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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界

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第537話:攻城兵器

 

 彼がそう叫んだ次の瞬間、レヴィの視界が鉄の色で埋まる。


「ッ!? くぅッ……!」


 まさに間一髪。

 つるぎの先端が額に触れる寸前、頭を右に傾けながら、身を捩ってその打ち込みを回避したが────


「うッ!?」


 ズィグラッドの放った一撃が、そのまま大地へと触れた刹那、凄まじい衝撃波が彼女を襲う。

 巨大な破壊音とともに、レヴィは十数メートル吹き飛ばされるが、なんとか空中で体勢を立て直し、両足で地面に着地しながら前向いた彼女は、その光景に愕然とした。


 自身が先程までいた場所に、巨大な穴が開いていた。

 およそ人間の膂力では成し得ないであろうそれは、そのままズィグラッドの力が人智を超えていることを表していた。

 直後、舞い上がる土埃を切り裂いて、ズィグラッドは凄まじい速度で彼女へと迫る。


「はぁッ!」


 それに向け、レヴィは渾身の魔力弾を3発放った。

 それぞれが別の軌道を描き、ズィグラッドへ向けて飛んでいく。

 しかし、それらに対し、彼は避ける素振りを一切見せなかった。


「なッ!?」


 避けも防ぎもせず、直撃を喰らったはずのズィグラッドであるが、まったくダメージを受けている様子がなく、その勢いは一切衰えない。


「ま、魔力耐性が異常にッ……くッ!」


 今度は透明な鎖を自身とズィグラッドの間に展開し、動きを抑えようと試みたレヴィであったが、やはりというべきか、ズィグラッドは全く意にも介さず、全てを薙ぎ払ってその大剣を彼女へと突き出した。


