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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第3章:命を懸けなければ
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第69話:あの日

 

「遅くなり申し訳ありません陛下。箝口令(かんこうれい)は滞りなく。ただ、アスナ君がどうしても直接お会いしたいと……ここへ」


「そうか……エディ、椅子を」


 アスナは深々と頭を下げた後、エディさんが用意した椅子に座る。

 風呂に入れて貰えたのだろう、顔や髪の汚れはとれていたし服も新しくなっていた。

 ただ、やはりあの頃に比べるとすごく痩せている。

 たった1ヶ月半しか経っていないにも拘らず、俺の知るアスナよりずっと小さくなったように思えた。

 彼女は少し呼吸を整えた後、深々と頭を下げる。


「陛下、エディさん、そして……ロ、ロードっ……ありがとう……ございましたっ……!」


 彼女はそう言って、声や肩を震わせながら頭を下げる。

 ケルト王は腰を上げ、アスナの元に近寄るとその場で片膝をついた。


「アスナよ……正直な話、君にどう詫びていいのか分からぬのだ。俺にはこの愚かな頭を下げることしか……すまなかった」


「お、おやめ下さい陛下! わ、私が……私が愚かだったのです……! だから、今こうして生きているだけで……それすらも私には……!」


「それは俺も同じこと。我ら2人とも、今日死すべき運命さだめにあった……そして、2人ともロードに命を救われたという訳だ」


「は、はい……私がロードにしたことは許されることではありませんでした。私が襲いかかったご家族にしても同じことです。たとえそれが何らかの影響を受けていたのだとしても、私は自分自身が許せないのです。なのにロードは……うっうっ……わ、私を……」


 自分が逆の立場ならどうだっただろう。

 果たして死を受け入れられただろうか。

 アスナのように謝れただろうか。

 俺が……俺が掛けるべき言葉は……。

 俺もケルト王と同じように、アスナの下へと歩み寄った。


「アスナ……俺が今生きているのは……アスナのおかげでもあるんだ。もちろん……その……辛かったけど……それでも君がいたから……だから、もういいんだ」


「ロ、ロード……うっうっうぅぅぅっ! ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……!」


 彼女は両手を顔に当ててただただ泣いていた。

 かつて俺がクラウンさんの前でそうだったように。

 だから俺は、彼女の肩に手を……置いた。


 アスナが少し落ち着いた後、俺達は本題に入る。

 アスナが何故無能と呼ばれるようになったのか、それを知っておかなければならない。


「アスナ、何があったか……話してくれるか?」


「うん……全部……話すよ」


 そうして彼女は語り始めた。

 彼女が無能と呼ばれるようになった……その日のことを。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 私達が山から見下ろすその先に、巨大な壁に囲まれたケルトの町が見える。

 大きくて立派な町は、ほとんどが石レンガで造られており、灰色の街並みが夕日に照らされていた。


『わぁ……ここがケルトの王都……』


『そうだよアスナ。この高い壁が王都を守っている訳さ。中に入るにも外に出るのにも、この許可証が必要なんだ』


 そう言って、勇者様は私に許可証を見せてくれた。


『久々にゆっくり寝れそうだなロイ。で、アスナの歓迎会は今夜か?』


『そうだよミリア。リリスもジャンもそのつもりでいてくれ』


『分かったわ。アスナ、今日は楽しみましょうね』


 リリスさんが私に抱きついて頭を撫でてくれた。

 嬉しいな……もうこんなに優しくしてくれて……。


『酒を大量に買っとかねぇとなぁ。ミリアは女のくせに大酒飲みだからよ』


『ジャン、女が酒を飲んだらいかんのか? ん?』


『おー怖。アスナはこうならないで欲しいねぇ』


 ジャンさんの言葉にみんな一斉に笑い出す。

 パーティに参加してよかった……私なんかが役に立てるか分からないけど、精一杯頑張ろう。


『さ、町に行くよみんな』


 勇者様の後に続いて山を下り、私達はケルトの王都へと入る。

 すぐに宿を見つけ、私とリリスさん以外は買い出しに出かけて行った。


『それにしてもジャンさんの魔法って凄いですね。全然疲れないし、馬車より速いなんて』


『そうでしょー。普段おちゃらけてるけど、あいつがいると楽なのよ。ミリアの魔法も便利だしね』


『リリスさんの魔法も凄いですよね! なんでも見つけちゃうんだもん』


『まぁねん。じゃなきゃ勇者のパーティになんかいられないからさ。あ、一応言っとくけど、便宜上探知魔法って言ってるけど、実は違うんだ。今度教える機会があれば……教えてあげるね』


