表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

548/551

第540話:歪な笑み

 

「うッ!?」


 ズィグラッドの足が、無意識に後ろへと下がる。

 今まで彼女から感じていた魔力とは全く違う、あまりにも異質なその魔力によって。

 それは無論、膨大でもあり、強大でもあった。

 だが、それよりも何よりも────


「な、なんと……邪悪なッ……」


 感じたのは深い闇。

 まるで、この世に存在するあらゆる悪意を詰め込んだような、そんな悍ましい何かが、彼女の身体から溢れ出していた。

 そして、戸惑う彼の前で、レヴィはすっと立ち上がった。


「ッ! あの傷で……」


 彼女は俯いたまま、だらりとぶら下がった左腕に顔を向けた。

 その直後、メキメキと嫌な音を立てながら、彼女の左腕がまるで糸で操られている人形のように、不気味で不自然な動きを見せ始める。


 およそ通常の人間の動きではないそれは、不規則に痙攣しているかのようで、ズィグラッドは思わず眉を顰めた。

 それに続いて今度は左足が同じように動き出し、やはり嫌な音を立てながら、気色の悪い動きを繰り返し行い続けた後、やがてそれらがピタリと止まる。


「……」


 彼女はやはり俯いたまま、右足1本で立ち、確かめるように左手を握ったり、膝を伸ばしたりした後、いつものように素立ちの状態へと移行した。

 ズィグラッドは、それをただ黙って見ていることしか出来ずにいる自分に気づいていたが、それでもなお足を前へと出せずにいた。

 奇しくも彼は、先程自分がしたように、得体の知れない初見の"もの"に対して、様子を見るという選択肢を選んでいたのである。


「……さて」


「ッ!」


 ズィグラッドは、反射的に構えをとった。

 俯いているせいで表情は見えなかったが、彼女の発したたった二言(ふたこと)で彼は理解したのだ。

 今、彼女が、とても怒っているということを。

 だが────


「ふっ……情けないのぉ」


 経験の成せる技か、雰囲気に飲まれかけたところで、ズィグラッドは今一度冷静に状況を整理し始めた。

 カサナエル、ギブライ、バーメディは抑えられている。

 南は報告がない以上、まだ突破出来ていないが時間の問題。

 東は不明。もとより除外して考えている。

 ロードの駒は抑え、味方と思われるドラゴンによる攻撃は継続中。

 レア本軍5万も、もうすぐそこまで来ている。

 結界も、"聞いていた通り"二段階目に入った。

 全て計画通り。

 全て予想通り。

 レアの勝利は、決して揺るがない。


「やはり、何も問題は────」


「クスッ……」


「……何がおかしい」


「くスくすクスクすクスッ……」


 じわりと濡れるような手のひらの感触に、彼の得物を握る手に力が入る。

 今までとはまるで違う彼女の雰囲気に、彼は背筋に嫌なものを感じていた。

 その時、彼女がゆっくりと顔を上げ始めた。


「ッ!」


 目と目が合い、彼は思わず生唾を飲み込んだ。

 白目は黒く塗りつぶされ、その中央に金色の瞳を輝かせたレヴィは、限界まで口角を広げた歪な笑みを浮かべたまま────


「はたして……どうでしょうか?」


 首を傾けながら、再び彼にそう言った。


「何を言っ……ッ!?」


 それは、一瞬の出来事だった。

 鋼が鋼を穿つような轟音が響くと同時、ズィグラッドは凄まじい衝撃を受け、その身体が一気に後方へと弾き飛ばされる。

 そして、なんとか踏みとどまった彼の足元には、十数メートルにわたって2本の轍が刻まれていた。


「なッ……なんッ……!?」


 防げたのは、まったくの偶然だった。

 レヴィの言葉に困惑し、左手に構えていた斧を"たまたま"身体の前に下ろしたその刹那、レヴィの放った右拳がそれに当たり、斧ごとズィグラッドを吹き飛ばしたのだ。


「ッ!? ば、馬鹿な……!」


 ズィグラッドは、驚愕を禁じ得なかった。

 まったく見えなかったその速さもさることながら、刃から持ち手まで全て鋼で作られた巨斧の腹に、深々と拳の跡を刻みつけたその膂力に。


