第70話:友達
そう、俺がアスナを部屋から遠ざけたのはそれを話したかったからだ。
本人の前で話したくない内容になることは分かっていたから。
『自分の行いがバレない様にするなら……万全を期して殺すだろうな。つまり、殺せない理由があった……?』
「恐らくは……でも、そうなると矛盾が出ます」
「ロード様、どういうことですか?」
「殺せない……つまり死んで欲しくないなら、わざわざ広場の真ん中に放置し、無能だと町の人に言う意味が分からない。そんなことをすれば、より早く絶望して死を選ぶか、今回の様に処刑される可能性だってある……」
『確かにな……そもそも、何故町の中で行う必要があるのかも分からないな。死んだって構わないなら、別に人気のないところでやったっていいだろう? ケルトでなければならない理由も分からないし』
そう、勇者の行動は色々とおかしい。
きっと何か理由があるのだろうが……今の段階で分かっていることは、ロイは他人の魔法を奪えるということだけだ。
「ふむ……他人の魔法を奪えるのならば、仲間を連れ歩く理由も分からんな。別に自分1人でもこと足りるではないか。まぁ、仲間がいた方が都合がいいこともあるのだろうが……」
「〝使い切ってしまった〟という発言も気になりますね。奪った力はいずれ使えなくなるということでしょうか?」
「なんらかの制限があるのかもな……陛下、こうなると……アスナは死んだことにした方がいいかもしれません」
「どういうことだ?」
「アスナが生き続け、何よりその事実を誰かが信じることは想定外の筈……通常、無能と呼ばれる人が何を言っても誰も信じないでしょうからね。だからもし、ロイにアスナが生きていることを知られたら……」
生きた証拠であるアスナの命を奪いに来る可能性があるってことだ。
それは、それだけは絶対にさせない。
「……分かった。情報誌ギルドは俺がなんとかしよう。人の噂までは止められぬがな……」
『アスナはロイに付いた唯一の傷……失うわけにはいかねぇな。ただ……今はまだ動けねぇ。あいつに他の隙がないこともそうだが……今の世界がそれを許さないだろう』
この不安定な状態にある世界において、ロイが占める割合は非常に大きい。
勇者は世界の希望……それがいなくなることは、活発に動いている竜族や魔族に隙を与えることになる。
また、ロイの後ろにいる存在……オリンポスが何よりの障害だった。
今すぐにでも糾弾したいが、追い詰めるだけの材料もないし、今の世界の状況がそれを許さない。
今は……堪えるしかない。
「ロイはこうやって力を得ていた……つまり、アスナの他にもこうなってしまった人がいるってことです。その人達は多分もう……」
『……だろうな。よし、ロイのマークは俺がしよう。このことは信頼できる仲間に伝えておくわ。俺の同期どもなら力になってくれる筈だ』
「バーンさんの同期って……〝黄金世代〟と言われたあの……」
確か、SSSランクが3人、SSランクが3人も同時に出たのは、後にも先にもバーンさん達だけだった筈だ。
7年くらい前だったかな……当時かなり騒がれていたからよく覚えている。
「おお、黄金世代か……懐かしいな。全員息災か?」
『元気過ぎて腹立ってくるよ。10代の頃からなんも変わっちゃいねぇ。ま、とにかくロード。ロイのこともそうだが、もっと大きな存在に狙われているかもしれないってことを忘れるな。何かあれば連絡をくれ。必ず力を貸すからよ』
「俺もだ。ロードに貰ったこの命……必ず役立ててみせる。なんでも言ってくれロード」
「バーンさん……陛下……ありがとうございます」
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話はそこで一旦終わり、その場はお開きとなった。
その後、ケルト王に再度礼がしたいと言われ、城に泊まっていく様に勧められる。
ここで断ることは無粋だと感じた俺達はそれに従い、その後貴賓室へと通されたのだが……。
「落ち着かない……部屋だな……」
やはり豪華な部屋だった。
まぁ、各国の要人が泊まる部屋なのだから当たり前なんだが……。
天蓋付きのダブルベッドか……ソファーで寝よう。
「む、ロード様こちらに! 金色の浴槽が!」
「マジか……す、すごいな……」
「では早速入りましょう」
「待て……何故俺の服に手をかけている……」
「む、な、何か不都合でも?」
明らかにレヴィはなにか焦っていた。
まるで井戸から外に出てすぐの頃に戻ったみたいだ。
大体は察しが付く……。
「レヴィ俺は……」
その時、部屋の扉がノックされた。
レヴィがそれに応え、扉を開ける。
「あっ……」
「こ、こんにちは……」
てっきり給仕の人だろうと思っていたのだが、現れたのはアスナだった。
どうしてここに……。
「……どうぞ、アスナ様」
「あ、いや……様なんてやめて下さい……私は……」
「あ、気になさらないで下さい。私は誰に対してもこうなので……」
「え、あ……そうですか……お邪魔します……」
「ま、まぁ、座ろうか……アスナ、こっちに」
「う、うん……」
そうして3人で丸テーブルを囲い椅子に座る。
アスナは俺の顔を見ようとせず、ずっと下を向いていた。
何故かレヴィも俺と目を合わせ様とせず、伏し目がちで静かに座っている。
……空気が重い。
ど、どうしたらいいんだ。
何か言った方がいいのかな……。
「ロ、ロード……」
「はいっ? な、なんでしょう……」
そんなことを考えていた時に突然声を掛けられ、思わず敬語になってしまった。
