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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界

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第539話:イメージ

 

 ケニシュヴェルトが消えた際、つるぎの姿に戻ったのを当然ズィグラッドも目にしている。

 だが、あえてここでは触れなかった。

 それは、能力の詳細は分からずとも、そういうものだとさえ理解していれば問題ないからに他ならない。


 彼にとって重要なのは、今現れたガラドボルクが、ケニシュヴェルトに代わって出てきた存在ではなく、初めからいたかどうか。

 そしてそれは、ロードが未だに姿を現さないことと、狼狽するレヴィの様子から明らかであった。


「……まぁ、長々と語りはしたが、結局のところ実に簡単な理屈じゃ。あのロード=アーヴァインが……成長しないはずがない。ただ、それだけのことじゃよ」


 そう。ロードの生命魔法は、未だ成長過程にあった。

 この1年で魔法のレベルも上がり、さまざまな制約が緩和され、新たな力も手にしている。

 生命魔法の対象が増えたこともその1つであった。

 ズィグラッドは、彼がまだ若く、魔法もまだ発展途上であると読み、その伸び代を想像したのだ。


「故に、ワシには予測がついておった。この土壇場で、5人目が出てくることを」


「くッ……」


 出てくるならば2台目。

 基本的に、人は初めて見たものに対し、いったいそれがどういったものかを判断するため、様子を見ようとする傾向にある。

 そして、その強力な一撃を目にし、それが危険なものであることを理解して初めて、同じものが再び現れた時に回避行動を行う。

 ズィグラッドは、間違いなくそうなるという確信を持ってそれを送り出していた。


 2台目は、本物に似せて作った偽物。

 小さな魔石を使用し、まっすぐ走るという能力だけを組み込んだ、他には何もないただの動く箱である。

 そして、その箱の中には────


「……謀られた、というわけか」


 第3遊撃隊の5名が、彼を囲うように立つ。

 箱から飛び出した彼らは、ズィグラッドの指示通りに行動し、彼を抑える役割を遂行しようとしていた。

 当然、全員が国を代表する実力者たちである。


「これで駒は抑えた。じゃが、まだいるやもしれん。ならばどうするか? ……ワシならこうする」


 彼が合図をした直後、同じものが10台現れる。

 そして、全てがゆっくりと走り出した。


「うぅっ……!」


 もはや、レヴィにはそれを眺めることしか出来なかった。

 ガラドボルクもまた、5人が邪魔をして手が出せない。

 そうして段々と速度を上げ、10台はそのまま同時にベンディゴの結界へと直撃した。


「……ッ!」


 そのうちの1台が再び凄まじい大爆発を巻き起こし、その衝撃波が戦場へと広がっていく。

 やがて噴煙が消えるのとほぼ同時に、ベンディゴの結界が消え────


「……ほう」


 その時、消えかけたはずの結界が、力を取り戻すかのように再び展開される。

 ベンディゴ自体の結界は消滅したが、事前に仕込んでいたティーターン本国の結界が代わりに発動したのだ。

 だが、危機的状況であることに変わりはなかった。

 これはあくまで緊急措置であり、ティーターンの結界が肩代わり出来るダメージはそう多くはない。


 加えて、レヴィたちベンディゴ側からからすれば、あの爆弾が何発あるかも分かっておらず、そもそもレア本軍がもうすぐそこまで迫っていることを考えれば、あくまで一時の猶予を得たに過ぎなかった。

 それでも、ズィグラッドの計算が多少狂ったことに間違いはないだろうと、レヴィは彼の様子を伺うが────


「えっ……?」


 その時、彼女は確かに見た。

 ズィグラッドが、満足そうな笑みを浮かべているのを。

 まるで、予定通りとでも言わんばかりに。


「6人目はいなかったようじゃのう。まぁ、それが分かっただけよしとするか。本軍もまもなく到着することじゃし、どちらにせよ結果は……んん?」


 何かに気づいたズィグラッドの視線は、空へと向いていた。

 そして、レヴィもそれに気づく。

 ベンディゴから見て北東の方角から、大量の翼爪竜種(ワイバーン)が飛来して来るのを。


「……なんじゃあ?」


「くッ……こ、このタイミングで……!」


 多少困惑するズィグラッドとは違い、レヴィはそれが意味するところを瞬時に理解していた。

 そして、20頭ほどの翼爪竜種(ワイバーン)は彼女の想像通り、道中にいる人間たちには目もくれず、ベンディゴへ一直線に向かうと、そのまま結界を激しく攻撃し始めた。


「あー……なるほどの。東にいたアレか」


 ズィグラッドは、東の戦場はレア王直属の部隊が指揮をとっていると聞いていた。

 彼は当然知らないが、要するにそれはティタノマキアのことである。

 フェイクの複製たちが北東から飛来したのは、単純にティアを避けるためであった。

 ティタノマキアもまた、彼女の力を恐れたのだ。


「ふん……多少は役に立つみたいじゃのぉ。これならば、もうく必要はあるまい。さて、長々と待たせてすまんかったな。今……楽にしてやろう」


 ゆっくりと迫るズィグラッドに、レヴィは必死に立とうとする。

 しかし、身体は言うことを聞かない。


「ふーむ、そうじゃな……やはり、まだ殺すのはやめておこう。ロード=アーヴァインが出てくるやもしれんし、人質にでもしてみようかのぉ。少なくとも大事な部下じゃろうし、もし仮にお主らが良い仲であれば、実に効果的じゃ。とりあえず動けぬよう……砕いておこうか」


「ぐッ……」


「磔にして、ロード=アーヴァインの眼前に晒してやろう。きっと……喜ぶじゃろうて」


 ズィグラッドは、そう言って笑みを浮かべる。

 レヴィ自身に恐怖はない。

 正直な話、彼女は自分がどうなろうとどうでもよかった。

 彼女の全ては、ロードのためにあった。

 彼女の"今"は、そのためだけにあった。


 ふと、彼女は魔王ゼノに捕らえられていた時のことを思い出す。

 あの時も、ロードはボロボロになりながら、自分を助けてくれた。

 もし仮に、今またそうなれば、彼はまた同じようにするかもしれない。

 自分を助けるために、あらゆる犠牲を払うかもしれない。

 その結果、彼の道が絶たれるかもしれない。

 ────全て、自分のせいで。


「……それだけは、絶対にだめ」


 彼女は、心の中にある鍵を取り出す。

 これはイメージ。

 力を解放するトリガー。

 この1年の間に会得した、魔王の力を引き出すための儀式である。

 そして、鍵を使って開けた扉の先には、光の全く見えない闇が広がっていた。

 だが、よく見るとその足元に、微かに階段のようなものが見える。


 そうして、階段を1つ下りる度に、身体の奥底から力が湧き上がっていくのを彼女は感じていた。

 その力を得ながら、ゆっくりと、確実に、彼女は階段を下っていく。

 やがて奥底まで辿り着くと、目の前にやけに古びた、しかしながら荘厳で、自身の身の丈の何十倍もある巨大な扉が現れる。

 まるで何千年も閉ざされたままのような、悍ましくも美しいその扉。


「……ロード様、お赦しを」


 ────そして彼女は、そっとそれに触れた。


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― 新着の感想 ―
まったくドンだけ待たせるのですか?さぁレヴィたんフルボッコですよ~Σb( `・ω・´)グッ
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