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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第3章:命を懸けなければ

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第92話:再び

 

 ゼノが怒りに任せてそれを放ったのは、決して図星を突かれたからではない。

 ただ単純に、ロードが知った風な口を利いたことが腹立たしかったのだ。

 だが、そうは思いつつも、彼の頭の中では同じ疑問が流れ続けていた。


 "自分が、何故人間を憎むのか"。


 ゼノはそれを考えたことなど無かった。

 何故なら、人間は魔族の怨敵であり、必ず駆逐しなければならない対象であると、そう()()()()きたからに他ならない。

 故にまずは、目の前にいる人間を殺し、レヴィを使い人間を根絶やしにする。

 それが何よりも優先されることであり、魔族全ての悲願であることに変わりはないと、そう信じていた。


「いひぃ! 凄い弾幕っ……!」


 アイギスの障壁は、ゼノが撃ち出す強力な魔力の砲弾を全て防ぎ切っていた。

 まるで雨のように降り注ぐそれは、速いだけではなく、一発一発が非常に重い。

 ロードはゼノに聞こえないよう、囁くようにアイギスへ声を掛けた。


「アイギス……分かってるな?」


「……はいっ」


「大丈夫……必ず上手くやってくれる」


 今はまだ反撃出来ず、状況が整うまではこうして耐えることが正着であると信じ、ロードは静かにその時が来るのを待っていた。

 既に彼の指示通り、もう1人の武具は動いており、後はそれが通用するかどうかの問題。

 魔王ゼノの力は底知れず、ロードと同じように左腕は使えないが、未だ力の差は歴然であった。

 それを埋める為には、今使える力を全て使い、なんとしても手帳を取り戻さねばならなかった。


 一方のゼノは、ロードの発言に加え、自身の攻撃が防がれている現状に苛立ちを募らせていた。

 自身が今繰り出している攻撃は、そう易々と防げるものではないという自負が彼にはあった。

 しかし、ロードが召喚したであろう目の前の女は、それを難なく防いでおり、それは彼にとって屈辱以外の何物でもなかった。

 その抑え切れぬ怒りが、黒い魔力となって身体から溢れ出し、その背中からは黒い手のようなものが何本も生え、身体全体も黒い魔力に覆われていく。

 そうして身体中を黒いオーラで包んだゼノは、その状況に痺れを切らし、まるで飢えた獣の如く、ロード達に向けて飛びかかった。


「殺してやるッ……!」


 ゼノの背中から生えた、無数の黒い腕。

 それら全ての腕は、黒いつるぎのような形状をした魔力の塊を握り締め、アイギスの障壁を激しく斬りつける。

 その度に凄まじい衝撃と音が響き渡り、それは城全体をも揺らし始めていた。


「うぎっ……ぐぬぬぬぬッ!」


「ぐッ……がんばれアイギスッ!」


 ゼノが繰り出す凄まじい威力の斬撃は、障壁の耐久力をどんどんと削っていく。

 ロードとアイギスの心に焦りが出始めた頃、業を煮やしたゼノは一旦攻撃をやめ、再び空中へと舞い戻った。


「散々ほざいておいて……やはり貴様は卑怯で陰湿な人間そのものだなッ! ならば……引きずり出してやるわ……!」


 ゼノはロード達に右手を、レヴィには背中から生えた黒い腕を向け、その両方に魔力が集中していく。

 先程放った魔術とはまるで比べ物にならない大きさのそれが、ロード達とレヴィ双方に向けられていた。


「ゼノ……!」


「フハハハハ! さぁ……貴様はどちらを守るのかな!?」


「ロード様逃げて!」


 瞬間、それが同時に放たれる。

 アイギスは既にレヴィに向けて走り出しており、それが着弾する前に障壁を張り、間一髪それを防いでいた。

 だが、当然ロードがそう動くことを、ゼノは初めから分かっていた。


「爆ぜて潰れろッ……!」


 あまりにも巨大な、その黒い魔力の塊。

 今のロードでは躱すことも難しく、当たれば間違いなく死に至る。

 だが、ゼノは気づいていなかった。

 ロードがその為にゼノをあえて挑発し、彼の存在をその頭から消し去っていたことを。


 そうして着弾した黒い球体は凄まじい音を上げながら床を抉り、全てを飲み込み下へ下へと突き抜けていく。

 城は激しく揺れ、激しい戦闘の余波により、城はもはやいつ崩壊してもおかしくない程の状態にあった。

 ゼノはそんなことを気にする様子もなく、むしろ嬉しそうに口の端を吊り上げる。