『はい! そ、それで……あの、私なんかが本当に役に立つんでしょうか? なんだか不安で……』


『あんたまだそんなこと言ってんの? 大丈夫よ。ロイにはね、あんたの魔法が必要なのよ。私が見つけ出したんだから胸を張りなさい!』


 リリスさんは私の背中をばんっと叩く。

 ちょっと痛かったけど……嬉しかった。


『はい! 頑張ります!』


 暫く2人で話していると、勇者様達が買い出しから戻り、すぐに私の歓迎会が始まった。

 初めて飲むお酒はなんだか変な味がしたけど、みんなが楽しそうだったからなんでもいいや。

 私は意外にお酒に強いらしく、ちょっとぼーっとするくらいで眠くなったりはしなかった。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、気付けば深夜2時を回っていた。


『お、もうこんな時間か。予定とは違うけど始めようか』


『そうだな。まぁ、問題ないだろう』


『あら、始めんの? まぁ、しょうがないかぁ』


『じゃ、ちゃっちゃとやっちゃいましょ』


 そう言って、みんなが立ち上がり私の周りを囲む。

 なんだろう……?


『結構入れたんだけどな……体質かねぇ』


『かもね。じゃ、ミリアよろしく』


『はいよ……勇者様』


『あの……何を……きゃっ!? んぐっ!?』


 いきなり私の背後にいたミリアさんに羽交い締めにされ、リリスさんが私の口を布で塞いだ。

 突然のことに訳も分からず、私はそのままろくに抵抗も出来ずに縛り上げられる。

 な、なんで……!?

 何をするの!?


『おっけー。準備完了ー』


『じゃ、アスナ。君の魔法を貰うね』


 え……?


『んぐぅぅぅぅ!?』


 勇者様が私の顔を掴んだ瞬間、私の中から何かが抜けていく様な……そんな気がした。

 怖くなった私は咄嗟に魔法を使おうと……。


『無駄だよアスナ。もう遅い』


 なんでっ……? 魔法が出ない……!

 そのまま勇者様は私から何かを抜き取り続ける。

 私はただ……唸り声を上げることしか出来なかった。


 何分くらい経っただろうか。

 勇者様が私から手を離し、ようやく私の拘束が解かれた。

 意識はあるのだが……身体が動かない。


『あ……が……な…………に……』


『お、凄いねアスナは。まだ意識があるんだ。覚えていられるかは分からないけど、お礼を言っておくね。丁度君の様な魔法が欲しかったんだ。この間使い切ってしまってね……リリスに探して貰って、君を見つけたって訳さ』


 なに……それ……。


『よかったねアスナ。これで、あなたは勇者の一部になった』


 意味が……。


『おめでとう。そして……ありがとう』


 やだ……怖い……。


『さて、寝よ……か』


 なん……な……の……これ……。


『……ね。…………また……』


 駄目だ……眠い……。


『………………じゃ…………すみ……』


 そうして、私の意識は途切れた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「目が覚めた時、私は広場の真ん中にいた。周りには人だかりが出来ていて、みんなが私を見ていた……ゴミを見るような目で。あちこちから無能だと言われ、私は魔法を見せようとした。けど、私の魔法は……もう私のものじゃなくなっていた……後は……もう……」


「アスナ、もういい……」


 震えるアスナの手を握る。

 その後は……俺が誰よりも知っているから。


「アスナ、話してくれてありがとう。少し休んだ方がいい……エディさんすいませんが……」


「ああ、分かった。アスナ君、こちらへ……」


 アスナはエディさんに連れられて部屋を後にする。

 足取りがおぼつかず、エディさんにもたれかかるように去っていった姿を見て、俺はなんだか悲しくなった。


『ロイ……あの野郎……』


 表情は見えなくてもバーンさんの憤りが伝わってくる。

 俺も似たような気分だ。

 勇者達は……ロイは……他人をなんとも思っていない。


「以前……エディと共にロイに会ったことがある。だが、エディは特に何も言っていなかったが……」


「エディ様のスキルは〝悪意の眼〟……〝視た〟ものの負のオーラを認識出来る力です。憎悪や罪悪感といった、人間の感情の中でもマイナスなものを捉える訳ですが……ロイにはそういったものが元々ないのかもしれませんね……」


『アリスもロイを〝視た〟ことがある。アリスはロイをみて、「怖い」と言った。あいつの中には何もない闇が広がっていたってな』


 何もない闇か……。

 バーンさんが言っていた、〝ロイはお前らの思っているような奴じゃない〟っていうのはそういう意味だった訳だ……。


「それにしても解せん……何故ロイは、アスナを放置したのだ?」


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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