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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
挿話:不器用なウサギとぶっきらぼうな狼
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挿話:不器用なウサギとぶっきらぼうな狼

 トンテンカンと小気味よく復興の足音が響き渡る。

 町は失った者の大きさに比例するかのように明るさを取り戻し、本当のこの街の日常がようやっと戻ってきた。


「なんて何詩人のようなことをブツブツつぶやいてるの?不審者かな?通報しましょう。あ、しました?」

「なんでしてるんだよ!あれだよ!俺、この領の軍のトップにされたんだよ?なのに通報されるのか!?」

「ええ、しましたとも、変な狼さんが怪しい呪文を唱えていますって?」

「呪文って、そんな呪文があってたまるか!」


 やれやれと、ドワーフラビット族の少女ミウが首を振る。うん、やれやれと言いたいのはこっちだからな!ようやっと会議が終わって一息つきに街に出てきたってーのに、なんで絡んできてるんだよ!というか、出てくるとか言ってないのに何で出待ちしてるんだよ!


「それはその、まぁ、暇だったから?」

「今忙しいんだから働けよ!?」


 働いてますよ?とミウは小首をかしげている。


「なんだよ、お前も休憩時間だったのかよ。それならそうと言ってくれればいいのに」

「ううん、治療院のお仕事はまだ山盛にあったのだけど、林檎さんが来てくださったので今日のお仕事が一瞬でだいたい終わったし」


 勇者、秋風林檎。彼女がこの街にいてくれたのはとても大きい。何せ街の皆が虫共に喰われていた。()()()()()()()()()()傷が完治できるというのだからこれほどまでのチートは無いだろう。


「私の治癒術もそれなりだと思っていたけれど、あれ程までに規格外の力を見せつけられると頭を抱えちゃうわよ、もう」

「まぁアレは仕方ないだろ。あの力は死なねーと手に入らないもんなんだ。というかアレは呪いだよ呪い。勇者なんてなりたくてなるもんじゃないぞ?永遠の命、神の恩恵、どれもがこの世界の者ならうらやましくてたまらないものを持ってるんだが、同じようになりてーとは全く思えん。お前はなりたいか?」

「絶対に嫌ね。ううん、林檎さんはとてもやさしくていい人よ。私の方が年上なので頭を撫でるのはちょっと困るけど……」


 そうだろう。勇者とはそういうものだ。憧れはすれど、同じ立場になんてとてもなりたくは……ん?あれ?まて、待とう。いま、ミウは何と言った?私の方が年上……?


「な、なぁ、ミウ。前々から気になってはいたんだが、その、お前の一族って体が小さい種族だよな?」

「はぁ、それがどうかしたの?」

「つまり、年齢がわかりづらい」

「……」

「じゃ、じゃあ、さ。お前って、いったい、いくつ……」

「おっと、休憩の時間は終わりのようね!それでは私は失礼するわ!」


 くるりと長い耳を翻し、健脚を生かして素早くミウは走り去っていってしまった。に、逃げやがった!


「ふふ、本当に明るい子に戻ってくれたねぇ」


 俺らの様子を見てた八百屋のおばちゃんがカラカラと笑っている。魚屋のおっちゃんもニヤニヤしてる。各地から集められた大工の兄ちゃんたちも同じく。うん、見世物じゃあないからな!?


「そうは言ってもなぁ、我らがアイドルのミウちゃんだからな!見ないわけにはいかんだろう!」

「そうそう、あのもふもふ加減とかわいらしさ、そして見た目に反する小悪魔な感じ!たまらん!」

「は、白衣のうさ耳……はぁはぁ……」


 との男どもの弁である。うん、牢屋にぶち込んでおいてやろうかな?


「はいはい、嫉妬はやめなさい。あの子はみんなの事を必死になって治療してくれたんだ、男どもが惚れない方がおかしいんだよ。色々と話し合った結果がアイドルって形だからね。許してやって」


 おばちゃんの弁も確かにその通りだ。あの日、あの時、ミウは自分の治癒術のあらん限りを使って待ちのみんなを助けていっていた。あの子がいなければ一体何人犠牲者が増えていただろう?


「そういう訳だ!兄ちゃん、ミウたんを不幸にしたらぶっ飛ばすからな?」

「そう、ぶっとばす、というかむしろ替われ、その立場変わってください!」

「ヴォルフの兄さんの足音、聞き分けて、わざわざ向かえに出てきてる、みたわば!?」


 大工(ドワーフ)の兄ちゃんの頭になんでか人参が突き刺さっている。ミウは耳がいいからね!この会話も聞こえていたのだろう。それにしても治療院からここまでって命中率いいな!がくぶる。


「ふふふ、愛されてるねぇ」

「おばちゃん、これで愛されてるんなら困るぞ。ツンデレって奴でももっとデレ出してくれねーと困る」

「今はアレが精いっぱいなんだろうさ。あの子は昔から意固地なところがあるからね。だから、いつかちゃーんと(めと)ってやるんだよ?」

「い、いや、俺、あいつと恋人にすらなってねーからな!?」


 それ以前にあいつが俺の事好きかもわからんのに結婚も何もないと思う。うん、出会いの時から考えても俺嫌われてないか!?


「鈍感」

「鈍感」

ひひぇひゃいいにょに(しねばいいのに)


 酷い言われようだった。というか大工のあんちゃん頑丈だな!流石本場のドワーフ!


「まぁ、どちらにせよアイツが俺にどう思ってるかちゃんと言ってくれねーと俺は分からん」

「で、あんたはどうなのさ?」

「お、俺ぇ?……まぁ、うん。嫌いではないんだが、俺って狼だぞ?あいつは兎だし、こう、色々とないか?」


 思わず顔が赤くなる。実のところ種族が違う、というの言い訳にあまりならない。他種族で結婚した場合、人族でない限りは生まれる子供は両親どちらかの種族に生まれてくる。不思議なモノだがそういうものらしい。けれども俺とミウはいわば食物連鎖な関係。こう、なんかねぇ?


「古いねぇ」

「古い古い」

「嫌いじゃないって好きってことじゃねーか。あーやだやだ。ミウちゃんとりょうおもぺ!?」


 おお、今度は二本突き刺さってる!うん、流石ドワーフ!何ともなさそうだ?


「そういう訳で休憩終わりで城に戻るよ。お仕事が山盛りのモリモリ沢山だからな」

「ふふ、またミウちゃんに顔見せに出て来てやってくれよ?あの子いっつも耳はお城の方向いてるんだから――おおっと」


 遠方から投げてこられたニンジンをおばちゃんが二つ指で受け止めた。流石、八百屋(オーガ)のおばちゃん!やべぇぜ!


 けれどもしかし、あいつが俺の事を、ね。

 ……まぁ、また顔見に出て来てやるかな。あいつの顔みるとなんだか落ち着くし?

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