「ッ……!」


 それをかろうじて左に避けるレヴィに対し、すでにズィグラッドは大剣を引き、左手の巨斧を振り下ろしていた。

 今度は右に身体を振り、彼女はそれを紙一重でかわし────


「ッ!?」


 その瞬間、レヴィは背筋が凍りついた。

 かわした巨斧が、自身の真横でピタリと止まっていたのを目にして。

 凄まじい重量であろうそれを片手で振り回すだけでも脅威であるが、振り下ろした巨斧を途中で完全に停止するなどということは、通常ならば彼にも不可能。

 大抵は振り切った後、腕力だけではなく慣性を利用して次の攻撃に繋げる。


 だが、今の彼は人を超えた存在。

 彼にとり、重量が何百キロあろうが、それは子供が握る枝切れと同じ。

 故に、想像も出来ない動きを可能とする。

 ズィグラッドは斧を立てたまま、渾身の力を込め、レヴィ目掛けて斧を横へと振った。


 1秒にも満たない時の中で、その巨斧の腹による横薙ぎがかわせないことをレヴィは悟る。

 これが手首を返し、刃を彼女へと向けたものであれば、身を屈めて掻い潜ることも出来ただろう。

 ズィグラッドは、それを分かっていたのだ。


「ぎッ……うっ……ぁ……!」


 自身の左から迫る巨斧に対し、左腕と左脚を使って頭部と胴体を防御したレヴィであったが、その耳に己の骨が砕ける音が聞こえていた。

 次の瞬間、凄まじい力で横へと弾き飛ばされた彼女は、力なく地面に何度か叩きつけられた後、数十メートル先でうつ伏せに倒れ、そのまま動かなくなった。


「フー……終わりじゃの」


 確かな手応えに、ズィグラッドは1つ息を吐いた後にそう言った。

 何十年振りかも分からぬ本気。

 それを使わさせた彼女に、彼は敬意を表す必要があった。

 武器を肩に担ぎ、ズィグラッドはゆっくりと歩き出す。

 当然、レヴィへと向けて。


「ッ! お主……」


 彼の視線の先で、レヴィは右肘を地面に当て、顔を上げようとしていた。

 動かない左の手足をだらりと下げたまま、右足の膝を地面に食い込ませ、腹筋と背筋を使い、彼女は強引に身体を起こす。


「はぁッ……はぁッ……ま、まだ……!」


 右の膝と、伸ばした右腕で身体を支え、彼女は息も絶え絶えにそう言った。

 そして、その鋭く、狂気混じりの赤い眼光は、ズィグラッドに微かな恐怖を覚えさせた。

 その時────


「……ぬ?」


 ベンディゴを攻撃していたカサナエル軍が騒がしくなり、彼がそちらを向くと、ベンディゴから出撃した少数の軍勢が目に入った。


「ふん……なるほど騎馬隊か。多少は頭の切れる者がいるらしいのぅ」


「ごほッ……ア、アスナ……」


 その先頭を走るアスナは、1千の騎馬隊を率いてカサナエル軍の右翼から突撃。

 カサナエル軍は結界へ効率よく攻撃するため、横に長く展開していた。

 その防御力の薄さを利用し、アスナ率いる騎馬隊はカサナエル軍を次々に撃破。

 これにより、ベンディゴの結界への攻撃を遅らせることに成功する。

 だが────


「……ただの時間稼ぎじゃな。しかし、これ以上時間をかけるのも面倒なことになりそうじゃし、本軍到着までまだ多少かかる……では、そろそろ始めようかのぅ」


 髭に隠した通信魔石に、ズィグラッドは魔力を込めた。


「ああ、ワシじゃ……やれぃ」


「な、何を……」


「安心せい……すぐに分かる」


 その直後だった。


「ッ!? あ、あれは……!?」


 ベンディゴから数百メートル先、誰もいない戦場の真ん中に、突如として巨大な黒い鉄の箱が現れる。

 それは横幅、高さともに3メートル、長さが6メートルほどの長方形で、下には鉄で作られた車輪が6つ付いていた。


 まるで、馬が繋がれていない馬車のようだとレヴィが思ったその時、それが突然、ひとりでに走り出す。

 それは段々と速度を上げ、凄まじい速さでそのままベンディゴの結界に────


「なッ……うッ……!」


 触れた刹那、それは凄まじい大爆発を引き起こす。

 離れた位置にいるレヴィの顔に衝撃波が届くほどのそれは、真っ黒な煙と爆炎を100メートル近く上げ、轟音が全ての戦場へとこだまする。

 そのて、それにより結界が明確に歪み始めた。


「ふむ……次で割れそうじゃの」


「あ、あれは……いったい……」


「ワシが考えた攻城兵器の一種じゃよ。ま、本来は違う用途に使う予定だったんじゃが、制御がなかなかなに難しくてのぉ……ならばと、初めから壊れる想定で、自走、自爆する兵器としての運用に切り替えた、というわけじゃ。あ、作り方や中身は秘密じゃよ」


 正式名称、"自動走行式魔導装甲車爆撃型"。

 いずれ来るであろうティーターン本国攻略に向け、レアが開発した破壊兵器である。

 もともとは、積雪時に運用が難しくなる馬車に代わり、魔石を原動力とした新たな移動手段の確立、要するに通常の移動手段の開発が始まりであった。


 しかし、魔石の制御に難があり、ある一定の速度を出すと機体に大きな負荷がかかってしまい、大爆発を引き起こすということが多発。

 開発はそこでいったんストップしたのだが、その爆発に目をつけたズィグラッドが、そのまま兵器として運用することを決定し、仕上げたものがこれであった。


 長方形の箱の中には、中央に原動力となる魔力を溜めた人の頭ほどの大きさの魔石が鎮座し、周りには自動走行のための魔術回路と、爆発力を上げるための爆薬類が大量に積み込まれていた。

 そうして、一定の速度で走らせただけで魔石は臨界点を迎え、強い衝撃によって大爆発を引き起こし、敵に大ダメージを与えるという、単純かつ強力な兵器が生まれたのである。


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