「フハハ……今度こそ……今度こそ消してやったわッ! さぁ、レベッ───」


 しかし、振り返った先には、いまだレヴィを守るように障壁を張る少女がいた。

 その姿に、ゼノの思考が止まる。

 それはつまり、ロードが生きている証───


「逃げる暇などッ……!」」


 直後、ゼノの背後から猛烈な風が吹いた。

 反射的にゼノが振り向いた瞬間、嵐の神の放浪槍(グングニル)が、彼の腹部に突き刺さる。


「ぐっ……うおおおおおおおおおおおおおおッ!?」


 障壁を張る間も与えず、突き刺さったグングニルは内側から暴風を生み出す。

 しかし、それでもゼノはたえていた。


「ぬぅぅぅぅぅらぁぁぁぁぁぁッ!」


 ゼノはグングニルが生み出す暴風すら、己の魔力によって抑え込んでいた。

 そんな必死の形相を浮かべる彼の前に、白銀の少女がスッと現れ───


「き、貴様はッ……!?」


 グングニルは無言のまま、風をさらに強めると、ゼノの身体を引き裂かんと力を込める。


「ぬぅうぅううぅあああぁぁあああッ!!」


「……ッ!」


 だが、これまでの戦いで消費していた彼女の魔力では、ゼノの力を超えることは出来なかった。


「ロード……ごめん……」


「十分だグングニル!」


「なッ!?」


 ロードがゼノを挑発している間、ソロモンはグングニルの元へと転移し、彼女を連れて再び時を待った。

 そして、ロードの予想通りにゼノが動いた瞬間、黒い魔力が当たる寸前で彼を救っていたのである。

 既にソロモンは指輪に戻し、彼はタラリアを使いゼノに迫る。

 その右手に握るは、鋼鉄剣イアリス───


「うぉぉぉおッ!」


「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁあッ!」


 手帳を握り締める黒い魔力の腕。

 それを目掛けて振り抜いたイアリスの一撃を、ゼノは魔力を纏った右腕で受け止める。

 刃は食い込んだものの、片腕しかないロードではゼノの右腕を落とせない。


「ク、クソッ……!」


 その時、グングニルの魔力が完全に切れ、白銀の少女は槍だけを残して世界から消えていく。

 ゼノを抑えていた枷が無くなり、無防備なロードの身体に黒い魔力の手が突き刺さった。


「がっ……!」


「いい加減に……余の視界から消え失せろッ!」


 突き刺さった黒い手から魔力が放出され、その衝撃でロードは空中から叩き落とされる。

 凄まじい勢いで叩きつけられ、彼は何度も跳ねながら地面を転がっていった。


「マスター!!」


「ロード様ぁッ!」


 彼女達の叫び声も虚しく、ロードはうつ伏せに倒れたまま動かない。

 ソロモンによって多少回復していたものの、彼の身体はとうに限界を超えていた。


「クソッ……抜けん……!」


 グングニルは、ゼノに突き刺さったまま動かなかった。

 それが、グングニルに残された最後の抵抗。

 ゼノは抜くのを諦め、ロードにとどめを刺す為に地上へと降り立った。

 ところどころ崩壊した床をゆっくりと歩き、ゼノはロードの前に立つ。

 それに反応したロードがなんとか立ち上がろうとするが、その顔面をゼノが蹴り上げた。


「あがっ……!」


 ロードはそのまま浮き上がり、今度は背中から叩きつけられる。


「手こずらせおって……だが……もう終わりのようだなァッ!」


 ゼノの黒い魔力が至近距離からロードに放たれ、彼の身体が再び吹き飛ばされる。


「ゼノッ……ロード様を殺さないで……殺すなら私をッ……!」


「聞こえぬなぁ……そもそもその小娘がおるせいで貴様に触れることも出来んではないか。そこの小娘に頼んでみたらどうだ? 大事なロード様を守ってくれと……!」


「ア、アイギス様……」


「うぅ……マ、マスターと……約束したからッ! 何があってもレヴィさんを守れって……!」


「だ、そうだが……そのマスターはこのザマだッ!」


「がっ……!」


 ゼノの魔力を何発も受け、ロードの身体が何度も跳ね上がる。

 レヴィの悲痛な叫びがその度にこだまするが、ゼノはいたぶるように何度も何度もロードを吹き飛ばし続けた。


「お願い……もうやめてッ……!」


「フハハハハッ! そうか、貴様がそういうならば仕方ない。今すぐ殺してやろう」


「あっ嫌ッ! やめてッ!」


「やめてやるとも……いたぶるのはもう終わりだ。さぁ、今すぐ殺───」


 振り返った先、ロードは再び立ち上がっていた。


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