「……おや? どうされました? そんな遠くに行ってしまって。クスッ……クスクすくスッ……」


 「……ッ!」


 ここにきて、ズィグラッドは完全に理解した。

 今、彼女は、先程とは全く別の存在になったのだと。


「さて……ガラドボルク様」


「ああ」


「なッ……!」


 レヴィに集中していたせいで、彼は全く気づいていなかった。

 すでにガラドボルクが、第3遊撃隊の5名を討ち倒し、彼女のすぐ側にいたことを。


「あ、あやつらをこの短時間で……ちぃッ……最強の駒か……!」


 伝説の武具たちにとり、何をもって最強とするかは一概には言えず、その定義は甚だ難しい。

 だが、白兵戦におけるガラドボルクの戦闘能力は、ロードが所有する伝説の武具たちの中でも最強格と言って差し支えないだろう。

 そして、彼の力ならば────


「あのドラゴンどもを頼みます。アレに対応出来るのは、現状あなた様だけです。追加もあり得ますのでご留意を」


「心得た……が、いけそうか?」


 普通に話してはいたが、レヴィはズィグラッドの方を向いて笑みを浮かべたままである。

 微かな不安から、ガラドボルクはそう問いかけた。


「……お気遣いありがとうございます。ですが、以前の私とは違いますので。アレは、私が倒します」


「了解した……武運を祈る」


「ええ。あなた様も」


 両者は、走り出したガラドボルクを目で追うこともせず、互いに相手を見つめたまま向かい合う。


「ぬんッ!!」


 ズィグラッドは1つ息を吐いた後、再び己の細胞を全て極限まで引き上げる。

 いかに異様で、不気味で、悍ましくあろうが、現状レヴィを抑えられるのは自分しかおらず、そして彼女を殺さなければならないという考えが、やはり間違っていなかった以上、全力でそれを遂行することを改めて決意したのだ。

 そうして、彼はレヴィに向けて足を踏み込────


「よろしいのですか?」


 その言葉に、ズィグラッドの動きがピタリと止まる。


「……何がじゃ」


「いえ……あなたの後ろが、なんだか大変なことになってるみたいですけど」


「後ろ? お主……何を言って────」


『か、閣下ッ! どうか……どうか応答をッ!』


「なッ!?」


 ズィグラッドが髭に仕込んでいた、魔力を込めたままの通信魔石から、彼の補佐官であるロフェンの悲鳴にも似た叫び声が聞こえ、彼は慌てて通信魔石に手をかざした。

 通常、発信はズィグラッドからのみとしており、本部から彼への連絡は禁止されている。

 ただし、本部が危機的な状況にある場合を除いて。


「何があった!」


『か、閣下! 本軍の統率が急にッ……指揮体系がめちゃくちゃになっているんですッ! そのせいで、部隊同士の衝突事故が連鎖的に拡大ッ……収拾が全くつきません!』


「な、なんじゃと!? あり得ん……何故急に……!」


『分かりません! 本当に突然……あ、い、いや! それよりもッ! 諸国連合軍が何故か我々を攻撃し始め────』


「……ロフェン? おいロフェンッ! ぬぅッ……!」


 突如として通信が途絶え、思わず振り返ったズィグラッドの視線の先に、信じられない光景が広がっていた。


「……馬鹿な」


 そこには、レア本軍を両側から挟むように攻撃する、諸国連合軍の姿があった。


「クスッ……」


 背後から聞こえてきたその笑い声に、ズィグラッドは憤怒の表情を浮かべながら振り返った。


「くすクスくスクすクスクスくすくスクスッ……」


「貴様……何をしたッ!」


「おや……"貴様"ですか……ふふっ! ああ失礼……でも、ふふふっ! お、おかしくって……あはっ……あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」


「……ッ!」


 狂ったように笑うレヴィに、ズィグラッドは困惑を隠せずにいた。

 確かに彼女は笑っていた。

 しかし、その金色(こんじき)に輝く瞳は、一切笑っていなかったのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