどこかにいるから、まともにお仕事をしているかさえ怪しい。噂によると、チートなんて持ってなくて、勇者として召喚されてまだ一月も経ってないっていうペーペーだ。そらならきっと私でも倒せるよ!


「いやいや無理ですよ?あの人って一人で魔王とか倒せちゃう人ですからね?」


 玲君はメガネを抑えて首を振る。

 ううん、とてもじゃないけど信じられない。あんなにふざけていて適当な人が私たちより強いだなんてあるはずがない。だって、私たちを助けてくれたのは玲君で、玲君がサテラさんを開放したからあの魔王を撃退できたんだから!


「それなら俺と戦ってみるかい?」

「んひゃあ!?」


 いつの間にか窓の外に真人さんがいた!というかあれ?ここ三階だよ!?危なくないかな!


「すみません、真人さん、僕から色々と説明はしているんですが……」

「いいよいいよ、百聞は一見に如かずっていうし?どこかで体を動かさないとそろそろ精神的に死にそうだし!というか、俺今一週間は働きづめなんだけど!死ぬし!マジで死ぬし!労災さんどうしたの、生きしてないよ!」

「まだ制度を作ってる途中でして……」

「だったよね!うん、できるだけ早めに作ってね!マジで俺、こき使われ過ぎて死ぬから!」


 おいおいと真人さんは涙を流し、それを玲君がよしよしと頭を撫でていた。ああ、これ、何か尊い……。じゃなくて!


「いいよ!勝負よ勝負!勝ったら!私たちの事好きにしてもいいんだから!」

「結構です間に合ってます?」


 首をかしげて断られた!こ、この!ぜったいにぎゃふんと言わせてやるんだから!!

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