「あっ……ま、まだちゃんとロードに対して謝れてなかったから……許して欲しいなんて言えないけど……ごめんなさい……! 私に出来ることはなんでも……あなたが死ねと言えば死ぬ覚悟も……ごめんなさい」
そう言って、アスナは頭を下げる。
気にするなと言っても無駄だろう……もし仮に、俺がアスナの立場ならどう言って欲しいだろうか。
少し考えた後、俺はアスナに言った。
「アスナ……ありがとう」
「…………え?」
「アスナのおかげで今俺はここにいる。だから、さっきも言ったけど……もういいんだよ」
「ロー……ド……わたっ……私は!」
「分かってる。もう……いいんだ」
それを聞いたアスナの目から涙が落ちる。
今日だけで何度も涙を流したであろうその瞳から、彼女の感情が再び溢れ出した。
「うっ……ううっ……あぐっ……ごめっ……なさい……ごめんなさいっ……!」
「アスナ……イストに帰ろう? イストならもう大丈夫だから……な?」
「うっうっ……うん……うんっ……!」
涙は心が壊れそうになった時に流れるものだと、俺は一時期そう思っていた。
きっとアスナは泣き続けていたのだろう。
でも、今流れるこの涙は……もっと温かい別の涙だ。
俺もその涙をクラウンさんの前で流したから分かる。
だから、もっと泣いたらいい。
その分だけ……きっと……。
その時、レヴィがそっと……アスナの手を握った。
その瞳には微かに光るものが見える。
「帰りましょう。イストに」
「レ、レヴィさん……私……」
「私……あなたとお友達になりたいです」
レヴィ……。
「レヴィさ……はいっ……わ、私も……私もっ!」
「じゃあ、今からお友達だね……アスナ」
心配すること……なかったかな。
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「いやだから……」
「ロード様……駄目です」
「ロード……私がソファーで寝るから……」
「いやいやいや……」
その後、すっかり仲良くなった2人が楽しそうに話しているのを眺めていたのだが、段々と話がまずい方向に流れていった。
「ロード様……アスナを1人で過ごさせるおつもりですか?」
「そうじゃなくて……俺がアスナの部屋に行くから、レヴィとアスナはここで寝なよって言ってるだけじゃないか……」
「はぁ……駄目です」
なんでだよ……。
やれやれこいつ分かってないな……みたいな顔しやがって。
「いいですかロード様。我々はもう仲間なのです。仲間というものは、同じ空間で一緒に時を過ごさなければならないと相場が決まっています」
そうなんですか……。
「だというのに……あなた様はそれでもパーティの長ですか! 男ですか!」
いつになく燃えてますね……。
初めてレヴィに怒られた気がする。
これはもう……何を言っても無駄だな。
「分かった……だが、俺はソファーで寝る。それだけは譲らん!」
「む……むむむ……」
「レヴィちゃん……私は十分嬉しいから……」
「む、アスナがそう言うなら……許しましょう」
なんかしらんが許された。
今日寝られるのだろうか……俺は。
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「そうかイストへ……それがいいだろう」
俺達は陛下と共に夕食をとっていた。
見たこともない豪勢な料理が次々と運ばれ、そのどれもがとにかく美味い。
まぁ、レヴィの料理の方が美味しいとは、口が裂けても言えないけど。
「ええ。イストは既に無能と呼ばれる人への意識は変わっていますし、何よりも俺達の故郷ですから。アスナにはイストでゆっくりして貰おうかと」
「うむ……今アスナは魔法が使えないしな。共に旅をするのはかえって危険だろう。失った力を取り戻す方法があれば良いのだが……」
「陛下……私のことを気に掛けて下さり、ありがとうございます。でも、私は今……幸せですから」
「そうか……ならばよい。俺も生きていることに感謝せねばな。ありがとうロード」
「陛下、もう十分ですので……」
「うむ……して、ロードよ。イストに行った後はどうするつもりだ?」
「今のところは未定ですね。また情報誌を読み漁りながら、行っていない国へ向かおうかと」
無能と呼ばれる人を探し、それを助けることは続けたい。
後は竜族と魔族かな……あ、ティタノマキアもだな。
色々やることは多そうだ。
「そうか。こちらも何か情報があれば知らせよう。とにかく今日は休むがよい」
「ありがとうございます陛下。お言葉に甘えさせて頂きます」
世界の歪み……俺はまだほんの一部しか知らない。
もっと世界を知らないと……そして、俺に出来ることをしよう。
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「ご機嫌はいかがですか?」
「良い訳がなかろう」
いつものやり取りが彼らの間で交わされる。
やはり女はクスクスと笑った。
「で、何の用だ」
「1人気になる者が。名はロード=アーヴァイン……どうやら世界の理に気付いている様子だとか……」
その言葉に男の表情が変わる。
驚きつつも、まるでそれを称賛する様に。
「ほう……大したものだ。あれはそう簡単なものではないのだがな。1から2にすることは容易い。だが……1を生み出すことは誰にでも出来ることではない。それが出来るということは……」
「はい。恐らく神の力を」
その言葉に男の表情は更に変わる。
喜びと憎しみが同居したその表情に、女は内心恐怖を覚えた。
「そうか……そうかそうか……ククッ、見張っておけ。余が……余となるその日まで」
「かしこまりました……我が主よ」
世界の闇。
その元凶は闇の中で嗤う。
ただひたすらに……勝利を求めて。




