40話:甘えたいお年頃っていくつになっても甘えたい人はいつ頃になるのかわからないよね?
物語というものは結論、強大な敵を倒してしまえばそれでおわり。
あとは簡単なエピローグがあって結末となる。
けれども現実は事後処理でじごじごさんだよ!遺跡からお城に戻って事後処理の書類さんと格闘中!頼みの綱の玲君と魔法使い組は林檎ちゃんと一緒にお城の地下の魔石工場にされてた勇者の治療に行っている。今更だけど林檎ちゃんは治療系チートの持ち主なんだよ!四肢は生えないけど、大きなけがや病気を一日一度指定範囲で一気に治せる。マジでチートなんだけど、効果的にはエリクサーが上。大規模治療魔法なら範囲はこちらが上と割と中途半端だなって夏凛ちゃんに言われてかなり落ち込んでいたからあんまり周りに言われたくないらしい。乙女心だな!
「ぼうっとせず手を動かしてください!サテラさんを見てください!高速で動いていますよ!高速で!」
「うん、こちとら手作業で頑張ってるのに向こうはデータで取り込んでPC処理してるからね!どう考えても分身しても増殖しても今の俺は!勝てる気がしねぇ!だから!マジで無理!」
うん、文官さんとして新しくサテラさんが加わってくれて大助かり!なんだけど、早すぎて俺が追い付けない!マジでやばいよ!俺が一時間かかるお仕事がものの五分で仕上がってるんだよ!お仕事できすぎってレベルじゃないよ!
「いえ、流石に私と比べるのはいささか間違っていると思われますよ?どう考えても真人様はおかしいですから。分身しながら同時並列的に作業をこなされていっていますし」
「仕方ありません、真人様ですし。おかしい人ですから」
うん、ロベリアちゃん。そこはね、おかしい人じゃなくてすごい人だって褒めて欲しいな?その言い方だと、ほら、何というかただの変なおじさんてきな人に聞こえるし?
「え、だってそうじゃないですか?」
きょとんとロベリアちゃんがかわいらしく首をかしげる。ふふ、あざと可愛いよ!うん、ジトもありがとうございます!
「それで、なんでうちの妹があの勇者の坊主にべったりだったんだ?」
椅子に座って頭を抱えてるワンコ……もとい、今回の功労者である地獄の番犬けろけろさんである!
「せめてきちんとケルベロスと言ってくれ!じゃなくて、俺の名前はヴォルフだっつーの!はぁ、街を救えて、みなを救えて、これで万事解決と思ったらこれだよ。ババ様は死んだって聞いたし、リリア村はどうなるんだ……」
「うん、鉱山をきちんと整備して鉱山町と合体してそれなりにでかい街になる予定かな?人が集まれば商人が集まるし、歓楽街もできる。そうなれば警備するために人手が沢山いるんだよ!というかこの領自体が人手が圧倒的に足りなさすぎるんだよ!人手になってた虫共はむしころりん?とコロコロしちゃったからね!そういうわけで、けろさんやいい人材いない?」
「もはや原型がねぇ……。いい人材も何も俺の部下だった奴らをまた再雇用してくれたらいいんだよ。今回街を護れたのもあいつらがまだ街にいてくれたおかげだしな」
そう、この街には兵をやめさせられながらもこの街の用心棒として彼らは街を護っていた。だが、その守りは虫たちを宿らされた彼らには微々たることしかできず、苦しい思いをしていた。だから、城をうろうろしてた夜に町にもでて虫下しを頑張って仕込んでたんだよ!けれども、あの魔王が町の人を虫共に喰わせるのはちょっとだけ予想外で、犠牲者がそれなりに出てしまったのはかなり悔やまれる。うん、くやしい。
「まぁ、あんたが落ち込むことはねーよ。最善ではなくとも最良ではあったんだしな。あんたはするべきことをした。それだけだ」
そう言ってくれると少しなりとも救われる。
町の人をすべて救えるなんて英雄的なことは俺にはできない。できることなんて、自分の手の広げられる範囲だけだからね。そう、俺は悪くない!
「そう言いながら、真っ先に町の人たちに頭を下げて回っていたのはどこの誰ですか」
ロベリアちゃんが俺の頭をぽんぽんとなでて来る。あぁ、癒されるんじゃぁ~。
「こうしてみるとあの魔王を討ち破った男とは思えないな、本当に」
「こう見えてやるときはやる男だからね、俺は!」
「調子の良いことを言わないでさっさと手を動かしてください」
はい、すみません!
カリカリガリガリと書類を書いて進めていく。
魔王バアルとの戦いの跡地、虫共の死骸でわらわらとなっているあの湖にはその死骸を養分にした木がいくつも生えている。うん、がんばって生やしたんだよ!森羅万象でもくもくのもこもこで小さい小島になってていつか観光地にできそうだなってこっそりもくろんでいたり?あそこにも町ができそうだ!
「魔王を倒したと言う事はあちらの領を得る権利を得たと言いう事ですが、いかがなされるつもりですか?」
「いらないよ!マジでいらない。あっても何の得にもならないんだよ!」
そもそもな話、あちらの領には髭のおっさんの子供がいる。いると言う事は後継者さんって事だからね。お家再興!とか言って襲い掛かってこられたらたまったもんじゃないんだよ。だから、恩赦を与えて恩を売る。うん、頼朝的に襲い掛かってきたら怖いな!俺平家じゃないからね!源氏でも無いけど!
「何を言ってるかこれっぽっちもわかりませんが、恨み買いたくないから放置?」
「つまりはそういう事。何か言ってきたら、最初に手を出したのはどっちかな?ん?とか言って適当に流すつもりなんだよ。万事解決、後は丸投げ!どこに投げたらいいかな?大魔王あたり?」
「どうでしょう?大魔王様が出られるとお怒りになられてお家取り潰しからの一族処刑になりかねませんが……」
一族処刑とか、鬼かな?悪魔かな?あ、大魔王だった!ネタじゃねぇ!マジだ!
「う、うん、想定以上に想像以上だったから、放置安定と言う事で。グリムにはうまくとりなしておくかなー。けじめはつけたって言っておこう。問題はこの領の人たちかなー」
「そこは大丈夫だろ。自由をくれて、バアルも打ち破ったアンタに感謝こそすれ、文句を言うやつは一人もいねーだろ。というか、いたら俺が絞める」
うん、武官長さん候補さんがそういう事言わないでね?
「は、ん?武官長?」
「あれ?言ってなかったっけ?人がいないから、この領を護る武官達の団長になって欲しいって?そういうわけでよろしくね!答えは聞いて無いけど!」
あ、また頭を抱えたんだよ!考える人かな?哲学的だな!
「ともかく、玲君は文官担当!ケロさんは武官担当!今現在治療中の勇者の子たちが加わってくれたらいいんだけどなー!どうにかうちに入ってくれたらいいんだけどなー!」
「そこのところはどうなんです、サテラさん?」
「理知的な勇者の方なら問題ないかと、そうでない方がいた場合は――」
ドンと、地下から大きな音が響いた。あ、アイヤー……。
「こうなります。どうされますか、真人様?」
「仕方ないから俺が行ってくる。どーにかして宥めて諫めてくるよ。はぁ、気が重いなー」
相手は女の子。女性でも女の子だ!あんな目にあったのだからお怒りはごもっともだろう。だからその怒りをどーにか抑えてもらいに行くとする。収まらなかったらバアルの領に招待しておいてあげよう。そのあとは野となれ山となれなんだよ!
おそくなりましt